大月から哀しみの富士急行で四十分。2010/11/12以来の山梨行である。古本屋さんの少ない山梨での、危険な賭けなのである!ホームの向こうに溶岩石がゴロゴロと転がる駅から出ると、そこは何とゴーストタウン化が進行しつつある、昭和三十年代の街!シャッターを下ろした店舗がほとんどだが、街が、街が、風雪に晒され続けた看板建築と木造建築で構成されている!先日の秩父行(2011/06/07参照)でも似た体験をしたが、こっちの方がかなり衝撃的だ!コンビニもまったく見当たらないし…。おぉ、それほど省みられずに、朽ち果てて行く文化遺産たちよ!と嘆きながら興奮し、駅から延びる『中央通り』を南東に下って行く。脇道には驚くほどの大量の小飲食店が蔓延り、街全体が『新宿ゴールデン街』の、恐るべき猥雑な姿となっている!もはや心も身体も擬似タイムスリップしながら、目指すのは古本が置いてあるチベット料理屋さんなのだが…。『中央通り』の坂を下り、水流の速過ぎる川を越えてテクテク。すると小さな交差点が現れるので、北東に坂を下る『西裏通り』へ進む。とにかく壮絶な建物が続くのに目を奪われながら200mほど歩くと、左手にある小道が目に入る。行く手には建て込んだ飲み屋街と、その入口に『ミリオン通り』とある小さなゲート。おぉ、あったぞ。ここにお店があるはずなのだが…と昼間の白けた飲み屋通りに入る…しかしお店が無いっ!何処にも無いっ!これはかなりキツイ空振りだぞ…小さな通りを何度往復してみても、やっぱりお店は無かった…肩をガックリ落としながら、昭和三十年代的街路を、当ても無く一時間ほど散策する。ひたすら網の目のような飲み屋街と、次々と現れる倦怠感溢れる商店街を巡り、もしかしたら古本屋さんが!と期待するが、そううまくいかないのが世の中である。午後三時二十分。いつの間にか迫った帰りの電車時間ではあるが、諦め切れずにもう一度だけ『ミリオン通り』へ。すると先ほどまで閉まっていた、通り入口横のハンドメイドアクセサリーのお店が開いていた。古着や雑貨も売っているようだが…と、道より低くなったお店の中を覗き込むと、ほわぁ!奥に細いが本棚があるぞ!これこそ“地獄に仏”ではないかっ!即座にお店に飛び降りるように入り込むと、カウンターにいた若い女性が、目を丸くして驚きながらも「いらっしゃいませ」と迎え入れてくれた。飲み屋の造作そのままに、右は年代もののカウンターバーで、左は一段高くなったアクセサリー売場。古本は正面奥の扉と仕切りに挟まれた、六段ほどの細い壁棚に並んでいる。真っ直ぐその棚前に進んだ私を見て、女性は「電気点けますね」とオレンジ色の白熱電球をパチリ。「ありがとうございます」と言ったものの、古本への飢えと予想外の出会いに我を忘れて、心はすでに棚の上。そこにはしっかり『USED BOOKS』の紙札があり、水族館・アジア・旅・ファッション・大宅歩・宮城まり子・小林紀晴・竹久夢二・海野弘・荒俣宏・泉麻人・片岡義男・枝川公一などなど。冊数は少なく、女子方面に寄り気味だが、決してただ不要な本を並べているのではなく、店主の個性と息遣いと心遣いを感じ取れる棚である。値段は普通〜高め。「これを下さい」とカウンターに本を出すと、女性は古本購入に驚き、「おっ!」と小さな叫び声。精算中に、件のチベット料理屋について尋ねると、やはり閉店されたとのこと。「でもイベントに出店したりするので、どうか注目しといて下さい」と、元隣人を守り立てる優しい一言。いや、それよりも、本当に古本を売ってくれていて、ありがとうございます!これからもこの、素晴らしくも恐ろしい街で、小さな古本棚の優しい明かりを、灯し続けて下さい!河出書房新社「メイド・イン・オキュパイド・ジャパン/小坂一也」を購入。
●おまけ・月江寺「月の江書店(新刊)」
街を所在無く彷徨っている最中に、『月江寺大門商店街』で見つけたお店である。古本は売っていないが、とにかくこの姿でここにあるのがワンダフルっ!年代物の軒看板と店名書体とその擦れ具合に心震わせ、脇にある『春陽文庫』の文字に心撃ち抜かれる。かすかに波打つ板ガラスの六枚の引戸の向こうには、本は新しいが薄暗くそれでいて華やかな昭和三十年代的商品陳列風景!本棚や平台はすべて昔そのままで、ここが古本屋さんであったなら…と中に入れば、その妄想は止め処無く回り続ける!奥では首にタオルを巻いたご婦人が、番台のような帳場で、正座をしながら店番中。たっぷりと店内を回遊して、まちミュー友の会「ふじよしだ歩楽百景ガイドブック 下吉田編 上吉田・下吉田編」を購入する。

