●宮城・角田「スリーブック」福島駅で隅っこの暗がりにあるホームから、阿武隈急行線に乗り換える。二両編成のワンマンカーにガタガタと揺られ、融けかけの雪に覆われた大地と、枯木の果樹園の間を進んで行くのは、とてものどかで心を和ませてくれる。『伊達氏発祥の地』高子、『伊達氏のふるさと』梁川など、キャッチフレーズの付いた駅が連続。やがて寒い凍った山の中を抜けると、いつの間にか宮城県に突入。緑色の大河・阿武隈川を越えると、ようやく目的地に到着。改札を抜けると立派な駅舎だが閑散としている。空が広く荒野のような寒い街を、ロータリーから東に延びる直線道を東へ。人影は無く、街では車移動が基本のようである。舞い散る粉雪を顔で融かしながら、『駅前交差点』『栄町交差点』『市役所東交差点』と通過して行く。すると一キロ強で、大型店舗が建ち並ぶ大通りに出る。ここを南に曲がれば古本屋さんの姿が…おぉ、あった!が、しかしこれはっ!?…何と言うオンボロの建物!これではまるで掘っ立て小屋ではないか。箱状の平屋の前に、日曜大工的店舗が、だらしなく歪んでへばりついているのだ!合板の壁と、窓にはガラスではなくプラ板がはめ込まれ、軒の看板は中央が欠落している。そのプラ窓の向こうにはたくさんの本の影が見え、左にあるサッシ戸のあるトタン小屋は、戸が半開き…営業しているのか?入口らしき扉に近付くと、白い貼紙が目に入った。『近日買取より復活します』…おぉぅ、やってしまった。私は休業中のお店を訪ね、はるばる宮城までのらくらとやって来てしまったのだ。もはや良くあることなのだが、やはり力の抜ける瞬間である。
店内を覗き込むと、しっかりと古本の並ぶ棚が確認出来るが、床には本がボトボト落ちていて荒れた状態。良く見ると扉は角材で封鎖されていた。もしや左の小屋に誰かいるのでは、と開いた戸から覗き込む…うわっ、ただ開けっ放しなだけだ。大量の漫画雑誌と文学全集が詰め込まれた小部屋…は〜ぁ、と大きなため息をついて後ろを振り返る。うわっ!信号待ちの車の中の顔が、みんなこっちを向いちゃってる!こ、これはイカン。完全なる不審者と見做されているようだ。あくまでも何気ない風を装い、口笛まで吹きながら、本をたっぷり備蓄したままの半廃墟古本屋さんを後にする。営業している時に訪れたかった…買取が復活したら、店売り復活もよろしくお願いします!
●福島・福島「大槻本店」阿武隈急行で福島へ逆戻り。東口を出ると、地方都市の大きなロータリー。ここからとにかく東にある『国道4号線』に出る。判り易いのは、駅前広場から『駅前通り』→『レンガ通り』と進み、一本北側の『テルサ通り』をさらに進んで『北町交差点』に出るコースであろう。雪の残る歩き難い歩道を、北へと進んで行く。夕方になった途端、気温は急降下し始めている。しばらくすると『仲間町交差点』に行き着くので、一本東の『旧電車道』に入ってちょっと北へ。大きく聳える『ヨークベニマル』の前に小さなお店を発見。側壁にはモガのイラストと共に『明治・大正ロマン』と書かれ、さらに『古い本・せと物・タンス・きもの・茶道具・刀・絵画』とある。どうやら古道具屋も兼ねたお店のようだ。正面には軒にも壁にも黄色い看板。店頭はサッシ戸になっており、さらに『切手・金券』を求める貼紙までも。中はちゃんと明かりが点いており、奥には人の姿…が、サッシには準備中の木札が掛かっていた!…しばし悩むが、こう言う場合はもはや当たって砕けるしかないのだっ!サッシをララッと引き開けて中に入る。すると奥から加藤嘉的風貌の、防寒体勢バッチリな老店主が出て来た。私は「あの、やってますでしょうか?」と聞くと、老店主はガラスケースに両肘を突き、ゆっくりと両手を組みながら「どう言う御用ですか?」。「あっ、本を見せていただこうと思って」「あ〜。えぇえぇ、よろしいですよ。何処か遠くから?」「東京からです」「そうですかぁ。まぁウチには東京のような大した本はありませんが、それでもよかったらどうぞ」「いえいえそんなことは。ありがとうございます」…やった!入ってみて本当に良かった。老店主は再び元のスチール棚の裏へ。飾り気の無いお店はシンプルで広々と素っ気無く、右側が古道具屋ゾーン。棚やガラスケースに大皿・茶碗・そばちょこ・丼碗・和本などが飾られている。左側が古本ゾーンで、入口左横から左壁際に本棚、その前に左壁に沿うカタチで斜めにスチール棚が置かれ、奥にも二本の横並び棚がある。この奥の棚の中段は空洞となっており、裏の店主とやり取りする会計場所となっている。棚の所々に、『お買い上げは30分以内でお願いします』の貼紙がペタペタ…どうやら長っ尻のお客への牽制らしい…。入口左横には歴史雑誌・歴史・日本文学・戦争が並び、左壁の歴史・日本文学・カバー無し時代岩波文庫・海外文学文庫・古い文庫・新書と続く。ここはすぐ足元に箱が積み上がり、あまり奥には入り込めない。手前のスチール棚には、福島・会津・郡山の郷土関連本が並び、歴史・日本文学・思想・世相・ふくしま文庫、そして中段に漫画雑誌附録・郷土文芸誌・和本が飾られ、正面に歴史・新書・古い新書と並んで行く。全体的に硬めで歴史&福島関連本多し。時々挟まる古い大衆小説が良いエッセンスとなっている。何故か古美術関係の古本はナシ。あ〜本棚が見られて嬉しいぞっ!どの本にも値段は無く、どうやら帳場で値付けするシステムらしい。と言うわけで選んだ本を棚の空洞に差し入れると、「こっちが200円でこっちが300円」と安めな値段を付けてくれた。「いただきます」と棚の向こうに伝えて精算。あぁ、開いてる古本屋さんって本当にいいな、と激しく感じ、「ありがとうございます」の声が、自然と朗らかに大きくなった。新潮文庫「私の紀行/林芙美子」岩波新書「雷/中谷宇吉郎」を購入。
もっと雪に埋もれていると勝手に想像していたのだが、しっかり地表が見えていたので拍子抜け。それにしても大きな街なのに、福島駅周辺には古本屋さんが少ないようだ(リサイクル系を除く)。もっとしつこく調べてみれば、何処かに一軒浮かび上がる…かも…。

