壮絶な遠方に行きたくなって、ゲリラの売り上げを握り締め、暗いうちに東京を旅立ち、夜が明けても雨雲で昏い新潟から羽越本線に乗り北上。車窓には日本海と水田とそこに時々浮かび上がる街々。荒れた重い灰色の水平線、途切れることの無い稲刈りの終わった水田、その上に閃く白い稲妻、野営する渡り鳥の群れ、未知の街と道を眺め続けていたら、三時間があっという間に過ぎて目的駅に到着。湾曲する川と山にコンパクトに抱かれた、本荘平野に広がる北の街である。高い建物の見当たらない、広く閑散としたロータリーに出ると、鋭い寒さが襲い掛かって来る。ロータリーを抜け、一応商店の並ぶ大通りを西に進む。するとすぐ、左手に建ち並ぶ赤枠の商店の一軒から、小さな『古本買入』の看板が飛び出しているのに気付く。…もうあった。だが、やっているのか…歩道の水たまりを避けながら店前に行き、薄暗い店内の上部に目を凝らす…蛍光灯が点いている。やっているな。店頭台などは無いので、即座に扉を開けて店内に進入する。…広い、昔の大きな街の本屋さんと言った感じである。全体的にうらぶれた雰囲気が漂うが、本棚には本がキッチリ収まっており、本もビニールに包まれているものが多い。入ってすぐ右に小さな帳場があり、ご婦人と老婦人がバリバリの秋田弁で日常会話中である。壁際はぐるっと背の高い壁棚が据えられ、フロアには左に長い背中合わせのラック、その手前に平台が二つ。右には長い背中合わせの本棚が置かれている。奥壁の真ん中辺りには、下が平台で上がラックの什器がひとつ置かれ、住居部分出入口への目隠しの役割を果たしている。入口左横には正方形のスチールラックがドスンと置かれている。外気に近い室温に身を震わせながら、シンとした店内をジリジリ探って行く…。入口左横には絶版漫画揃いと手塚治虫漫画全集が詰め込まれ、平台手前には新刊雑誌とアダルト雑誌、平台奥には児童文学・児童書・復刻本が集められ、平台と平台の間には無造作な文庫&新書の山が築かれている。左壁は70〜80年代のアイドル・ティーンズ文庫・児童文学から始まり、絶版漫画・ノベルス・新書・ポケミス・ミステリ&エンタメ・海外文学・日本文学・歴史小説・文学評論。そのまま奥壁に文学評論が続き、登山・自然・エッセイ・カルチャー。合間には推理小説&幻想文学もあり。フロアのラックには、主にグラフ誌・絵本・ビジュアル本が収まり、上部に写真・美術・映画・音楽が並び、下の平台には雑誌類が積み重なる。目隠し棚の上部は囲碁・将棋・鉄道模型などで固められ、下の平台には旺文社文庫が三段集められている。フロア右側の棚は両面共文庫が大量に収まり、左が出版社別日本文学文庫・時代劇文庫、右が官能文庫・SF文庫・海外文学文庫となっている。絶版が多く紛れているので見応えあり。上部にはセレクト絶版文庫や探偵小説文庫が乗っていたりする。奥壁の右側には、地方出版・秋田・郷土・歴史・宗教があり、右壁は手前からアダルト・古い学術&資料&文学本・写真集・欧米・アジア・社会科学・オカルト・犯罪・ノンフィクション・近現代史となっている。本の量が多く、並びに時代の深みがある。珍しい本もそこかしこにあり、非常にドキドキしながら楽しめるお店である。しかし値段はどれもきっちりで、隙がほとんど見られない状態。当然良い本にはプレミア値がバッチリ付けられている。と言うわけで、安めの本ばかりを六冊選び取り、いつの間にかひとりになっていた老婦人に精算をお願いする。あっ!老婦人は手を三角巾で吊っているではないか。これは手伝わないとイカン。協力を申し出て、値札を本から外し、袋詰めを自らの手で行う。「まぁまぁ、お客さんにやっていただくなんてすみません」と老婦人は優しい微笑み。腕を、どうかお大事に。角川文庫「真説金田一耕助/横溝正史」「SELDOM-ILLEGAL/坂本龍一」春陽文庫「傍若無人剣/南條範夫」創元推理文庫「髑髏城/ディクスン・カー」ヘラルド映画文庫「エレファント・マン/C・スパークス」共立出版「化石のつぶやき/井尻正二」を購入する。
古本屋さんが駅前にあったのをいいことに、すぐさま駅へ取って返し、羽越本線下りに乗って、次は秋田を目指す。里山的風景を突き抜け、砂丘が出来かかっている風の強い日本海沿いを進み、やがて大きな都市の中へ。うーむ、こんな所まで遥々来たなぁと、疲労と旅情を噛み締めつつ、入ったことはあるがツアーはしていない「松坂古書店」にダッシュで向かう…ほわぁっ!シャッターがガッチリ下りていて、水曜定休日っ!
…やってしまった。これならやはり「山中文庫」に再チャレンジすべきであったか…しかしもはやその時間は無い。仕方無く通りをそのまま西進し、およそ三年ぶりの「古ほんや 板澤書房」(2009/01/31参照)に飛び込む。むむむ、以前はそれほどとは思わなかったが、ここはかなり良いお店だ。ハヤカワポケットブック「シェーン/J・シェーファー」ハヤカワポケミス「気ちがいピエロ/ジョゼ・ジョバンニ」光風社「銀と青銅の差/樹下太郎」金園社「探偵小説百科/九鬼紫郎」を合計2700円で購入し、秋田土産とする。では、気合いを入れて東京へ戻りますか。


そして「探偵小説百科/九鬼紫郎」なんてシブい本を。ああ、わたしもゲラを放り出して、プイっと遠くへ行く電車に体をあずけたくなってきました。
秋田市なら香文堂さんの店舗に辿りつけたらおもしろいかもしれません。
でも、3店ともわざわざ行く価値ありですね。2店舗はしっかり値づけでしたが、松坂古書店は値づけにバラつきがあり、ややスキがありました。
松坂古書店は古ツアさんに一度見てもらいたかったです。。。
https://twitter.com/mumyosha/status/934988518446661633
秋田の香文堂は秋田市大住2-3-13に移転し2019年3月中旬にオープン予定という連絡がありました。こちらのお店おすすめです。