●和歌山・神前「さかえ堂」
最初に駅西側にある古本屋然とした古本屋さん「まさ書房」を見に行くが、店内に電気は点いておらず、ドアには鍵が…なに、まだ正午だ。きっと午後一時頃に重い腰を上げ、開店してくれるのだろうと楽観して、JR紀勢本線の下を潜って東側に出る。そして住宅と水田の間を進む単線、わかやま電鉄貴志線に乗り込む。物凄く揺れる二両編成で、終点の貴志駅まで行くと、あの有名な三毛猫“たま駅長”に会えるらしい。終点まで行ってしまいそうになるのをグッと堪えて、民家の裏手にある神前駅で下車する。ホームから出て民家の間を縫う小道を東に抜け、南北に走る田舎道へ。交通量が激しい上に、ほぼ歩道の無い道を400mほど進むと、建ち並ぶ建物の上に頭ひとつ抜け出た『古本』の看板が見え、慌てて近付くと、そこには扉を開け放ったペパーミントグリーンの倉庫が一棟建っていた…何だこれは!夢か?それともただの倉庫なのか?あのグルグル回る黄色のパトランプは何を意味しているのか…?恐る恐る扉に近付き中の様子を窺うと、手前左側にスチール机を集めて造られた明け透けな事務所スペースがある。そこではアロハ姿の禿頭のおじいさんが、完全に就眠中である。その奥に林立する白い本棚が見えたので、非常に不安ではあるが古本屋さんである可能性は大きくなった。しかし!この倉庫の右半分には疎らにスチール棚が置かれ、ダンボール箱も散乱し、化粧品のような商品が多数放置されている。奥には車の影までもが見えているのである。静謐で蒸し暑いアウトローな空間は、まるでたけし映画のワンシーンを見ているようだ…おじいさんが寝ているのを幸いとし、こそ泥のように左奥に侵入して行く。白い本棚と巨大な平台で四本の通路が造られ、疎らにやる気無くコミックが並んでいる。奥壁棚には写真集、左端通路は品数が少な過ぎて逆にお洒落なディスプレイに見えてしまうアダルトDVD.。三列目左側に一応古本の姿を確認する。雑本文庫・ノベルス・ハーレクインの燃えぬ三本柱…うう〜んと悩みながらカッパビジネス「悪の管理学/川上哲治」を手にする。他にも何かないだろうかと平台にも探りを入れる。古い雑誌とゲーム攻略本がドッサリ…スーパーファミコン時代のものが多いな。そう思い注意していると、よっ!小学館「真・女神転生2」を発見。これは「真・女神転生」から続くクオリティ高い攻略本で、名著と読んでも差し支えない本である。値段は良く判らぬが、おじいさんを優しく起こして精算してもらう。すると二冊共90円也。ありがとうございます。
またもわかやま電鉄に乗り込み、もう開いていると信じて「まさ書店」を見に行く。しかし開いていない!しかしどうしても入りたい!勇気を奮い起こし、扉に書かれた電話番号に電話を掛けてみるが、哀しみが止まらない直留守電…あぁ、俺はまた、この地に来なければならぬのだな…。
ではめげずにもう一軒と、南海本線沿いのお店に向かおうとしてみるが、接続悪く一時間待ちであることが判明。こんなに待ったら大阪に帰れるじゃないか!そうと判れば『特急くろしお』に早くも飛び乗り、大阪の古本屋さんを見に行くことにする。この特急は和歌山駅を出たら、天王寺と新大阪にしか停まらないので、未知の天王寺駅で下車。しかしそこで待っていたのは、古本屋さん全滅地帯!駅周辺の古本屋さんの入っていたビルが、悉く新しくなってしまい、お店の影を一掃していたのである!まさか古本屋がひしめく大阪で、こんな目に遭ってしまうとは…己の余りの運の悪さを罵りながらも、心はまだ折れずに次なるお店を目指して北へ…。
●大阪・大阪「古書 ゆうぶん」
南口に出て東に歩道橋を二度渡って、『阪急百貨店』を突き抜けてアーケード街の『阪急東通り』に入って行く。グングン進んで一度横断歩道を渡ると、通りの健全さが影を潜め、猥雑な風俗店が増えて来る。今は亡き「末広書店」(2012/05/05参照)を思い出しながらアーケードを抜け切ると、雑居ビルの谷間の道の先右手に、『古書』の文字が見えて来た。雑居ビル一階のこじんまりとしたお店である。白い看板の下には白い日除けがあり、その下には木の扉と映画ポスターが貼られたウィンドウ。店頭には台車に乗った100均文庫、二段の100均文庫台が二つ、ダンボール箱に乗った100均単行本と、単行本の入ったプラケースが置かれている。地面に“ゾゾゾゾゾ”と引っ掛かる扉を開けて店内へ。冷房がキンキンに効いた、両壁に本棚、真ん中に背中合わせの本棚、奥に帳場のスタンダードな空間。店主はハスキーボイスの芦屋小雁似で、お客さんと映画の話をしてゲハゲハと笑っている。雰囲気からして趣味性の高い一本筋の通ったお店であることが窺える。右壁はSF文庫・ミステリ文庫・探偵小説文庫・コミックの混合棚から始まり、邦画・洋画・映画全般・探偵小説・幻想文学・写真・隠秘学と並び、足下には平岡正明タワーや映画パンフの箱も置かれている。また奥の帳場横はプレミア本棚らしく、岡本喜八・吉田兼吉・表現主義・建築古書・映画古書などが固まる。向かいは棚脇100均文庫棚をまずは見て、落語・役者・芸能・日本文学・詩・文学評論・絶版漫画・カルトコミック.アニメ関連と流れて行く。膝元にはビジュアル本や映画スチールなど。入口左横のカバー無し岩波文庫を見下ろしてから、左壁に国書刊行会・時代劇文庫・官能文庫・新書・文学&歴史系文庫・民俗学・文明・哲学・思想を経て、帳場脇の美術へ。向かいは音楽・近現代史・歴史・古代史。風俗街の片隅の文化的薫りの高いお店で、映画に見所あり。値段は普通で、良い本には油断の無い値付けがされている。光文社文庫「ミステリーファンのための古書店ガイド/野村宏平」桃源社「悪魔学大全/酒井潔」を購入。木床を踏み締め、再び毒々しい街の中へ。
初めての和歌山県ツアー、とにかくこの地で古本を買えたことを、まずは良しとしておこう。しかし必ずや再訪し、この仇は討たねばなるまい!大阪では、天王寺での全滅騒ぎで狼狽えてしまったので、次回はしっかり計画を立て、このビッグシティにも再び挑みかかるつもりである。…財布の中身をなけなしにして、ようやく帰り着いたら、東京は雨。


東京も酷暑が戻ってきたようですのでご自愛下さい。
半年ほど前、小生も「まさ書店」さんに敗北いたしました。
東京から出かけましたが、ドアには鍵が。和歌山城で時間をつぶし再訪するも同じ。ここに至ってはいた仕方なく電話をさせていただくも留守電。完敗です。
ぜひいつの日かリベンジ期待しております。
大阪も暑かったですね。
もともと60歳を過ぎたら商売に区切りを付けたいとおっしゃっておられたのを延ばし延ばししておられましたが、
数年来、体調が優れないし、景況も今ひとつということで決断されたようです。