どうにも遠くに行きたくなってしまった旅心を抑え切れずに、背徳の山形新幹線。福島駅から車体を傾けて西に曲がり込み、低速で山間を進む。米沢駅で奥羽本線に乗り換えて、暖かいシートにお尻を乗っけて四十五分。枯草の田園地帯と列島のように現れる街と駅を重ねて行き、山形駅ひとつ手前の蔵王駅で下車すると、予想していたリゾート感は皆無で、生コン工場と、すでに冬眠しているような街が広がっていた。駅舎から出て、真っ直ぐ東に延びる道を歩いて行く。擦れ違う人影は無く、『蔵王駅前商店街』は壊滅の一歩手前…。そんな寂しい光景の先には、雪を被ったとても高い蔵王の山々が見えている。あの遠く高く白い山肌で、若い男女がレジャーに興じ、恋に落ちたりしているのだなと、まるで下界から天上界を見る思い。須川を渡り、車ばかりが賑やかな『国道13号』を越え、道は緩やかな上り坂になる。駅から一キロ強も東進して、『県道267号』を南の『蔵王温泉』方面にテクテク。雪はまだ山の上にしか見えないが、その山から吹き下ろして来る風は冷たい。まだまだ道は緩やかに山裾を上がって行く。一キロ弱も進むと、右手に『本 リサイクル自転車 ビデオ』とある看板が見えて来た…明らかにハイブリッド店である。大岡山「ふるほん現代屋」(2013/09/24参照)と同じく、中古自転車屋と融合してしまっている…それにしても、何と言う立ち姿!あぁ、トタン塀とトタンに包まれたバラック的建築が、倒錯的に甘美なのである!そんなお店の外観にのぼせ上がりながら、中古自転車の並ぶ店頭に、ジャリジャリと近付く。ガラス窓の向こうには、間違いなく乱雑に並ぶ、古本の後姿が!サッシを開けてほぼコンクリ土間の店内に入ると、『キャワワワキャワワワ!』と奥のサッシの向こうの住居部分から、チワワに激しく吠えつかれる。コタツがあり、おじいさんとご婦人が暖を取っている。鳴き止まぬチワワに苦笑しながら会釈すると、ご婦人がお店の電気を灯してくれた。自転車修理の作業場兼倉庫の壁に、木板で作られた本棚が巡らされている。右奥は自転車関連の小部屋になっているようで、全体的には“L”字型をしている。入口右横は通路状になっており、ミステリ系文庫とコミックが並んでいる。足下にはダンボールや車輪・サドルなどの部品類の他に、様々な生活ガラクタや未整理本が置かれている。右壁には一番充実している時代劇文庫と、二十冊ほどの山形資料本が棚上に集まる…チワワはおとなしく伏せているが、その大きな黒い目は、ギロギロと闖入者の一挙手一投足を凝視している…。左際には、入口近くにアダルト雑誌と共にUFO&オカルト系ノベルスが二段分。奥のちょっと見難い部分には、官能文庫・ノベルス・時代劇&ミステリ文庫がカオスに収まっている。乱雑で雑本的な、文庫中心の大衆店である。が、所々未整理本や棚上に、やけに古い学術系の本があるのが少し気になる。本に値段は付いていない。なので三冊を手にして「すいません」と声を掛けると、チワワが『キャワワン』と再びヒートアップ。今にも飛び出して来そうなので、細めに開けたサッシの隙間から本を差し入れる。すると値段はすべて100円。チワワは『キャゥ〜』と小さく唸りながら、グルグルグルグルその場で回転中…ご婦人と共に苦笑する。新潮文庫「キャリー/スティーブン・キング」(旧版・初版)河出文庫「悪魔礼拝/種村季弘」青樹社BIG BOOKS「殺人病棟の女/中町信」を購入。
この時点で時刻はまだ午後一時過ぎ。よし!山形まで出て、「香澄堂書店」(2010/11/06参照)と「紙月書房」(2012/09/02参照)で、“ミステリー古本黄金体験”をしに行こう!と決めて駅まで戻ると、何と電車は一時間十分後…ガラガラとすべての予定が瓦解して、即帰ることにする。しかし次の電車に乗ったとしても、二駅先で四十分待ちしなければならない…。待合室で、少し青ざめながら、ひとり寂しく座り込み、石油ストーブに当ることしか、出来ることはなかった…。


先日の朝日夕刊で大きく紹介された都電荒川線ホーム隣接の梶原書店に優るとも劣らないドメスティックかつ大衆的な店構え。行きたい!
そうだ、妻の山形酒田への正月里帰りに便乗して行ってこようっと。そして、またあの鶴岡:阿部久書店も。