東海道線を、朝から乗り継ぎ乗り継ぎ、西に五時間。電車の中で暮らすのは、もう限界だっ!とばかりに列車の旅をリタイアすると、そこは大きくキレイな地方都市…浜松であった。三年半ぶりのこの土地にも、未踏のお店がまだ残っているはず…。巨大なバスターミナルを内包した北口ロータリーの、左側をぐるっと回り込んで『鍛冶町通り』を西へ。商業ビルの谷間の大きな道を、信号から流れる“富士山”の電子音をバックに歩き続ける。『伝馬町交差点』で『国道257号』に入り、一旦北へ。二つ目の『連尺交差点』で、交差点下の地下道を潜ってから、西に延びる『姫街道』に足を掛ける。道は結構な坂道で、そこに商店がポツポツと連なって行く。信号を二つ過ぎ、どうにか坂の上にたどり着く。さらに道なりに西に向かうと、右手に暗い店内を見せつける、職種判別不能な光景が出現。その暗闇に目を凝らすと、おぉ!本棚の姿が浮かび上がった!入口上の看板には、書店名にプラスして『不動産・ビル管理』の肩書きがあり、さらには『税理士・行政書士』事務所の看板が下半分を占めている…むぅ、何やら様々に混ざり合っているな…しかし店内は、生活道具に多少侵食されているとは言え、古本屋さんの設えなのである。ならばと、躊躇せずに暗闇の中に入り込む。途端に赤外線チャイムがピンポンと鳴り響く…それを聞き付けたのか、奥の磨りガラス戸の向こうから、すぐにユニフォーム作業ジャンパーを着た白髪の店主が姿を見せた。「いらっしゃい。あ、今すぐバイクを外に出しますね。これじゃぁ本が見られないもんね。いや、さっき突然雨が降って来ちゃったから…」と、店内にデンと置かれていたバイクを表に移動させ、彼はその後もサッシを開けたり閉めたり、本の整理をしたりしなかったり、終いには入口で棚の本を読み始めたり…どうやら突然の闖入者を持て余しているようだ。その暗い店内は、左右に高い壁棚、真ん中に平台付きの背中合わせの棚(平台下部も本棚)、奥壁にカラーボックス組み合わせ棚となっている。全体的に雑然としているが、棚はちゃんと確認することが出来る状態をキープしている。それにしてもこれは…少し時が止まり気味な傾向…古い本も多いが、所々に見られる複数冊ビニールパック&ビニールランダムパックは何なのだろうか?シリーズ物やジャンルでのパッケージはまだ判るが、ランダムジャンルパックの真意は何処に?保存?もしや雨漏り予防?さらには本棚の並びもカオスで、左通路は割と日本文学でまとまっているが、右側通路はカオスな状況なのである。落語・戦争・海外文学・五木寛之・高木淋光・松本清張・歴史・静岡・官能小説・コミック少々・新書・社会科学・風俗・囲碁・ヤマハ関連・地震関連・文学全集・紙物・「宇宙戦艦ヤマト」…文庫は目立たないが、店内各所に潜んでいる。暗過ぎて背文字を確認出来ない場所もあり、布団叩きを退かして見なければならないところも。しかし逆に言えば、とても探し甲斐があり、何かが隠れていそうな予感がヒシヒシ。『タイムカプセル・ビニールランダムパック』なお店なのである。値段はちょい安だが、値段の付いていない本は、一律200円で精算してくれた。「いや、もう買っていただけるだけでありがたいんですよ。だからまとめて500円にしちゃう!」とさらに合計金額から100円引きに。ありがとうございます!東邦出版社「兵隊やくざ/有馬頼義」読売新聞社「日本の秘境/柞木田龍善」学研「世界の未確認動物」を購入する。店主は満面の笑みを浮かべ「またお待ちしてます」と送り出してくれた。嫌いじゃないです、と言うか大好きだ!こう言うお店!
ゴロゴロうるさく怪しい空模様を気にしながら、『浜松城』そばの「時代舎」(2008/05/26参照)にも足を延ばす。
ここでweb連載の取材を、と考えていたのだが、何と店頭ワゴンが雨に備えてシートで完全密封状態!これではどうにもならないので、早々に諦めた後、店内をただ楽しむことに集中する。あぁ、やっぱりここは良い古本屋さんだな。棚から発せられる美しい古本のメロディに酔い痴れながら、佐々木邦の充実っぷりに目を回す。ちくま文庫「妖精族のむすめ/ロード・ダンセイニ」原書房「定本 山之口獏詩集」(千円は安いです!)を購入。そして帰りなのだが、何と五時間立ちっ放しで電車の中で暮らすことになり、東京に帰り着いたら疲労困憊…う、うぅぅう…。

