2019年10月31日

10/31「洋酒天国」再び!

今日はお昼過ぎに国立に流れ着くが、疲労の蓄積がすぐさま足を駅に向かわせる。ほぉ!赤い三角屋根の駅舎が見事に復元され、優雅な姿を見せ始めているではないか!と感じながら中央線の人となる。だが途中、先頭車両辺りが、荻窪駅のホームに滑り込み始めた電車の車窓から、開店している「竹陽書房」(2008/08/23参照)が見えてしまったので、思わず途中下車してしまう。ほどなくしてお店にたどり着き、新潮社「現代脚本叢書 第三編 法成寺物語/谷崎潤一郎」を800円で購入する。大正十年刊の谷崎脚本集で、表題作の他に『十五夜物語』『春の海邊』を収録。そこからテクテク歩いて阿佐ヶ谷に帰り着き、思いついて再び「千章堂書店」(2009/12/29参照)店頭台の「洋酒天国」井戸(2019/10/28参照)を掘り進む。『SF特集号』以外にも、もう一冊欲しい号があったのを思い出したのである…目指すは26号。稲垣足穂のエッセイが掲載されている号である!掘り進む途中から、冊子が号数順に積み重なっているのに気付く…36,37,38…ありゃ、もう通り過ぎちゃってるなぁ…あ、でも、改めて23・24合併号が出て来た。ということは、,25…26号!あったぁ〜!セロファン袋から取り出しページを開き、足穂の見開きエッセイ『ダンセーニ卿の「酒壜天国」』(目次は“ダンセーニ”だが、本文タイトルは“ダンセニー”になっており、本文中では“ダンセーニ”となっている…)を確認。900円で購入する。そしてこの「洋酒天国」、目次部分に青インキの丸スタンプが捺されている。『阿佐ヶ谷トリスバー マン 一番街』…どうやら阿佐ヶ谷にかつてあったトリスバーで売られていたものらしい。それが地元の古本屋さんで、長い年月を経て売られているなんて、ロマンチック!とひとり興奮する。興奮ついでに、駅東の高架南側にある、闇市的雰囲気を素敵に引き摺る『阿佐ヶ谷一番街』に足を向け、「洋酒天国」を里帰りさせる。さぁさぁ、ここが、お前の故郷なんだよ!
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2019年10月30日

10/30古本屋さんからの絵ハガキ

お昼過ぎに上連雀に流れ着いてしまったので、この時間ならもう開いているなと、いつものように「りんてん舎」(2019/03/30参照)に足が向いてしまう。すると店頭箱を覗き込むと、たちまち四冊が腕の中に飛び込んで来た。創元社「シャガール自傳 夢のかげに/中山省三郎訳」現代思潮社「ニジンスキーの手記」(口絵モノクログラビアが豊富で嬉しい。晩年に部屋内で高く跳躍するあの写真も載ってる!)文藝春秋「夢の街 その他の街/小林信彦」(解説が野呂邦暢!)リブロポート「ワイルド・ウェスト物語/海野弘」を計440円で購入する。…ぬぅぅぅ、イカン。古本魂に火が点いてしまった…欲しい、古本が欲しい!もっと欲しい!…これはちょっとやそっとじゃ治まりそうにないので、思い切って保谷まで出ることにする。そう、保谷と言えば「アカシヤ書店」である。ほほぅ。今日は表のテーブルに、たくさんの児童学習グラビア雑誌「よいこのがくしゅう」(昭和五十年代)が積み重なっているなぁ、と興味深気に一冊一冊捲って行く。この鉄道特集の『ふろくずかん』は買っておこう…おや、変なものがその下から出て来たぞ。フライシャー兄弟の漫画映画を、英和対訳付きで絵本化した冊子である。これも買っておこう。続いて棚からは面白そうな日本の洋食器の歴史本と、おや!大正時代の「ホトトギス」!という感じで色々喜び、学習研究社「でんしゃがいっぱい」世界文庫「彩色長編漫画 ガリヴァー旅行記」(絵はバタ臭いが日本人が描いている)ほととぎす發行所「ホトトギス 大正十二年八月號」(表紙は小川芋銭だ!)叢文社「日本洋食器史 燕が歩いた六十年/捧吉右エ門」(著者献呈署名入り)を計440円で購入し、満足を得る。
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そして家に帰ると、ポストに一枚の古めかしい絵ハガキが舞い込んでいた。おぉ、これは熊本行でお世話になった「舒文堂河島書店」(2008/12/21参照)若旦那からの、礼状ではないか。古い古い、昭和十五年の参拝スタンプが捺された、阿蘇山の写真ハガキとは、古本屋さんらしい粋な演出である。
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2019年10月29日

10/29東京・吉祥寺『喜国雅彦のそれはオカズだ展』

朝から原稿を書き続け、一応すっかり書き上げて、一旦時間をおいて見直すことにする。昼食を摂った後外出。冷たい雨に上着を着込んで傘を差し、吉祥寺『リベストギャラリー創』で10/30(水)まで開かれている、本棚探偵・喜国雅彦氏の『喜国雅彦のそれはオカズだ展』を観に行く。人混みを擦り抜けギャラリーまでの道をたどりながら、「外口書店」(2010/02/22参照)を覗き、何も買えずに「藤井書店」(2009/07/23参照)まで行くと、残念ながらお休みであった…あぁ、そうだ。俺は古本を買いに来たのではなく、個展を観に来たのだ!と、古本への妄念を振り切り、北の対岸へ素早く渡り、傘をすぼめてギャラリーに飛び込む。おぉ、こんな雨の日なのに大賑わいである。入口で出迎えてくれたのは喜国氏の奥さまの漫画家・国樹由香さんの満面の笑顔。促されて芳名帳に記帳し、会場内に流れるバンド・大島渚のBGMを聴きながら、壁一面にズラリドバリと貼り出された、その下の台にもズラズラ置かれ並べられた「傷だらけの天使たち」と「悪魔のうたたね」の、赤黒二色の生原稿に熱い視線を注ぐ。原稿なので、誌面より遥かにデカイ!そして懐かしい!なのに面白い!やはり下品だ!と、つい、素敵にひねられたくだらないギャグにニヤニヤしてしまいながら、まるで一冊の漫画本を読むように展示を楽しんで行く。原稿はすべて販売されており、9900円(星印)6600円(無印)3300円(黄丸マーク)の値に分けられている(表紙絵やスペシャルカットや『館』シリーズのジークレ版画などは別値である)。大好きな漫画家さんの生原稿が手に入る機会など、そうあるわけではない…さ、3300円のやつから選んで買って行こうと、隅に貼られたもはや残り少なくなっている黄色いスマイルマークを目印に、原稿を吟味する。散々悩み、結果選んだのは『うたかた』である。同じ場所で、それぞれ待ちぼうけを食らった別々のカップルの男女が、その偶然の出会いをきっかけにデートしようとすると……結末が気になる方は、原典に当たってみて下さい。サブタイトルは『ふはははは あと5本描いたらローリング・ストーンズだ』となっている。90年の初来日公演あたりか…後五本、頑張れ!喜国先生!と過去の本棚探偵を応援しつつ、目の前にいる現在の本棚探偵に挨拶をし、会場を後にする。生原稿は紙物だ。これを買えば、今日はもう古本を買わなくとも大丈夫だろう。そう決めて、家路を急ぐ。
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家に帰って取り出して見たら、もっと大きく見えてくる生原稿(右下が個展の案内ハガキ)。そして本物の持つ力はやはり素晴らしい。それにしてもよくあんなにたくさん、ちゃんと保管してあったものだなぁ。
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2019年10月28日

10/28探していた「洋酒天国」!

昨日は夕方にブラリと地元の「千章堂書店」(2009/12/29参照)を何気なく覗く。店頭には、土曜日に終わった『阿佐ヶ谷ジャズストリート』仕様のジャズ専用棚が、まだ燦然と輝いている。いつものように均一文庫台を見て、均一単行本台を見て…おっ、中央の均一台の後に、大量の「洋酒天国」が重なっているのに気付く。どうやら三十冊ほどあり、値段は一律900円の適価である。以前から探している号があるので、もしかしたら…と丁寧に一冊ずつ掘り返して行く。すると十冊目くらいで、探し求めていた表紙にたどり着いた。洋酒天国社「洋酒天国 numero10」(昭和三十二年刊。編集兼発行人はもちろん開高健)…『ミステリー特集号』なのである。早速900円を支払い購入し、ようやくの出会いを記念して、お店の前で写真撮影。
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『アモンティラッドの樽/E・A・ポウ 谷崎精二訳』『顔を知られていない貴族/E・C・ベントリー 長谷川修二訳』『二人のピーター卿/D・セイヤーズ 黒沼健訳』の、ぶどう酒を扱ったミステリー三作を収録。なかでもベントリーは、江戸川乱歩推薦の初訳とのこと。すでにすべて読了してしまったが、柳原良平のそれぞれの作品のテイストに合わせたイカしたカットと相まり、お酒を飲みながらも楽しめる軽めの佳品たちであった。よし、次は『SF特集号』の「洋酒天国」を見つけるぞ!

本日は朝から仕事をタラタラ進めつつ、月曜定例午前十一時に家を出て、荻窪「ささま書店」(2018/08/20参照)を定点観測する。するとこの日の店頭は、早くも素晴らしき賑わいを見せており、何かあったのかと思うほど。岩波写真文庫「日本の映画」弓書房「一角獣・不死鳥・魔女/船戸英夫」をまだまだ5%引きの計210円で購入する。
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2019年10月26日

10/26今日の「よみた屋」は買えたっ!

久々と思える穏やかな秋の午後に、吉祥寺北町に流れ着く。吉祥寺北町と言っても随分広く、今いる場所はほとんどもう三鷹である。ならば「りんてん舎」(2019/03/30参照)に顔を出して行くかと『三鷹通り』を南へ下る。昨日の大雨のために、今日から開催の気分である『神田古本まつり』の午前十時スタートに駆け付けられなかった己を呪い、腹いせに店内でミステリー棚に目を血走らせる…よし、今日はこれを買って行こう。東都ミステリー「湖上の不死鳥/野口赫宙」を1650円で購入する。結局そのままテクテク吉祥寺まで歩き、つい先日来たばかりの「よみた屋」(2014/08/29参照)店頭にも、まつりに駆け付けられなかった思いをぶつける。すると店頭棚が、そんな虚しい気持ちに素晴らしく呼応してくれ、今日はなんだかとても買えるぞ!買えるぞ!とかなり興奮。店頭棚をバックにポーズをとりまくり、モデル風写真を撮りまくっている中国人女子二人を尻目に、恐らくファインダー内に見切れながら本をズバズバ抜き出して行く。木材新聞社「ジェットに乗って/国吉大」(昭和三十六年に派遣された『第一回日本航空 全日本産業人欧米視察団』の一人が書き上げたジェット機による世界一周旅行記)ガゼット出版社「ボクシング展望/川島清」(カバーナシ。昭和三十三年刊の、会話形式ボクシング啓蒙書)集英社「ニューヨークひとりぼっち ミュージカル留学記/松島トモ子」(水ヌレ痕アリ。昭和四十年再版。可憐な少女歌手の、まだこの時は将来ライオンやヒョウに襲われることなど微塵も知らぬ、無邪気なアメリカ見聞録。当時の音楽関連の話が面白い)福音館書店「かがくのとも170号 とんとんとん/あまのゆうきち さく」「かがくのとも201号 こんなおみせしってる?/藤原マキ さく」「こどものとも いかだはぴしゃぴしゃ/岸田衿子さく・堀内誠一え」を計990円で購入する。
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やはり嬉しいのは松島トモ子。寄宿舎のテレビで『エド・サリバンショー』に出るビートルズを観る話とか、ビートルズが来米し大旋風が吹き荒れる話など、時代性がたまりません。藤原マキの絵本も頬が緩む拾い物であった。…あっ、しまった!吉祥寺では本棚探偵・喜国雅彦氏の個展が始まってたんだっけ…寄ればよかった…ら、来週駆けつけることにしよう…。
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2019年10月25日

10/25「うつぎ書房」の行方を確認する。

昨日は上石神井に流れ着いたので、西武新宿線で帰路に着き、鷺ノ宮駅に降り立つと、自然と最近あまり開いていなかった妙正寺川沿いの「うつぎ書房」(2008/08/06参照)に足が向かってしまう。文庫とコミックとエロ以外にほとんど動きはないので、古本屋さんとしてそれほど好みではないのだが、それでもお店の動きが鈍くなると、気になって仕方ないのである。とぼとぼ歩いてお店に近付くと、おやおや、ちゃんとシャッターが開いている。良かった営業中だ。だが店内に電気は点いておらず、奥はかなり薄暗い模様。それでもせっかく足を運んだので、サッシ扉を開けて店内に滑り込む。入口近くの文庫やコミックは確認出来るが、やはり奥の不動の古書たちの背は、かなり読み難い。それでも一通り棚を見渡すことにする。店内の整頓は行き届いているが、なんでこんなに靴が多く蔓延っているのか!しかも上がり框下にまとまっているのではなく、そこかしこに!などと不思議に思いながら、玄関的古本屋さんをウロウロ。文春文庫「中野のお父さん/北村薫」を選び、丸見えの奥の住居空間に声を掛けると、「おっ、これは気付きませんでした。すみません」と長身の老店主が座敷テーブルを回り込み、ゆるゆると近付いて来る。なんだ、だから電気も暗かったのか。と300円で購入する。
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そして本日はヒドい雨の音を聞きながら、朝から懸命にお仕事。途中ちょっと古本の整理をしていると、角川文庫「ボロ家の春秋/梅崎春生」が出て来た。カバーがいい感じ…と思いつつ、何気なくそのカバーを剥がしてみると、驚くことに厚着本であった。帯とパラフィンだけの裸本角川文庫に、そのまま後刷りのカバーを掛けたものである。創元推理文庫以外にも、厚着本は存在したのか…。
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などなど色々やった後、雨と風が小康状態になった午後四時に駅頭で打ち合わせをする。超超スピードのカバーデザイン依頼だが、これはとても燃えるお仕事。家に帰るまでにデザインの骨子を固め、家に帰って机の前に座り、ゲラを読みむや否や早速デザインに取りかかる。……うむ、なかなか思った通りの、昭和三十年代スリラー小説風な、いかがわしいものが出来たぞ。と喜び、早速クライアントにラフを送付する。
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2019年10月23日

10/23東京・吉祥寺 mounga吉祥寺店

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午後二時過ぎに下連雀に流れ着いたので、井の頭公園周辺にやけに多い外国人たちと足並みを揃え、吉祥寺駅に向かって進んで行く。『吉祥寺通り』を歩き続け、北東へ進んでいた道が、北にグインと曲がり込み、すぐに『井の頭通り』が見える所で、予想外の古本に遭遇する。通り南側のビル一階には店舗が並んでいるのだが、そのうちの一軒が、アウトドア&登山&キャンプ中古用品のお店で(何と本店は奥多摩の御岳の麓にあるそうだ)、その店頭にワケアリ格安品とともに、鉄籠と木箱に入った二十冊ほどの古本も並んでいるのだ。慌てて近付くと、フフフ、見事に山と登山の本ばかりだ。店長さんの蔵書なのだろうか。値段はシールで表紙に貼付けられており、大体100〜300円である。せっかくばったり出会ったのだ、何か買わなければ…と、山と渓谷社「続山野いで湯行脚/美坂哲男」を選び、200円で購入する。その後は「バサラブックス」(2015/03/28参照)に立ち寄り、店頭雑誌カゴの脇に潜んでいた数冊の付録漫画本の中から、小学館「小学五年生」昭和三十年六月号付録「万次郎の冒険/木の実和(画)」を200円で購入する。そのままいつものように「よみた屋」(2014/08/29参照)に向かい、入口新書サイズ百均棚の下部に、番号の大きいポケミスがズラッと並んでいるのを目撃する。番号が大きいからって、おろそかにしてはいけない。そう思い、しゃがみ込んで細い背に目を凝らして行く。するとほどなくして、“日影丈吉”の文字が飛び込んで来た。やった!というわけでハヤカワポケミス「そそっかしい暗殺者/ルネ・レウヴァン 日影丈吉訳」を110円で購入する。今日も吉祥寺は、楽しい古本日和である。
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2019年10月22日

10/22昨日は大乱歩の誕生日。

雨降りの朝から仕事のための読書に埋没する。昼になって雨が上がり始め、皇居の方角から遠く響いて来る礼砲の音を耳にしてから、気晴らしに少し表に出る。ブラブラと、文字を詰め込んだ頭を冷やしながら、近所をウロウロ。高円寺「大石書店」(2010/03/08参照)でビニールシートを掛けられたダンダラ屋根の安売ワゴンに、先週に引き続き講談社のゴールド絵本が補充されているのを認める。シートを捲って手を入れ、「セロひきのゴーシュ/絵・黒崎義介 文・槇本ナナ子」を100円で購入する。帰りは高架下を伝い阿佐ヶ谷方面へ。潰れてしまってもぬけの殻の元『阿佐ヶ谷アニメストリート』を抜け、駅へ至る前に高架から離脱する。閉店した「穂高書房」(2019/09/17参照)の前を通りかかるが、まだ店内に本は、ギッシリ残されたままとなっている。…行方が気になるなぁ…。

そういえばボ〜ッとしていたが、昨日十月二十一日は、探偵小説界の巨人・江戸川乱歩の誕生日であった。もし生きていれば125歳か…いや、乱歩の探偵小説“魂”と探偵小説の“鬼”は、今でもそこかしこで、人の心の中に息づいているのだ。もちろんこの私の中にも。記念に何か珍しいものでもアップしておこうか…と思ったのだが、乱歩に関してはさして珍しいものなど持っていない。チープではあるが、河出市民文庫の学生サーヴィス版カバーが掛けられた「心理試験」(2016/11/21参照)くらいであろうか。そんな風に思いながら、机の前でふと目を上げると、そこには小さな乱歩の姿が…おぉ、そうか、これがあったか。壁に飾られているのは、随分前に思い切って購入した、人形作家で写真家・石塚公昭氏のオリジナルプリントである。仕事場の一角に雑然と収納された、乱歩人形・黒蜥蜴人形・二十面相人形・黄金仮面マスク、人間椅子、それに『三人書房』の模型看板などを写したものである。あぁ、これを疲れた時に見ると、乱歩世界がたちまち頭の中に立ち上がり、ニュルッと癒されるんだよなぁ。江戸川乱歩先生、125歳+一日の誕生日、おめでとうございます。
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2019年10月21日

10/21旅からたちまち日常へ。

昨日は荻窪の西にお昼過ぎに流れ着く。たちまち戻って来た日常を、旅を楽しんだこの身に味わいながら、テクテク歩いて西荻窪へ。あっ、古本も売っていたアイス屋さん「BOBOLI」(2012/03/07参照)が閉店している。表には不要品を並べ『ご自由にどうぞ』。古本も詰み上がっていたが、残念ながら雑誌やムック本ばかりであった。そこからゆるゆると緩い坂を下って「盛林堂書房」(2012/01/06参照)へ、店主・小野氏に「お帰り」と言われながら、出来上がったばかりの表紙周りを担当した「Re-Clam eX vol.1」を受け取る。うむ、ちゃんと格好良いぞ!そして続いて、こちらも出来立てホヤホヤの盛林堂ミステリアス文庫「大阪圭吉単行本未収録作品集3 沙漠の伏魔殿」を献本していただく。うひゃぁっ、大阪圭吉の本なのに、表紙絵がプリティーさマックス!「まるで「あらしの白ばと」じゃあないですか」というと「だって、『沙漠の伏魔殿』がそう言う話なんだもん」と小野氏。10/25(金)から、盛林堂店舗と『神田古本まつり』の盛林堂ブースで販売開始とのこと。首を長くして刊行を待っていた人は、万難を排してどちらかに駆け付けるべし!日本出版協同株式会社「深夜の告白(原題 倍額保険)/ジェームス・ケイン」と新刊の新紀元社「幻想と怪奇傑作選 特別収録同人誌「THE HORROR」全巻復刻/紀田順一郎・荒俣宏監修」を計2500円で購入する。帰りの道中で、ちょっと気を抜いて昼ビールを飲みながらテクテク。阿佐ヶ谷では「千章堂書店」(2009/12/29参照)を覗き、パロル舎「いやなことは後まわし/パトリック・モディアノ」を100円で購入する。続いて混雑している「ネオ書房」(2019/08/11参照)を覗くが、ぐるりと一渡り棚を見ただけで、何も買わずに出て来てしまう。すると後から帳場にいた切通氏の奥さまが素早く駆け寄り「あの…」と声を掛けて来た。一瞬勝手に『いや、万引などしていません』と妄想を膨らませて身構えてしまうが、「小山さんですよね」と言われ、正体がばれていたことにようやく気付く。色々勝手にお店を取り上げたことについて、身に余るお礼などを伝えられ、大変に恐縮してしまう。せっかくなので店内に再突入し、切通氏にも名乗りを上げてご挨拶する。突然の展開に、ビールと恥ずかしさで顔を鬼のように赤くしながら、少しお話しさせていただく。これからもちょくちょく寄らせていただきますので、引き続き面白い本を阿佐ヶ谷に供給、よろしくお願いいたします!そして本日は朝から仕事をバリバリ進めた後、午前十一時に家を出て、荻窪「ささま書店」(2018/08/20参照)を定点観測する。店頭で三冊掴み、店内の棚下平台ミステリゾーンに目を落とすと、おっ!講談社「黒い白鳥/鮎川哲也」の函の背が、ピカリと輝いている!抜き出し値段を確認してみたら、各安の千円だったので迷うことなく購入を決める。沖積社「夢野久作ワンダーランド」時事通信社「活字狂騒曲/倉阪鬼一郎」講談社現代新書「東京情報コレクション」とともに、嬉しい5%引きの計1360円で購入する。また、古本買いの日常が戻って来たことを、強く実感する。
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ほうほう、「黒い白鳥」の装幀は池田竜雄(龍雄)なのかぁ。
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2019年10月20日

10/20熊本〜島原〜博多・古本屋行 三日目

午前九時に隠れ家の宿をそっと抜け出る。本日は初っ端は所用のある岡崎氏とは別行動。曇りだが雨上がりの大通りを、大橋方面に向かって歩いて行く。午前九時十分、まだ静かに眠る「本々堂」に挨拶。
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背負ったリュックには、『鶴屋』の「本々堂」均一ワゴンから買った「虹男」が入っているのです。そんなことを思いつつ、テクテク歩き続けて行くと、妙に興が乗り始めてしまい、西鉄大牟田線に乗車することなく、午前十時半に天神までたどり着いてしまう…ゼイゼイ。やはり素直に電車に乗ればよかったか…。『警固神社』脇を通過しつつ、北の『親不孝通り』を目指し、トーク時にタレコミのあった『古本を売る立体駐車場』を探す。だが探し方が悪く、どうにもこれが見つからないので、泣く泣く諦め、急ぎ次の目的地を目指す。午前十一時、天神駅から地下鉄貝塚駅経由で、西鉄香椎駅を目指す。車中で「ゆがめられた昨日」を6ページだけ読み進む。黒人探偵、雇用主との距離感に四苦八苦している…事件以外にも、黒人故の境遇で業務でもなかな苦しむ探偵さんなのである。終点前に地下鉄が地上に出て、いつの間にか晴れつつある空から、明るい陽光が飛び込んで来る。乗り換えた西鉄貝塚線は、ヤクルト色に赤いラインの入った二両編成。貨物列車の通る博多臨港線としばし並走したりしながら、午前十時半に西鉄香椎駅着。そう、ここは、松本清張の名作推理小説「点と線」の舞台の一つとなる場所なのである!…あぁぁぁぁ、しまった。物語に沿うならば、本当はJRの香椎駅に行かねばならなかった事件の核となる怪しい二人連れのカップルは、国鉄香椎駅から西鉄香椎駅の方向に歩いて来るんだったぁ〜!思わぬ凡ミスを大いに嘆くが、もはや後の祭りである。仕方ない、ここはまず、事件の発端となる心中場所の海岸を見に行くことにしよう。そう決めて、駅から西へ西へと歩き始める。ところが、焦り過ぎて駅の地図などを確認して来なかったのがまずかった。行けども行けども集合住宅ばかりで、海も見えないし海の匂いもして来ない…これはまずい。こんなことで限りある時間を食っている場合ではないのだ…見知らぬ土地での手違いは、心に過剰なほど焦りを生み出していく…さっさと諦め駅方向に戻り、西鉄駅を通過してJR香椎駅へ…うぎゃぁ、な、なんだ、この巨大な駅は!
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もはや小説の面影など何処にもなく、『ずいぶんさびしい』と言われた駅前も、寂しさの欠片も見られない…あぁ、「点と線」の時代は、遠くになりにけり…。二人連れあ歩いたであろう駅からの通りも、ビルに挟まれた二車線の道路になっている。行く手の西鉄線路も、踏切ではなく高架に……砂を噛むように、虚しく香椎駅から西鉄線路に向かい、ゆっくり歩き、ただその距離感だけに小説の面影を追い求める…。
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鹿児島本線内で、昼食代わりのパンを齧りながら、博多に戻る。午後十二時二十分、地下鉄で六本松へ向かう。やることはやった。ここからは古本屋さんを目指して突き進むのみ。天神で七隈線に乗り換えようと、長過ぎる理不尽な連絡通路を(一キロくらいあるのではないか)歩いていると、岡崎氏から電話が入る。用事が無事に済んだので、合流できるとのこと。六本松駅で待ち合わせることにする。午後十二時五十分、六本松駅着。まだ氏が到着するまで間がありそうなので、目的店の裏路地にある「徘徊堂 六本松店」(赤坂の旧店については2008/06/29参照)を見に行ってみる。ところがこれが開いていない!うぎゃぁ!これはイカン。急ぎ岡崎氏にメールを送り、お店が閉まっていることを告げ、隣駅・別府(“べっぷ”ではなく“べふ”と読む)にある同じ「徘徊堂」の別府店で待ち合わせることにする。…ぐぅぅぅ、もういい加減古本禁断症状が発症し始めている…。地下鉄には乗らず歩き、別府団地沿いの小さな小さな商店ゾーンにあるお店前に到着する。うぎゃぁ、閉まっている!こりゃぁ、さらにイカンぞ…だが、入口のシャッターがちょっとだけ開いている。これはもうすぐ開くのかもしれない。ここは一旦駅に向かい、岡崎氏を出迎え、再びお店に舞い戻ることにしよう。その時にはもう開いているかもしれない。ということで岡崎氏と駅で落ち合い、氏に事情を説明して、ともにお店を目指す…だが、状況は変わらず、シャッターちょっと開き状態のまま。だが氏が「中にいるかもしれんよ」と、突然大きな身体を開いているシャッター部分に潜り込ませる。そして徐に入口木戸を開けたようで、何やら話し声が聞こえて来る。しばらくすると「いいで、入り」と氏の笑顔。
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同じくシャッター潜って中に入り込むと、店主と奥さまとプリティー過ぎる娘さんが、汗をかきかき、息を弾ません、店内溢れる古本の片付けに従事していた。実は岡崎氏と徘徊堂さんは以前からの顔見知り。そして明日に迫ったイベントのために片付けの真っ最中。うぅ、ありがとうございます。きっと一人じゃ、お店に入れませんでした。そして忙しいのに入れてくれてありがとうございます。とその場にいるみなさんに感謝する。店主や奥さまや、あまつさえ小さな娘さんとも話を弾ませるお世話になった岡崎氏をよそに、早速古本を見まくって行くことにする。店内は横長で、右に絵本や児童文学や暮らしが集まり、中央に文庫や新書、そして左に文学・美術・歴史・郷土(夢野久作あり!)・サブカルなどが集められている。ギロギロと飢えた視線を四方に放ち、久々の獲物を追い求める。その合間に、娘さんが蚊が帳場近くにいることを報告したり、奥さまが「音羽館」と「汽水社」の匂いは同じで石鹸と炭を調合した芳香剤らしい(そう言えば、「コンコ堂」も「水中書店」も似た匂いがする。あれを、芳香剤の匂いと思ったことは一度もなかった、ただ古本と本棚の匂いだと思っていた…と、奥さまの斬新な視点に感心する。もしかしたら「音羽館」広瀬氏が、店員さんがお店から独立する際、秘伝として伝えているのかもしれない…)、などの楽しい話が耳に飛び込んで来る。研究社「わたしのなかの童話 随想集」を500円で購入する。すると店主さんが「六本松の方も見てみますか?」と嬉しい申し出をしてくれた。もちろん一も二もなくお願いすると「もう一年は開けてないんですよ。でも、なにもないですよ」と謙遜。だが、古本修羅の常として、未知のお店に対する期待は、そんな謙遜の言葉では揺るがない。お店の自転車を総出で借りることになり、何故か娘さんも「アタシも行くぅ〜!」と同行することになり、都合四台の自転車が、六本松店に向かって疾走することに。まったく、人生は何が起こるか分からないなぁ〜、あぁ楽しい。
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ほどなくして十分ほどで、先ほどシャッターに弾かれたばかりのお店に到着する。その憎いシャッターがガラガラと上げられたので、遠慮なく店内に踏み込むと、おぉ、そこは本だらけの空間!
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足の踏み場がかろうじて残る、古本に満たされた空間!ここは店舗として入れるのは右側部分の四本ほどの通路で、帳場を境に後は広大なバックヤードとなっているのだが、そのほとんどの通路に古本が積み上がり、入れぬところがほとんどとなっている。現在店舗部分で見られるのは、入口付近と右端の通路二本のみ。だがそこも、かなり険しい状況になっている。まだ見られる棚部分を見て行くと、文庫本・児童文学・ジュブナイルミステリ・映画・サブカル・詩集・文学・ミステリなどなど…別府店よりマニアックドが深く、古書も多いのが嬉しい。しばらく手の届くところを可能な限り検分し、二冊を選ぶ。文藝市場社「ナポリの秘密博物館」(函ナシ)児童憲章の会「学習図鑑 宇宙旅行」を選ぶ。「宇宙旅行」の方は値段が付いていなかったので「お幾らですか?」と聞くと「うぅぅぅ〜〜〜〜〜ん、いいところを選びますねぇ。くぅ〜〜〜」と盛大に悩んだ挙げ句「千円でどうですか」「ではそれで!」と計1500円で購入する。ここは、福岡に来ることがあったら、また来よう。そして開いてなくても、どうにかして開けてもらおう!あぁ、最後の最後で、何だかいい思いが出来ました。ありがとうございました!お店の前で、可愛く小さな手を降る娘さんに見送られながら、駅方面へ。『シアトルコーヒー』でしばらく身体を安め、午後四時過ぎに空港へ向けて出発。賑わう空港では、羽田空港の混雑により出発の遅れた飛行機にようやく乗り込み、午後五時五十分に福岡を離陸する。飛行中も静岡上空で待機させられたりしながら、長くなるフライト時間を有効活用すべく、読書灯を点滅させ「ゆがめられた昨日」を読み続ける。はめられた黒人探偵は、身の証を証明出来るのか…クライマックス直前の午後七時三十五分に羽田着。リムジンバスで帰るという岡崎氏とはここで別れ、ひとり電車を乗り継ぎ阿佐ヶ谷を目指す。もちろん車内では読書の続きを。すると高円寺駅で読了。旅の終わりと物語の終わりがが見事に重なった、カタルシス溢れる瞬間をこの身に味わう。そして、ハヤカワポケミスは、その名の通りポケットにスッと入って、スッと取り出せるから、至極便利な形態だなと感じた、長旅でもあった。下の写真はこの旅の収穫である。
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10/20熊本〜島原〜博多・古本屋行 二日目

曇り、気温二十度。午前九時半に岡崎氏とロビーで落ち合い、まずはお世話になった「舒文堂河島書店」さんに挨拶に向かう。すると閉まったガラスアコーディオンシャッターの向こうには、ミーティング中の若旦那の姿が。しばし店頭で開店を待つ。
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やがて開店作業に取りかかった御大にも挨拶。先年の大地震で、土地が少し隆起し、シャッターが開き難くなったことや、店内後部の和本ゾーンは、昔の店舗を柱や梁をそのままに移築したことなどを教えられる。さらには若旦那の案内で、めったに見られぬ店奥の中庭に入れてもらい、柿の木を見上げた後、庭奥の昔から残る家屋など見せていただく。
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玄関に掛かる大昔のぼんぼり風看板が印象的であった…というか、これ、欲しい!
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お世話になったお店を離れた後は、まずは岡崎氏のリクエストで、小泉八雲旧居を見に行く。手製の詳細な説明パネルが迫り来る日本家屋を堪能。中でも『熊本善意銀行』から寄贈された、数種類の八雲全集を並べた古い本棚が素敵であった。
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午前十時二十六分、水道町から可愛い一つ目の路面電車・熊本電鉄に乗り込み、ガタガタチンチン熊本駅まで揺られる。分厚い木板の床が無性に懐かしい。
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午前十時五十分、熊本駅着。ここから岡崎氏がアグレッシブに活動し始め、熊本港から出ている島原行きのフェリーと連動している無料バスの席を、予約もしていないのにどうにか確保。駅構内の「ふく泉」で美味しい丸天うどんを啜ってから、そのバスに乗り込み熊本港へ向かう。市街を離れると、農地がただただ広がるだだっ広い南の大地である。三十分ほど走り、港に到着。バスの中でフェリー到着を待機し、長いスロープを上がり、三階ほどの高さから『九商フェリー』に乗船する。このフェリーは最上階の客席以下が車両の格納スペースになっており、遥かにそちらの方が利用客が多かった。午後十二時二十五分に出港。海の男たちのテキパキした正確で危険な出港作業を感心して眺めていると、古いフェリーは、どんよしりした粘土色の海に白く泡立つ軌跡を描いて、ズンズン進み始める。離れ始め、やがて霞んで行く熊本。フェリーには常に可愛過ぎるカモメたちが並走し、近距離で滑空しながらエサを強請り続けている。
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一時間ほどの航海で、島原港着。雲仙の山々が猛々しく聳え、その足元に町が広がる奇観に、しばし圧倒される。だが港町に人影は少なく、侘しく寂れている。二人で顔を見合わせ「スゴい所に遥々来たなぁ〜」と旅情を盛大に感じ取る。近くには案内版も何もないので、勘を頼りに島原鉄道の島原港駅まで歩いて移動する。踏切の向こうに現れたのはさらに鄙びた感を加速させる、単線ディーゼルカーの終着駅であった。
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ここから十分ほど鉄道に乗車し、島原駅で下車。待望の古本屋さん探しに取りかかる。駅舎は屋根の両側にしゃちほこも備える、本格的なお城スタイルである。その屋根の下を離れ、折り悪く雨が降り始めたここも寂しい町を行き、まずは「吉四六」というお店を目指す。だが、当該住所には、お店など影も形も見えなかった…。念のため島原城沿いも探索してみるが、猫がたくさん棲みつく古民家を見つけたくらいで、成果ナシ…。雨が酷いので一旦駅へ引き返し、もうひとつのちょっと駅から離れたお店「月光堂」に岡崎氏が電話を入れる、もし営業していれば、レンタサイクルを借り、駆け付けようと言う算段であった。だがお店は現在はネット中心で、本も見せられないということで、けんもほろろに断られてしまう。あぁ、これにて島原古本屋さん探索、あえなく終了…しばし駅横の瓦屋根の重厚な自転車置場を眺め、無聊を慰める。
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だが今は、ここで挫けている訳にはいかないのだ。今日の宿泊地は博多近辺なので、夜までには電車を乗り継ぎ、そこまで移動しなければならない。というわけで、早々に午後三時十四分の島原鉄道に乗り、博多へと向かうことにする。岡崎氏が手に入れた、ちょっと旅費が安くなる『二人きっぷ』を握り締め、有明海と古く鄙びた土地が連続する車窓を眺め、まずは終点の諫早へ。
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午後四時二十分に到着した諫早は、さっきまで居た寂し気な島原と比べると、恐ろしいほどの大都会である。ここでJRの特急かもめ30号に乗り換えつつ、一瞬だけ野呂邦暢の故郷に足を踏み入れたことに小さく感動する。自由席に席を確保し、ここから博多駅まで猛スピードで一直線。少しだけ「ゆがめられた昨日」の続きを13ページ読む。主人公の黒人探偵『トゥセント』は、地味な尾行をこなし、慣れない業界人パーティーに激しく戸惑っている…。午後六時十五分、博多駅着。乗物に乗っているだけで、すっかり疲れてしまった。だが宿は、中心街から離れた、井尻という駅近くにとっているのだ。夜の博多は、東京並みの帰宅ラッシュを見せている、人波を掻き分け掻き分け、慣れない電車を必死に乗り継ぎ、午後六時半に井尻駅着…乗物に乗りまくった一日であった…しかも古本屋さんには行けず終い…。そして大きな道路沿いにに探し当てた宿泊場所は、ワンルームマンションをありのままにホテルとしている、恐ろしく場末感が充満した建物であった。…こ、ここまでとは…ここを予約したのは私なので、岡崎氏に恐縮することしきり。だが氏は優しく「いや、こんあところに泊れるのは貴重やで。面白いなぁ〜」と面白がってくれた…うぅ、すいません。受付には誰もいなかったが、やがておば様が車で駆け付け、一階のワンルームフロントで受付を済ませる。その際おば様は、近所の激安食べ物屋を何軒も何軒も紹介してくれた…ホテルの説明そっちのけで…。階段を上がってお互いの部屋に向かい、住居そのままの古い鉄扉を開ける。なんだか、逃亡犯が身を隠すような宿なのである。旅情とは別の侘しさが、胸の内に込み上げて来る。荷物を整理してから、氏と近くの中華屋に晩ご飯を食べに行き、陽気過ぎる台湾娘の接客を受ける。黒チャーハンと生ビール。料理は美味であった。ホテルに引き返し、しばし岡崎氏とテレビを見ながら部屋飲みする。
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深夜、車の音、何故か定期的にユサっと揺れる建物…寝ながらも侘しさを深めて行く…。
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10/20熊本〜島原〜博多・古本屋行 一日目

午前八時過ぎに家を出て、地獄のような満員電車を乗り継ぎ、曇り空の羽田空港へ。『保安検査場』では、上着も脱いで調べられるようになったことを初めて知る。搭乗口ロビーで、三日間旅を共にする岡崎武志氏と合流。遠くからこちらの姿を見つけ、大きく手を振っている。口では「電車だけでもう疲れたわ。帰りたいわぁ〜」などと言っているが、その瞳は熊本行きの飛行機を見つめ、小さく燃え上がっている。フライトはおよそ一時間半。機内ではハヤカワポケミス「ゆがめられた昨日」を読み進める。田中小実昌の読みやすい訳文に引き込まれ、パラパラとページが捲れて行く。『簡易食堂』のルビが『キヤフテリア』とはイカしてるな。黒人の主人公が、私立探偵を続けるか、安定のために郵便配達夫になるか、悩みに悩んでいる58pまで。正午に“火の国”熊本に到着し、今回我々を東奔西走して呼んでくれた「舒文堂河島書店」(2008/12/21参照)の若旦那に出迎えられる。駐車場でしばし舒文堂号を見失う微笑ましいハプニングもあったが、無事に車は市内に向かって突き進み、午後一時に市内『上通り』に到着する。雨が落ち始めているが、まずはお店に向かいつつ「汽水社」さんに挨拶をする。その昔、よく「なごやか文庫」の古本市の開始待ちの列で、お会いしたものである。後でまた見に来ることを約束し、まずは昼食を摂る。近くのラーメン屋さん『こむらさき』で、あっさりクリーミーとんこつの『王様ラーメン』+餃子を美味しくいただく。さぁ、お腹が満ちたら古本屋さんだ!と、仕事に戻る若旦那と一時別れ、この『上通り』のアーケード無し部分に集まる三軒のお店に向かう。まずは新進気鋭の、先ほど挨拶を済ませた「汽水社」へ。
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縦長で奥深く天井が高く、洒落た空間である。各ジャンルは品揃え&棚造りしっかりで、マイペースな雰囲気と若めの傾向がこの街ではなかなか新鮮な印象を受ける。奥のカウンター前のレコード軍艦島が異彩を放つ。他にも張り子の人形や、アンティークなショウケースや、オバQの鉛筆削りや、崎陽軒の醤油入れ『ひょうちゃん』などが売られている。散々何を買おうか悩んだ挙げ句、初っ端なのに古本ではない、件の醤油入れを500円で購入する。だがこれは、スタンダードな横山隆一作ではなく、何と原田治の絵入りなのである。うぅむ、これは嬉しい。こんな奇妙な物が出ていたのか。ミスマッチも甚だしいところが、全く持って愉快愉快。続いて「天野屋」(2008/12/21参照)に向かい、雑然とした空間と、頻出する古書をウハウハ楽しむ。
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ボール紙表紙本、おぉっ!九鬼紫郎の時代物!渡辺啓助!などと目の保養を済ませてから、河出市民文庫「上林暁集/山本健吉編」を300円で購入する。熊本に所縁ある作家の本が早々に買えたのが嬉しく、ちょっとした役目を果たした気分になる。「ちょっと地元喫茶店に入って一休みしよう」と岡崎氏が提案。賑やかなアーケードの下に入り、地下の喫茶店『珈琲人』に腰を据える。金沢碧のようなご婦人が一人で優しく切り盛りしているお店である。心と身体を小休止させた後に、「舒文堂河島書店」へ。
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来るのは三度目だが、相変わらず豊かな古本屋さんである。店頭+店内前部+店内中央部+店内後部と、まるで四つの異なるお店が連結しているような豊潤さなのである。特に熊本の歴史郷土関連はピカ一。店内前部の棚から、戦前の子供雑誌「幼年倶楽部」などからセレクトした物語をハードカバー合本にした私家本を千円で購入する。その後は近くのホテルにチェックインし、またも一休み(ちなみにこの間、岡崎氏はビールを飲み、サンドイッチで腹ごしらえし、トークに備えていた…)。ベッドに寝転び「上林暁集」の『天草土産』を読む。おぉ、旅先で収穫の古本を読み耽る幸せよ…。午後五時半、ロビーで岡崎氏と落ち合い、アーケード街をそぞろ歩きで抜け、地元デパート『鶴屋』の本館6階で開催されている「第50回鶴屋古書籍販売会」に突入する。ダンス衣装売場と紳士服売場と分け合った場所に、40弱のワゴンを並べ、右と左で老舗と若手がせめぎ合う感じの中規模の古本市である。
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老舗の郷土本の強度も凄まじいが、若手のデパート古本市には珍しい均一ワゴンも魅力的。「本々堂」が出す200均のワゴンから、雄山閣出版「虹男/角田喜久雄」(箱ナシ)を220円で購入する。買物を無事に済ませ、連絡通路からトーク会場へ向かい、午後七時から岡崎氏と縦横無尽に古本屋さんについて話しまくる。いや、やくたいもない古本屋大好きオッサンたちのバカ話をご静聴いただいた、三十人弱の素敵なみなさま、本当にありがとうございました。
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打ち上げでは新鮮なお魚をたくさん食べつつ、「河島書店」御大&若旦那「エターナルブックス」さん「タケシマ文庫」さん「汽水社」さん「グエル書房」さん「古書ワルツ」妹さん(2010/09/18参照。実家が佐賀で帰省中だった)「西海洞」さんらとワイワイガヤガヤ。そしてなんと、北九州からわざわざ古本乙女・カラサキアユミさんも駆け付けていたので、場は更に無闇矢鱈と古本話で盛り上がる。カラサキさんからは、古本市でさっき買ったばかりの、昭和の地元商店広告の裏に丁寧に書かれ綴られた郷土士伝を見せてもらう。もちろん目的は郷土士伝ではなく、その裏の広告チラシたちなのである。相変わらず古本&紙物好きにメーターを振り切っていて、期待を裏切らぬ活躍っぷり。また「西海洞」さんからは、「紙物の山の中に入ってたんだけど…」と、突然古い平成八年の中学生の生徒手帳をプレゼントされる。中を開くと、名前がなんと“古本”さん。嬉しいけど、私はこれをいったいどうすりゃいいんですか!と苦笑しながらありがたく拝受する。
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2019年10月17日

10/17いざ熊本へ!

午前五時四十分起床。旅の準備をわちゃわちゃと進める。荷物は小さなリュック一つにまとめ、結局持って行く本は二冊にする。先述通りのハヤカワポケミス「ゆがめられた昨日/エド・レイシイ」と春陽堂文庫「メリメの手紙/平井呈一譯」。というわけで、これから一路羽田へ向かい、そこで岡崎武志氏と合流し、久しぶりに九州に上陸予定。それでは今晩の出張古本屋トーク、みなさまよろしくお願いいたします!
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■オカタケ&古ツアの古本屋を語り尽くす夜 in 熊本
■10月17日(木)19時より
■くまもと県民交流館パレア10階 第7会議室 熊本市中央区手取本町8-9
■入場無料・申し込不要
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2019年10月16日

10/16装幀:岸田衿子

日が短くなったのもあるが、朝から何だか薄暗い一日であった。夕方近くに国立近辺に流れ着くが、すぐに中央線に飛び乗り三鷹駅に向かってしまう。駅北口を出て北に進み、その道すがらビルの間の空を仰ぎ見ると、重そうな雲の所々に歪な穴が空き、青空がのぞいている…まるで忍野八海を地面の下から仰いでいるみたいだ…そんなことをぼんやり考えていたら、いつの間にか「りんてん舎」(2019/03/30参照)前。珍しく表では何も掴めずに、さらっと店内へ進む。各通路を楽しみながらゆっくり眺めていると、詩集の棚が凄みを増しており、ついつい真剣に一冊ずつ薄い背を追いかけてしまう。藤富保男の素敵なところが…古めの谷川俊太郎も…などとやりながら、さらに古い詩集ゾーンに差し掛かる。ユリイカ 双書 種まく人1「現代詩のイメージ/安藤次男」が献呈署名入りで三千円か…欲しいなぁ、読みたいなぁ…と目次を見ていると、あれ?この本、装幀が岸田衿子なの!?ぐわぁ、ますます欲しくなって来た…だが三千円はちょっと…あれ?端っこにもう一冊同じ本がある。急いで取り出してみると、こっちは献呈署名ナシで、カバーも痛み気味…だが、値段が千円!買います買います!というわけで1100円で購入する。
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思いっきりジャケ買いしてしまったが、最初の論考が志賀直哉の呪いから始まり、とっても面白そう!そんな風に思わぬ岸田衿子関連の一冊を入手し、足取り軽く「水中書店」(2014/01/18参照)へ。こちらでは店頭均一棚から抜き出した、自由国民社「一杯のむときの事典」を百円で購入する。
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表紙の清水崑の絵は何だかセクシー系だが、中身はすべてお酒に関する本。世界の酒場グラビアから始まり、各界通人百人がお酒に関するエッセイを寄稿(谷口千吉・佐野繁次郎・志村立美・北村小松・大下宇陀児・古川緑波・スタルヒン・村山知義・トニー谷・岡本太郎・三木鶏郎などなど、なかなかたまらないラインナップに加え、本文内のカットと漫画はすべて辻まことが手掛けている)と、興味津々読ませる内容。三鷹で途中下車して良かった!とニヤニヤしながら帰宅する。

ところで、ついこの間、岡崎武志氏と訪れたばかりの栃木の「吉本書店」(2010/12/25&2019/09/10参照)が、先日の台風十九号による水害に遭い、古本がかなり犠牲になってしまったとのこと。現在大変な片付けに追われているが、近場の古本屋仲間が力を合わせ、復旧に向けて奮闘の真っ最中である。だが実店舗は残念ながら、これを機に閉店されるらしい。ネットに上がった写真を見ると、もはや諦めざるを得ない、仕方のない惨状である。こんな閉店の仕方は決して本意ではないでしょうが、それでも長い間本当にお疲れさまでした。店番を続けてくれていた、ご高齢のお母さまにも感謝である。もちろん「吉本書店」自体は残り、ネット販売や催事は続けて行かれるので、今後ともバッタリ何処かでお見かけしたら、古本を購入していくつもりである。ファイト、吉本書店!
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2019年10月15日

10/15待ちながら古本と戯れた一日。

今日はデザイン仕事にかかりっきりになるつもりで、素材が到着したり連絡があったりを朝から待っているのだが、どこからも何の音沙汰もない…すべては俺の妄想なのか?と思うくらい未だに連絡がないのである。というわけでジリジリと家でじれまくっていても仕方ないので、野暮用を済ませがてら高円寺までテクり、古本屋さんを覗いて行く。「大石書店」(2010/03/08参照)では店頭ワゴンに講談社の絵本シリーズが出ていたので、何かあるかなと探ってみると、おっ!「ドリトル先生アフリカ行き/絵・矢車涼 文・土家由岐雄」が出て来たので、喜んで百円で購入する。ちょっとバタ臭いブタ鼻のドリトル先生だが、これはこれで人間臭くて味わい深い。あぁ、良い古本を安値で買えば、モヤモヤや杞憂が見事に霧散して行く。何という不可思議な精神安定剤か…そんなことを考えながら『庚申通り』を北へ進み、「DORAMA高円寺庚申通り店」では、朝日新聞社「村上朝日堂の逆襲/村上春樹・安西水丸」を110円で購入。何故か外国人客が店内ではしゃいでいる「古書サンカクヤマ」(2015/02/02参照)では、白川書院「聞書アラカン一代 鞍馬天狗のおじさんは/嵐寛寿郎+竹中労」を200円で購入する。そんな風に古本を買って過ごし、気分よく家に戻っても、仕事関連は相変わらず何の音沙汰もなし。仕方ないので押入れをちょっと掘り返して、一体何冊持っているのかと思ってしまう、野呂邦暢「海辺の広い庭」を見つけたりして、瞬間楽しむ。それに飽きたら、いよいよ後二日に迫った熊本行きのために、機中&車中読書のために持って行く本を選ぼうと大いに悩む。…ううぅ〜ん、そうだ!ここはタイちゃん(殿山泰司)の顰に倣い、旅先でもフハフハとミステリを読むことにしよう…となると、ポケミス辺りが最適か。そう決めて、何冊かのペーパーバック本を古本の山の中から掘り出す。よし、田中小実昌訳の「ゆがめられた昨日/エド・レイシイ」に決めた!まぁ、旅行中に読了出来るかは分からないし、旅先では何冊の古本を買ってしまうか不明だが、この本を中心にして楽しんで行くことにしよう…などとしていても、結局連絡はひとつも来ない…こりゃぁいったいどうなってるんだ…。
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余談をひとつ。昨日から群馬県沼田の古本屋さん「レン太くん」(2013/02/10参照)の検索が急上昇している。不審に思って調べてみると、なんと14日に店内で殺人事件が発生したらしい。うひゃぁ、古本屋殺人事件…一日も早く真相が解明され、犯人が捕まることを、心の底から願うばかりである。
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2019年10月14日

10/14古本に温められる。

何だか週末の台風とつながっているような、雨降りの月曜日。突然の秋の寒さに震えながら、午後に南荻窪に流れ着く。早く家に帰って暖をとりたいのはやまやまだが、やはり古本は買って帰らねばなるまい。というわけで駅方面にピタピタと向かい、均一台にブルーシートを掛けた雨仕様の「竹陽書房」(2008/08/23参照)に立ち寄る。そのブルーシートを捲り、七十年代のスヌーピー雑誌を二冊抜き取り、暖かな店内に滑り込む。壁棚&通路棚をゆっくり何も見逃さぬよう落ち着いて見て行くと、すぐに購入候補本が何冊もリストアップされる。だが、左側通路の奥に達した時に、壁棚上段にちょっと古い本が少し並んでいるのが目に留まる…古本オーラが放たれている…と勝手に感じ取り、その中の深海のような濃紺革装釘の本を抜き出す。おっ、第一書房「ポオル・フオル詩抄/堀口大學譯」か。
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何と可愛らしく手に馴染む美しい本なのか。そう感心しながらページを開くと、うぎゃっ!扉の前の遊び紙に、堀口大学の墨書署名が入っているじゃないかっ!
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函はないが、これは何が何でも買わねばならぬ!と慌てて後見返しの値段を確認すると、これが奇跡の800円。先ほどのツル・コミック社「SNOOPY OCTOBER NOVEMBER」とともに計1000円で購入する。すると帳場の奥さまに「表の本、シートで塞いじゃってて、すみません。今日は雨がね…」と丁寧に言われるが、すでに大物を手に入れた私は、今や何を言われてもえびす顔なのである。そんな風に、お店と古本ですっかり温まり、どうにか阿佐ヶ谷に帰り着くと、「古書コンコ堂」(2011/06/20参照)店頭棚の雨除けビニールシート越しに、気になる少女漫画を見出してしまう。集英社りぼんマスコットコミックス「おじゃまさんリュリュ/大矢ちき」じゃないか。カバーが少し傷んでいるが、110円で大矢ちきが読めるのなら安いものだ。クリップを外してビニールシートを捲って、横合いから手を伸ばして本を取り出し、店内で今日はバイトさんが店番中のレジにて購入する。
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2019年10月13日

10/13一日早い定点観測+α!

台風が過ぎ去ったのに秋は来ず、十月の街は、まるで夏の海辺のような陽気である。昨日計画運休した電車網は、まだあまり復旧していない。強い日射しを浴びながら、両の足を頼りにまずは荻窪へと向かい、一日早い定点観測に取りかかる。「ささま書店」(2018/08/20参照)店頭の交通網の乱れに屈せぬ古本修羅たちの姿に驚きながら、「藍書店」(2018/12/29参照)で平河出版社「魔法修業/W・E・バトラー」を330円で購入する。これでいつものように家に引き返してしまうのは、何だかもったいない気がするので、駅北口へと向かい、動き始めたガラ空きの電車が走る線路下を潜って北口に向かい、石神井公園駅行きのバスに乗り込んでしまう。車中でハヤカワポケミス「野獣死すべし/ニコラス・ブレイク」を読了し、江戸川乱歩の巻末解説で、この名漢文調タイトル『野獣死すべし(原題:The Beast must Die)』が、乱歩譯であることを初めて知り、乱歩の偉大さを再確認する。およそ三十分弱で石神井公園駅着。裏路地の「きさらぎ文庫」(2009/01/21参照)をまずは覗き込み、創元推理文庫「吠える犬/E・S・ガードナー」(再版)を百円で購入する。そのまま繁華な商店街を突き進み「草思堂書店」(2008/07/28参照)へ。徳間文庫「真っ赤な犬/日影丈吉」をこれまた百円で購入する。そしてここまで来たのなら、やはり大好きな「アカシヤ書店」(2008/12/17参照)をチェックして行かなければと、保谷まで移動。車に脅かされる駅前通りを伝って店頭に食らいつく。素早く視線を素晴らしいスピードで疾駆させ、たちまち手の中に四冊を収める。小沢書店「吉田一穂の世界/吉田美和子」八雲井書院「五代教祖の実像 霊友、佼成、PL、メシヤ、生長の内幕」成山堂書店「自衛官への道 防衛庁監修(昭和三十九年版)」北隆館出版部「日本動物圖鑑 日本植物圖鑑 内容見本」を計440円で購入する。「日本動物圖鑑 日本植物圖鑑 内容見本」は大正十五年刊の図鑑の内容見本小冊子。動物圖鑑の冒頭には蝶の美しいカラー口絵が付いているが、植物圖鑑の口絵は著者・牧野富太郎のポートレートが!これは嬉しや。
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概ね満足しながら中村橋に至り、最後に「古書クマゴロウ」(2018/03/21参照)を覗く。店内で棚を見ていると、突然背後で本が落ちる音が。私が落としたのではないのだが、取りあえず棚に戻しておこうと拾い上げると、レジの店主がそれを見て駆け寄り「お手が汚れてしまいます」と本を受け取る…いや、そんな大したもんじゃないですよと、何だか照れる。そして中央通路の食関連の棚で、企業PR誌の「洋酒天国」(十冊弱)「嗜好」(三十冊弱)「サッポロ」(二十冊弱)がぞろっと並んでいるのに出くわす。「洋酒天国」は800円均一。ミステリー特集が紛れ込んでいないか探してみるが、残念ながらナシ。「嗜好」も取り出しちょっと目次を確認してみるが、いまいちピンと来ない。そこで「サッポロ」の目次に目をやると、最初で上手く引き当てた形で、大坪砂男のコント的小説が載っているではないか!おぉ!と色めき立ち、残りの冊子の目次にも懸命に目を通す。すると城昌幸の小品スリラーも発見!日本麦酒株式会社「サッポロ6号」「サッポロ19号」を計600円で購入する。大坪の「ビヤホール風景」は、四ページに二編のコント小説が上下に分かれて掲載されている。読んでみると、タイトル通り同じビヤホールにいる人物たちの物語が、巧みにクロスし、そこはかとない感動を呼び起こす佳品であった。薔薇十字社「大坪砂男全集」には収録されていないが、創元推理文庫の「大坪砂男全集」に初収録されている模様。
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2019年10月12日

10/12和田誠についてちょっと考える。

巨大台風により、一日中家に雪隠詰めになることが決定しているので、当然古本屋さんには行くことが出来ない(臨時休業のお店も多い)。だから思う存分読書でもして過ごすつもりなのだが、昨日、偉大なイラストレーター・和田誠が天に召されてしまったので、勝手にその莫大な仕事の恩恵を浴び続けた者として、少し書き付けておくことにする。和田誠は、あらゆる形で常に身近に存在していた。一番大きな形はイラストレーターとしてであるが、その他にも文筆家として(「銀座界隈ドキドキの日々」は素晴らしい半自伝的作品。だが七十年代にライバルとも言えるデザイナーやイラストレーターやアーティストに自ら行ったインタビューをまとめた「デザイン街路図」が白眉であろうか)、映画監督として(私にとってのベストを挙げるとしたら、初々しく尖り映画好きとして力瘤の入りまくっている『麻雀放浪記』。折りに触れて何度か観て、最終的に好きになった)、デザイナーとして(水色と白抜き文字が鮮烈な煙草『ハイライト』のパッケージは永遠の名作である。あっ!そう言えば代々木上原の古本屋さん「ロスパぺロテス」(2008/07/14参照)の看板犬をモチーフにしたロゴは、和田誠のデザインであった)、装幀家として(自ら描くイラストとともに、『和田フォント』と言えるような独特の文字で描くタイトルは、秩序あるフリーハンドで作り上げられた、静かで穏やかな小宇宙である。余談になるが、映画『蒲田行進曲』を観ていると、ラストのメタ的展開を見せる大団円時に掲げられる『蒲田行進曲』のパネル文字を見る度に「あっ!和田誠の字だ!」と愚かにも喜んでしまうのだ)、作曲家として、活躍し続け作品を生み出していたのだから、当然のことである。作家性を大量の仕事で突き詰め過ぎ、もはや“和田誠”という職人の域に達していたかのようで、その結果獲得した多くの人たちが見知る、マンネリとは異なる安心感とも言えるような普遍性を思うと、何だか恐ろしくなって来る。そんなことを考えながら、身の回りを見てみると、私が持っている和田誠の作品は、児童文学や絵本が圧倒的に多い事が分かる。目に付いた本を手近に引き寄せてみると、「ぼくのおじさん」「よわむしおばけ」「しのはきょろきょろ」「このえほん」…前二作は北杜夫、後二作は谷川俊太郎とのコンビで生み出された作品である。
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どれも七十年代のもので、すでに現在の和田誠と変わらぬタッチとクオリティが展開されているのがまた恐ろしい。あ、この土屋耕一の文庫本「軽い機敏な仔猫何匹いるか」も装幀が和田誠か…とたちまち手元に積み上がって行く。とここで、脳内に何か引っ掛かる言葉が、淀んだ記憶の底の方から浮かび上がって来た…それは“アーリー和田誠”…………そうか、あれがあった!と児童文学ゾーンから、さらなる一冊の裸本を引き出す。理論社「ノコ星ノコくん/寺村輝夫・作 和田誠・絵」である(2017/10/26参照)。1965年刊のSF風物語で、その挿絵が、和田誠のイラストでありながら、ちょっとスヌーピーのシュルツ風であったり、レオ・レオーニ的構成であったりと、あまり見たことのないプリティーな感じなのである。1965年と言えば、和田はまだ独立しておらず、ライト・パブリシティに勤めている時代。グラフィックデザイナーとしての自分が、恐らく活動の中心であったはずである。これが私の持っている、一番古い和田誠の作品であることは間違いない。これからも、大事に愛でて行くことにしよう。
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こんな風にして、これからもこの世界には、和田誠の何かの作品が、色々な形で、長く普く存在し続けるのだろう。巨人は旅立ったが、彼の手から生まれた線は、生き生きと残っていくのだ…。外の風雨が段々と激しくなって来た。そろそろ読書に没頭しよう。まずは、「ノコ星ノコくん」でも、挿絵を楽しみながらもう一度読むことにするか。
posted by tokusan at 13:07| Comment(2) | 追記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月11日

10/11台風が来る前に横田順彌追悼展を観に行く。

巨大台風接近に伴い、段々雲行きが怪しくなって来た、十月の金曜日の午前九時。神保町パトロールを兼ね、「東京古書会館2F情報コーナー」で今日からスタートする、『横田順彌・ヨコジュンのびっくりハウス 横田順彌追悼展』を観に行くことにする。新宿まではすし詰めの中央線に乗り、途中四ツ谷駅で総武線に乗り換え、水道橋駅に午前九時四十九分着。少し雨粒の落ちる『白山通り』を南へ歩いて行く。銀杏が白く踏み潰された歩道をさらに踏み締め、テクリテクリ。今のところ古本は買えていない…『靖国通り』に入る。「明倫館書店」(2012/04/04参照)は、珍しく店頭ワゴンがスカスカな光景を見せている。どうやらこれからドカドカと補充するようだ。結局「田村書店」(2010/12/21参照)店頭台に早くも行き着いてしまう。まだあまり人が手を付けていないようだ。その上人の気配もない…で、じっくりと見る。日本文学が多い…そう感じながら、薄手の詩集を一冊抜き出す。大正十五年刊の新潮社「情艶詩集/佐藤惣之助」である。背の金文字もピカピカで美しく、表紙の青赤の波模様もバタ臭く鮮烈である。中の数編に目を通すと、選ばれた言葉たちが、美しく尖りながら、都会の中を跳梁跋扈している。これは俺の求めていた佐藤惣之助だ!と即座に確信し、1200円で購入する。続いて「慶文堂書店」(2012/01/14参照)に立ち寄ると、端っこのワゴンに明治&大正の雑誌がちょっと放り出されていた。大正十一年刊の趣味の雑誌、土の鈴會「土の鈴 第十二輯(地蔵號)」を手に取る。文字通り“地蔵”を特集しており、表紙は地蔵の胸掛を再現した凝った仕様。その上カラー口絵があり、絵葉書が挟み込まれたり、折り込み図解があったりと、ただならぬ編集者の意気込みを感じながら目次に目を通すと、おぉぉぉっ!何と南方熊楠が寄稿しているではないか!良く見たら佐々木喜善も!と大喜びで300円で購入する。
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後は「東京古書会館」(2010/03/10参照)に一直線。二階への階段をカタコト上がると、受付には『日本古典SF研究會』会長の北原尚彦氏と会員の一人である「盛林堂書房」小野氏が座っており、にこやかに浅田飴を渡してくれた。横田氏の名駄洒落フレーズ『朝だ。雨だがふっている。朝だ雨だ。』に因む、株式会社浅田飴の粋な計らいである。さらに受付脇の長テーブルには、まるで書店のように横田氏の著作が山と積み上げられている。遺族からご好意で、一冊好きなものをいただけるとのこと。うむむ、こりゃスゴい(飴も本もなくなり次第終了)。そして展示もスゴいことになっている。ハチャハチャSF作家、古典SF研究家、押川春浪&天狗倶楽部研究家、SFファン、落語&野球ファンなど、様々な方角からの濃密な展示で、横田順彌という偉人を炙り出している。「宇宙塵」がぁ!「冒険世界」がぁ!天狗倶楽部の資料がぁ!「超革命的中学生集団」平井和正識語献呈署名本が泣ける…などと一渡り眺めたところで、北原氏に中央テーブルに置かれたスケッチブックに横田氏へのメッセージを書くよう促される。まだ誰も書いていないので、火付け役に任命されたようである。もにゃもにゃとどうにか書き付け、本はピラールプレスの「近代日本奇想小説史 入門編」をいただくことにする。さらに小野氏からは日本古典SF研究會「未来趣味 増刊 横田順彌追悼號」(ぶ、分厚い!盛林堂の店頭&通販サイトで発売中)をいただく。この展示は10/19(土)まで。そのまま地下の会館展に向かい、しゃがんで古書の棚を眺めていると、いつの間にかついさっきまで二階受付に座っていたはずの北原氏に、後を取られてしまっていた!どうやらというか当然というか、早く見に来たくてしょうがなかったらしい。「昼から小野さんが入札があるんで、今のうちに、ね…」。たちまち本を一冊二冊と抜き取って、奥の古本修羅ゴミに紛れて行った…。こちらもじっくりと棚を見て回るが、実は地上で買った佐藤惣之助と熊楠論文掲載の冊子で大いに満足してしまっているので、あまり古本心ががっつかないのだ。結局、宝文館「現代詩の実験」に北園克衛の論考が掲載されていたので、これを200円で購入し、地上へと帰還する。
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posted by tokusan at 14:01| Comment(8) | 追記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月10日

10/10つながる古本。

段々と空が曇り始めた午後に吉祥寺に流れ着いたので、古本屋さんを伝いながら駅へと向かう。まずは「バサラブックス」(2015/03/28参照)で角川書店「甦る「幻影城」?」を300円で購入し、最終的にいつもの如く「よみた屋」(2014/08/29参照)にたどり着く。おっ、早速面白い本発見!毎日新聞社「社会の窓/えのきどいちろう」は1990年に刊行された『サンデー毎日』連載のエッセイをまとめたもの。アーリー・えのきどいちろうな単行本である。本文の挿絵は、これもアーリーなナンシー関の消しゴム版画。こういう本は、手に入れようとすると、意外に苦労するんだよな。というわけで迷わず確保すると、続いて表紙の取れたカバーナシの本が目に留まる。朝日新聞社「ロンドンー東京 五万キロ 国産車ドライブ記/辻豊・土橋一」は朝日新聞社の記者とカメラマンがトヨペットに乗り込み、特派員としてロンドンから東京までを旅する旅行記である。実はこの旅行記、先日同じ吉祥寺の「一日」(2017/08/11参照)で掘り出した、「東京―パリ バイク無銭旅行」(2019/09/04参照)とリンクしているのだ。
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同じ昭和三十一年に、片や東京からバイクでパリを目指し、片やロンドンからトヨペットで東京を目指し、それぞれの道をひた走る、そして偶然にも、無銭旅行のバイク乗り兄弟と、国産車で東を目指す特派員記者&カメラマンは、トルコのホテルで偶然にもその旅路を交錯させていたのである。この出会いは、それぞれの単行本のトルコ国の項目に、ちゃんと記されているのだ。おぉ、六十年前の無謀な旅路の交錯が、現代の吉祥寺で偶然つながったのである。さらに続いて偕成社「雨の動物園 私の博物誌/舟崎克彦」を手にする。作者の子供時代〜青春時代を自然や動植物を核に描く随筆集であるが、これは完全に朝日新聞社「わたしの博物誌/串田孫一」へのリスペクト単行本ではないか。現物を手にして初めて感じ取れる確信である。解説は矢川澄子。と言うわけで以上の三冊を計330円で購入し、ニコニコと帰宅する。
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左が昭和三十八年刊の「わたしの博物誌」。装幀や挿絵は辻まことである。

さて、お知らせです。
1. そろそろ発売の「本の雑誌 ナス天にらめっこ号」の連載『毎日でも通いたい古本屋さん』では、阿佐ヶ谷に見事復活した「ネオ書房」を早速取材。復活した途端にお店にハマってしまった顛末が描かれていますので、皆様もこれを読んで、どうか「ネオ書房」に向かって下さい!

2. そしていよいよついに、後一週間後となりました。まだ熊本に行くなんて実感がありませんが、一週間後には九州の大地に立っていることでしょう。よろしくお願いいたします!
■オカタケ&古ツアの古本屋を語り尽くす夜 in 熊本
■10月17日(木)19時より
■くまもと県民交流館パレア10階 第7会議室 熊本
市中央区手取本町8-9
■入場無料・申し込不要
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posted by tokusan at 17:49| Comment(0) | 追記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする