その上、郵便受には何日か分の郵便物がグイグイと押し込まれ、右端には商店街からの連絡事項が貼付けられている…つまりはお店は開かないし、電話で連絡も取れないと言うことか…これは心配だなぁ。一体どうしたんだろう。引き続き気に留めておこうと、再びペダルに足を掛け、『中野通り』を南下して『駒場公園』へ。正門脇に自転車を停め、砂利をジャクジャク踏み込んで園内を進む。スクラッチタイルが眩しい『旧前田侯爵邸』を右に見て、鬱蒼とした森のような公園の東奥に進み続けると、突然目の前が明るく開けて、箱のような『日本近代文学館』が石畳の庭の向こうに出現した。庭の入口には、目指すカフェの金属看板が立っている。陽の当たる人気の無い庭を軽快に横断し、中二階への階段を上がって、ガラスの大扉に吸い込まれる。そこは薄暗く静かでスクエアなエントランス。右に文学館への入口、左に早速カフェの入口がある。
そろそろと左に進んで、窓の大きい縦長の空間に入り込む。入口右横には陶器と、万年筆や原稿用紙などの文豪グッズが、ガラスケースに飾られている。それに夏葉社とサウダージブックスの本も。左の窓際には棚板が一本渡され、食・古本・猫・深沢七郎・言葉に関する本が並び、奥に細いサブカル&映画棚、そのさらに奥に作家サイン色紙と文学評論が続く。奥は厨房カウンターで、その横に“書籍商”の札を掲げた日本近代文学棚がある。右壁には大きく背の高い本棚が五本設えられ、海外文学・日本文学・詩・コミック・文庫をセレクトして収めている。フロアにあるテーブル席下にも本が並び、戸板康二・歌舞伎・川本三郎などを確認する。誰もいないので真ん中辺りの席に腰を下ろし、文豪やその作品に因んだ飲食物が列記されたメニューを読むように眺めて、中原中也&夏目漱石に所縁あるエビスビールを注文する。ビールが来る間に本棚をジロジロと眺め続ける。本には値段が付いてるものと付いてないものがある…これが恐らく販売本か否かの別れ目と見た!タモリ本&ファミコンの父・横井軍平本の充実っぷりにノドを鳴らしながら、ビールを運んで来たハンサムなウェイターさんに「ここの本は、値段が付いているのが売り物なんですか?」と聞いてみる。すると、彼は少し戸惑いを見せながら「えっと、ここにある本はみんな閲覧用なんです。売っているのはここにある分だけで…」と、カウンター前のテーブルに並ぶ、十数冊の本を指し示した。それは近代文学館が出している、文学復刻本…つまり新刊なのである。「あっ、じゃあ値段が付いているのは?」「あれは、古本屋さんで買って来た本をそのまま並べているので…」…何てことだ。ここでは古本が売られていないことが判明した。このお店を紹介した雑誌類には『◯月から古書の販売を始める』『セレクト古書を販売している』などと書かれていたが…何とも苦々しい残念な結果となってしまった。だから苦々しくビールを飲み干す…それでもここは古本を買えなくとも、文学散歩のオアシスであることに変わりはない。『尾崎翠のアップルパイ』『寺田寅彦の牛乳コーヒー』『堀口大學のシャンパン』(8500円!)『谷崎潤一郎のトーストサンド』など、制覇したいメニューが多いのも、また事実なのである。
しかしそれでも、古本を買わなければ、やはり耐えられるわけがない!と、池ノ上に猛スピードで移動して「由縁堂」(2008/09/02参照)。冬樹社「上海摩登/海野弘」てのり文庫「名探偵トリック作戦/藤原宰太郎」を計1100円で購入しながら、レジ台の上に横たわる黒キジ猫と感動の再会!しかも今回は撫でさせてもらい、感激に身を震わせる。続いて線路脇の「文紀堂書店」(2008/09/02参照)。店内の棚を眺めながら、『俺、このお店が好きかもしれない』と言う自分の気持ちに初めて気付く。レア本を掘り出した2013/04/07に続き、今日も小粒だが良書を安値で手に入れて行く。書肆ユリイカ「現代フランス詩人ノート/小海永二」金蘭社「ペルシヤ物語」(函無)新潮文庫「恐竜物語/ブラッドベリ」ソノラマ文庫「怪獣男爵/横溝正史」を計1400円で購入。この掘り出せる感触は、「九曜書房」(2009/03/26参照)にちょっと似ているのだ!

