埼京線の車中、車両の隅で文庫を読んでいると、途中駅でたくさんの小学生が乗り込んで来た。彼女らはひとしきりさんざめいた後、おもむろに私の周囲で本を開いて、一斉に読書を開始した!私を中心としたこの一角が、突然電車内図書室と化してしまったのだ!不思議な瞬間、あまりの素晴らしい光景に、こっそり一枚写真を撮り、勝手に連帯を結びつつ文庫を読み続ける。しかしいつの間にか、仲間の姿は消え去り、私は再びひとりで古本屋ツアー……。
●権堂「古本 団地堂」長野駅から一旦西側ロータリーに出て、長野電鉄に乗り換える…長野に地下鉄があるとは今まで気付かなかった…。三分ほどで二駅目の目的地。ホームに出るとただ古びていくだけの、明度の低い空間に包まれる。長野電鉄の施設に一貫して漂うムードである。『イトーヨーカドー方面』から地上に出ると、目の前に長〜い『権堂アーケード』…観光地と言うよりは地元的な地帯である。高い屋根の下を西に向かって進んで行く。場末の映画館前を通り過ぎ、300mほど来た所で、クリーニング屋と寿司屋の間の道を北へ。レンガ敷きでほぼ飲み屋街な通りを、スタスタと歩み続ける。その通りを抜けると小さな交差点があり、交差点左脇に二階建てだが旅館のような広い建物…正面に回ると、その一階が何と目指すお店であった。これはまたスゴイお店である。白い入口のアーチが二つあり、軒には現存しないカフェの看板。アーチ入口の脇に縦長の店名看板が下がり、『2F ネオンホール』『1F 古本 団地堂』と書いてある。どうやら二階はライブハウスらしい。アーチを潜るとコンクリ敷きの店頭で、壁には一冊100円棚がゴチャゴチャと張り付き、文庫・新書・単行本・雑誌などが並んでいる。端の棚の中段には料金ポストが設置されているので、営業時間外はこの状態で放置されている可能性大。様々な古道具類も置かれ、左の入口脇にも文庫箱がある。開け放しの扉から中に入ると、薄暗く縦に長く古本屋らしくない空間。入口右横には作動するのかどうか判らない、巨大なジュークボックスが存在感ドデカく陣取り、右壁に上下に分かれた本棚、その奥に奥深い背後を持つ帳場があり、奥にさらに本棚。左側にはラックが一台あり、奥にソファーセット、そして少し広がるさらに奥の部屋に壁をぐるりの本棚。真ん中には雑貨類やコーラの1L瓶、それに楽聖の像などが置かれた平台がある。そしてフロアのあちこちには、古い教科書・和本・掛軸・紙物が詰まった箱が置かれている。左のラックには、古い児童書・グラビア誌・写真集など…お洒落ではあるが独特なセレクトなので、どうも一筋縄では行かない感じがプンプン。カルタも積み上げられている。右壁には、辞書・映画・芸術・漫画評論・サブカル・文化・武術・生活・風俗・児童書・歴史・鉄道・交通・自然・山岳・長野関連などがカオスに並び、簡単には掴めない棚となっている。ここで家族連れのお母さんが「開いてるの初めてみたぁ〜」と店に飛び込んで来た。棚を物色しながら「かこさとしがある!」などと狂喜しているが、子供は「このコロコロが欲しいぃ〜」とお店の備品に激しく興味を示している…。帳場前を通ると、「いらっしゃいませ」と首にタオルを巻いた、古本屋さんと言うより農業スタイルな青年店主が声を掛けてくれた。軽く会釈して奥のエリアへ。ここには獅子文六・演劇・石川啄木・食・建築・鉄道&UFO児童書・お茶・骨董・絵本・ガロ・超能力・長野関連・芸術系ムック・映画DVD・古い文学&随筆などが揃っている。棚はどこもカオスの様相で、古道具・紙物も混ざり合い、無秩序な店舗の感じがワンダフルである。確かに古本屋さんなのだが、何故だか別のお店に見えてしまう…。値段は普通。帳場下の足元にある縦長な木箱には、ビッシリ詰まったマッチ箱が詰まっており、豆本のようでとても可愛らしい。精算を済ませて外へ出て、改めてお店を眺めてみる…確かに古本屋なんだけどなぁ…何か不思議に面白くズレてるなぁ…団地っぽくないし…。講談社「東京微視的歩行/三木卓」を購入。
●権堂「古本 田中」「団地堂」を出て交差点を渡り、街のエアポケットにもほどがある『大人のオモチャ総合卸屋元締』の店舗に感嘆のため息を吐き出しながら北へ。すると『東町東交差点』に行き当たるので、目の前の大通りを西へ。すぐに『武井神社』の対面に、次なるお店が姿を現す!三階建ビルの一階だけが奥まっている店舗で、情報はすべて貼紙や手作りの物で示されている。どうやら古本以外にも、中古CD&レコードを扱っているようだ。サッシを開けて中に入ると、外気温と変わらぬ寒い店内。何だか全体的に整理中と言った感じが漂っている。店内は広めで、左右の壁には様々なタイプの棚が並び、真ん中にも同様な感じで背中合わせの棚が二本形作られている。奥はダンボールと本に囲まれた帳場兼作業場なのだが、結構広めにスペースが確保されている。店主の姿は見えず、奥の通路でガサゴソ音がしている…作業中なのだろうか?左壁は粒揃いなちくま文庫からスタートし、中公文庫・岩波現代文庫・同時代ライブラリー・岩波文庫・河出文庫・各社セレクト文庫と続き、海外文学文庫・海外文学・山田風太郎・探偵&推理&怪奇&伝奇棚で、興奮気味にフィニッシュ!向かいは大量のノンフィクション&ルポ・関川夏央・海外文学。棚脇に詩歌と漫画関連あり。真ん中通路は、左側に日本文学・井上ひさし・随筆・晶文社本・埴谷雄高・小林信彦・民俗学・写真・鉄道が並び、右側に科学・心理学・新書・歴史などが収まっている。とここで表から店内に滑り込む男の人影。お客さん?と思っていると、私に「いらっしゃいませ」と声を掛け帳場に収まった。えっ?この人が店主?じゃあもう一人は店員さんなのか?…実は奥の通路で蠢いていた人はお客さんらしく、良く見ると棚の整理などはしておらず、ひたすら棚を物色し続けている…。そして店主とおもむろに、これからのお店の方向について話し始めた。「一通り片付けたけど、まだ本とCDの箱がたくさん…」「松本のアガタ書房みたいに、表にたくさん出しちゃえばいいんだよ!団地堂だってそうしてるぜ。あそこは出しっ放しだけど」やはりそうだったのか、団地堂。…それにしても話を聞いていると、どうやら最近ここにお店を開いたらしいな。『がんばって下さい』とひっそりエールを送りつつ、窓際のビジュアルムックを手に取った後、右端の通路へ。ここは今までと趣向を変えて、セレクト劇画・音楽CD&LP・映画VHS&DVD・映画・音楽・落語・役者・芸人などが集まっている。どうやらまだまだ店内構築真っ最中のようだが、いい本&いい流れが棚に見えているので、完成が非常に楽しみである。値段は普通。壮年店主はちょっとお疲れ気味ながらも、にっこり優しく精算してくれ、しかも100円引きの大サービス!伊藤雄之助的笑顔が素敵です!「団地堂」から「田中」への流れは、中々楽しめて美しい。権堂にお出かけの際は、この二店ルートをお忘れなく。ハヤカワ文庫「映画字幕五十年/清水俊二」講談社文庫「彫刻家の娘/トウベ・ヤンソン」日本交通公社「お楽しみ途中下車 全国主要都市ハイライト」を購入。
久しぶりの長野市では、不思議で楽しげなお店が生まれていた。善光寺には見向きもせずに、ひたすら古本屋を求めた信州への旅。今度は老舗店を訪ねるつもりで来長します!それにしても長野は、縦に満遍なく広がってはいるが、意外に古本シティ化が進んでいるような気が…。

