2010年06月29日

6/29千葉・京成八幡 山本書店


yamamoto_shoten.jpg改札を出て、どうやら三階の南口から階段を下りて行くと、すでに閉店した廃墟のような『京成百貨店』(小ぶり)の胎内めぐり。一階に出て東側に抜ける。背後の駅ビルを見上げると、意外にデコラティブでお城を思わせる寂れた姿…いいなぁ。視線を正面に戻すとすぐに踏切。その真ん前右手に、すでにお店の裏側と側面が見えている。JR本八幡からも北口を出て、真っ直ぐ北に京成線踏切を目指せば、すぐにたどり着く。古い三階建ビルの一階で、側壁には電車から見えるように巨大な広告看板があり、小さな電光掲示板も取り付けられている。正面に回ると狭い歩道と、踏切のために車が詰まり気味な道路に面している。壁には行灯に『本』の文字が書かれた店名看板、軒にはピンと張った新しい青い日除け。その日除けの右上と左下に、またもや電光掲示板。全集の並んだウィンドウと出入口周囲には、雑誌箱・横積み本・漫画雑誌ラック・絵本箱・安売り単行本棚・100均ノベルス&文庫棚がひしめいている。中に入ると“これぞ古本屋”と言ってもいい雑然とした店内。壁はぐるっと本棚で、真ん中に背中合わせの棚が三本(左二本はスチール、右端は背の高い木製棚である)、通路隅の所々に横積み本溜まり。出入口右横に、何となく低く感じる帳場があり、中年の店主が帽子を被った老人客と楽しそうにお話し中…何か詩や澁澤について話しているようだ…そしていつの間にか伊達得夫の話になり、伝説の詩書出版社『書肆ユリイカ』について、物凄く盛り上がり始めた。ほとんど、店主が嬉しそうに敬意を込めて質問を発し、ご老人が気さくに答えている形。ご老人はどうやら伊達得夫と深い親交があった方のようで、当時の詩人界の面白そうな話を披露されている。ついつい棚を見ながらも、耳がダンボになりっ放しで、中々集中出来ない。“田中さん”と呼ばれているが、誰なのだろうか…まぁ考えても思い付かないので答えが出るはずも無い。切り替えてツアーを開始する。入口左横は、大型ビジュアル本・落語・芸能・江戸・東京が収まり、細い角棚にビジュアルガイド。左壁はジャンルが入り混じるカオス棚の顔を覗かせており、お茶・陶芸・幻想文学・文化・世界・映画・文学・科学・山岳・植物・教育・医学などが、滲んで並んでいる。向かいも一部似たような状況で、頭を揃い本に押さえられながら、ノンフィクション・時代劇小説・探偵・推理、そして大量の将棋本がズラリ。奥壁には音楽・美術・建築が収まる。古い本が多い。左から二番目の通路は、左に時代劇文庫・東洋文庫・選書・新書、右に時代劇文庫・雑学&教養系文庫・日本純文学文庫・海外文学文庫・ちくま文庫・講談社文芸文庫・岩波文庫と収まっている。三番目の通路は、左に日本文学文庫・海外SF&ミステリ文庫、右に日本語・民俗学・文学評論&評伝・永井荷風関連・宗教。左は新しめで、右は見事に古い本ばかりである。右端通路は、壁棚に千葉&市川関連郷土本・写真集・中国・満州、奥の角棚に中国美術やシルクロード関連。左の通路棚にアダルト・歴史や日記などの箱入り資料本・哲学・思想が並ぶ。薫り高く、時代の幅が広い棚を持つお店である。音楽・建築・文学評論が、古めの本ばかりで充実しているのが不可思議。でも面白い。値段は普通〜ちょい高で、いい本はしっかり値が付いている。店主は書肆ユリイカの、美しい造本&装丁の秘密に触れようと、様々な角度から老人に質問中。私もまだまだ聞いていたいのだが、そうもいかないので帳場に行き本を差し出す。するとそれを汐に会話が途切れ、「では」とご老人が帰られてしまった。あぁ、すみません…。平凡社新書「肉声の昭和写真家/岡井耀毅」新潮文庫「若い詩人の肖像/伊藤整」を購入。
posted by tokusan at 19:38| Comment(8) | TrackBack(0) | 関東 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
どうも御無沙汰しております。京成八幡ないし本八幡という所は東京と千葉の丁度県境な所でありまして、特に京成八幡の方は本八幡よりも、この写真のような情緒さがあって好きです。踏み切りの音が鳴り響く角の古本屋で本を探す、この時期はこのような楽しみも乙なものです。
Posted by ピカリング at 2010年07月04日 08:37
お久しぶりです。最近は突然の雨が多く、外歩きにも一苦労ですね。市川や本八幡あたりは、古本屋さんが意外に集まり、かなり好きなスポットです。海が近いような、川が近いような、それでいて都会のような、そうでないような…不思議な狭間のような空気感がたまりません。これは錦糸町以降の総武線沿線に共通しそうですね。
Posted by tokusan at 2010年07月04日 22:36
はじめまして、田中栞と申します。
書肆ユリイカについて検索していて、たどりつきました。
この店でおしゃべりしていた「田中さん」は、おそらく詩人の田中清光さんだと思います。
田中清光さんの自宅が、ここからバスに乗っていく場所にあるのです。私は『書肆ユリイカの本』(青土社)の執筆にあたって、お話を伺うために訪れたことがあります。その時に聞いた話を1つの項目にまとめて、本の中に収めました。
帰りのバスの中からこの古書店が目に入り、私も古書好きで下車して来店したので、この店のことも記憶があります。田中清光さんも、とても古書好きな方なので、おそらく間違いないでしょう。
お節介ながら。
Posted by 田中栞 at 2010年09月25日 08:53
田中様。初めまして。そして貴重な情報ありがとうございます。田中清光さんのことは、勉強不足で存じ上げませんでしたが、これでナゾが解けました。まさかこんなカタチで…そして、そのおかげで田中栞さんからコメントいただけるとは!しかも「ユリイカ」検索でたどり着いていただけるとは!先ほど焦って著書を手に入れたところ、確かに田中清光さんの項目がありました。目を通して行くと、あの時の古書店の状況が目に浮かびます。ご教授ありがとうございました。これからも古本街道驀進のご活躍、期待しております。
Posted by tokusan at 2010年09月25日 18:27
いやはや皆様のコメントを見ていろいろと勉強になりますね。私が昨年行ったときは確か入ってすぐ右隣がレジだったと思いますが、店主(女性の方でした)の方が、忙しなく通路に置かれた書籍を整理されておりました。
Posted by ハリー at 2011年01月02日 22:28
山本書店は20年前に行きましたよ。番頭さんがラジオのクラシック音楽番組を店内に流して居られました。店内の雰囲気も独特に輝いていました。
本すきのひとに教えてあげたいお店ですね。
Posted by キュスナハト at 2017年01月18日 18:24
キュスナハト様。コメントありがとうございます。私もここ数年訪れていませんが、少しだけお店の様子も変わってきているようです。機会があれば、また京成線の踏切の音ともに、古本のある空間を楽しまなければと思っています。
Posted by 古ツア at 2017年01月18日 18:58
2022年8月27日時点で営業中、店内の様子も変わらない感じ。余談ながら「すでに閉店した廃墟のような京成百貨店」は取り壊され京成電鉄の本社が建っています。輸送量や収入は下位に属するとはいえ大手私鉄、しかも「オリエンタルランド」の筆頭株主(というよりは「東京ディズニーランド」の創業者)の本社とは思えないなんともささやかな建物。まあ、京成八幡=本八幡という住宅街に大手町や新宿にあるような高層ビルを建てたら日照権で大問題となりますが。古本とは関係ない話に終始してしまいました。
Posted by 下新庄3丁目 at 2022年08月28日 16:28
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