思い切って早めに行動開始し、山梨まで足を延ばす。大月駅より単線の富士急行線に乗り換え、紅葉の始まった秋の山の中を走り抜ける。駅間は意外に短く、ウネウネとカーブが連続し、無人駅もある、そんな路線である。父の実家が三つ峠駅にあるので、小学生の夏休みはこれに乗って田舎を訪ねるのが楽しみであった…よもや大人になって、古本屋を訪ねるためだけにこの路線に乗ることになるとは…あぁ…。多少の懐かしさと悔恨と、古本屋さんへの溢れんばかりの期待を胸に、私は山梨県の懐へ深く分け入って行く。最初の目的地は標高503mの『都留文科大学前駅』…こんな近代的な駅が、いつの間に富士急行に生まれたのだろうか。駅前にも巨大なスーパーを備え、蝿捕り紙が下がるうどん屋が駅前にあったような、私の過去のイメージからは完全にかけ離れてしまっている。そのスーパーの脇を抜け、裏の駐車場を突っ切り大通りへ。東の交差点から北へ進路を採り坂道を下る。50mほど進むと、坂上にお店を見せる感じで「村内書店」の看板が目に入った。が、シャッターは冷たく残酷に下ろされていた。

大学の近くだし金曜日だし、開いてると思ったんだけどなあ〜…ガクッと肩を落としつつも、諦めきれずにお店の周りをウロウロ。しばらく坂道を下ってブラブラし、戻って来る時に『もしやおばさんが開店準備を始めているのでは…』などと妄想するが、当然シャッターは一ミリも動いていない。看板の『新刊と古書売買』の文字を恨めしく見上げ、駅までトボトボ。続いて大月方面に引き返し、標高445m『赤坂駅』近くにあるお店を目指す。この行程の救いは、富士急行の列車数がまぁ多いことであろうか。おかげで酷いタイムロスせず移動することが出来た。こちらは無人駅で、停車と同時に車掌がホームに走り出し、降客の切符を集めている。寂しい改札から真っ直ぐ進み『国道139号』を西へ。次の『四日市場交差点』を南に向かうと、緩やかにカーブしながら下る田舎の裏通り。街中に張り巡らされた水路の音が、懐かしく心地良い。…基本的には、お店はないだろうと思っている…それでも足は進んで行く。すると右手に塗装屋の看板…?その下に目指す「岡本書店」の看板がっ!

これは!?と驚きながら、看板の下から続く小道を覗き込む。しかしそれは、完全に人家へと続く私道の趣き…ん〜どうなんだこれ?しかし奥にさらに目を凝らすと、一棟の建物が目に入り、軒には古本屋さんの店名看板…あれは店舗なのだろうか?勇気を搾り出して一歩踏み出し、足音を立てないようソロリと奥まで入り込む。そこは建物に囲まれた中庭で、人気の無い塗装屋の事務所もある。恐る恐るお店に近付き、ガラス窓から中を覗き込んでみる。そこには括られた本やダンボール箱が積み上がる倉庫的光景!お店として営業している状態ではない!これではもし招き入れてもらったとしても、本を見るのは一苦労であろう。

よく見ると、横に連なる二棟の建物にも「岡本書店」とあり、そこにも乱雑に積み上がる本の影…。う〜ん、誰か人がいれば何か聞けるのだが。猫が一匹グルーミングしてるだけではどうしようもない。煌々と明かりの点いた塗装屋さんにも人影は無し。横にある黒板に『不在の時は…』と電話番号が大書されている。とその時!塗装屋の奥の机からガバッと跳ね起き、私を注視する制服姿のヤンキーギャル!寝ていたのだろうか?それにしても私は完全に闖入者である。住居不法侵入である。途端に気弱になり、首を傾げつつ偶然迷い込んだ風を装い、焦って退散。しかし帰り道、例えお店に入れなくとも、あの娘にお店について聞くべきだったな、と後悔。私は富士急行の中で哀しみに暮れながら、遅い昼食のパンを齧る。二店を確認しただけの収穫ゼロで、山梨に別れを告げる…。そのまま美しく潔く帰宅しようと思っていたら、阿佐ヶ谷「銀星舎」にフラリと寄ってしまい、ハヤカワ文庫「スパイのためのハンドブック/ウォルフガング・ロッツ」を購入して、今日のツアーを終わらせる。
posted by tokusan at 18:42|
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今週の初め、出張の折、初めて福岡の古本屋さんに
2件だけですが、寄ることができました。
今までも福岡出張はあったのですが、仕事が長引い
たりで時間が取れず、今回初めて行くことができま
した。残念ながら欲しい本がありませんでしたが、
見たことのない棚を見るのは本当に楽しいものです。
岡本書店さんはこちらのようですね。
http://www10.ocn.ne.jp/~oka-moto/law.html
通販専門でしょうか?
私はよくご飯をもらったり、お話したり、お昼したりさせてもらった文大生です。
おばあちゃんは、最後の最後まで書店に座ってました。
病きでどんどん細くなっていったけど、つらそうだったけど、元気で書店に座ってました。
今も本はそのままで、シャッターもそのままです。
でもダンボール山積みなんてしてません。
おばあちゃんは最後まで誇りをもって古書店をしていました。
もう二度と開くことはないでしょうけど、もしおばあちゃんのことを知っているなら、記憶のおばあちゃんに手を合わせてあげてください。
お願いします。
おばあさんのご冥福をお祈りいたします。今まで本当にご苦労さまでした。
こうやってあなたのサイトに、写真に、心に残っていたのでよかったです。
誰もおばあちゃんの苦労や人柄を理解してくれませんでした。
病気の痛みも。ひとりの寂しさも。
理解しているはずの世話になった学生まで、お葬式にも来ませんでした。
でもあなたがいてくれた。
ここに書いてくれた。
それが嬉しいです。
ありがとう、本当にありがとう
いつか消えてしまうかもしれないけど、あの場所を、おばあちゃんの生き抜いた場所を、ちょっとでも覚えておいてください
ありがとう
記事にしてくれて、ありがとうありがとう