2014年03月12日

3/12東京・神保町 古書 山猫屋

今回のツアーのハードルは、恐ろしく高い。一度お店の下まで行き、そのあまりの入り難さに怖じ気づいた過去があるのだ。…しかし、いつかは入らねばならぬ。それが、俺の使命なのだと、悲愴な決意をギュッと固めて、まずは九段下へ向かう。地下駅から九段坂下に顔を出し、日本橋川沿いにそびえ立つ『千代田区役所』九階の『千代田区立千代田図書館』を目指す。図書館が神田古書店連盟と組んで、『としょかんのこしょてん』と言う名の古書展示&販売を行っているのだが、現在開催中なのがそのハードルの激高なお店「山猫屋」なのである。先にここを見ておき、お店で何か聞かれたならば『図書館の展示を見て…』と口実を設ける戦法!それほどまでの準備をせねば、落とせないほどの難敵(あくまでもこちらの想像である)なのである。しかし、七つのプラケースに飾られた和本・洋書・プレミア古書を見ていると、不安がますますひろがるばかり…レ、レベルが高い…いや、ステージが違い過ぎる…そんな風にしてさらに気分を暗くしながら、手書きコピーの目録を手にして庁舎から脱出し、目録に目を落としながら『ここで買うべき本に目星をつけておけば、どうにか切り抜けられるのでは…』と考えるが、四桁五桁の数字に目を回す始末…。

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『靖国通り』から『錦華通り』に入り、ちょっとだけ北西上。最初の信号で北寄りの脇道に入り、夏目漱石『我輩は猫である〜』の碑を横目にカーブする寂しい通りを、道なりにぐんぐん進んで行く。右側には崖下の『明治大学』の校舎やグラウンドが連続する。それが途切れると、一階が喫茶店の古い一軒の雑居ビルが姿を現す。ビル横っ腹の三階窓を見上げると、そこには紙に筆で書かれた「古書 山猫堂」…街の喧噪から遠ざかり、古本屋街からも離れ、こんな所にお店が何故あるんだ!と歯噛みしながら、通りからビルの薄暗い入口へ。稲妻型の古い階段を上がると、二階はレモンイエローの扉で三階は水色の扉…廊下中央にその扉を持つのが、目指すお店であった。と言うか、これは本当にお店なのだろうか?当初から胸に渦巻く不安が、激しく肥大して行く。事務所にしか見えぬのだが…だが、ここまで来たら引き返すわけには行かないので、金属のドアノブにグッと手を掛けてしまう。あれ?扉には鍵が掛かってるじゃないか。しかし、大きなドアガラスの向こうで、こちらに気付いたスーツ姿のダンディな南原宏治風店主が、訝しげな表情を浮かべながらも、すぐに鍵を開けてくれた。「あの〜、こちらはお店ですよね?」「あぁ、そうですが、月に一人二人しか来ないので、事務所のようなものでもあります。何か?」「いえ、図書館で展示を見て、スゴい本が並んでいたので、どんなお店なのか見たくなってしまって…それで来てしまいました。地図にはお店と書いてあったので…」「そうですか、なるほど。まぁどうぞ、お入り下さい。どうぞ、こちらへお座り下さい」と招き入れてくれる。ぃよっしっ!入店成功だっ!雑然とした横長の店内は、店舗と言うよりはやはりほぼ倉庫兼事務所のようで、右に大きなデスクと裏路地店舗時代(当時も怖じ気づいてお店には入れなかった)で見覚えのある大きなスタンドがあり、壁際にガラス戸棚。左半分の壁際に白いボックス棚とフロア棚があり、横積みの和本・洋書・古書・掛軸類がドッサリ詰まっている。床にも本の山が積み上がるが、広い窓に下がったブラインドと、目の前に座るダンディ店主が同じ風景に溶け込んでいると、まるでハードボイルドな探偵事務所に調査の依頼に訪れたような錯覚を覚えてしまう…。「今は目録とネット販売が主なので、棚は見るようには作っていないんですよ。前はちゃんとしたお店だったんですけどね」などと、突然の闖入者を前にして落ち着いて話し始めると、会話はフルスロットルでディープに古本界隈の轍にはまり込んで行く。店主の膨大な読書遍歴、小説への興味の喪失、店売りの現状、和本、古文書、中世鎌倉、活字印刷、手書き目録、古本市場、古本屋稼業、値付美学、素人&玄人時代…と話題は目まぐるしく変化しつつも、とにかく読書の深淵と“本”と言うメディアの面白さの分析が、留まるところを知らずに展開!うぉぉぉ、これはやはりステージが違い過ぎる!古本を買いに来たら、どうして脳みそを煙が出るほどフル回転する羽目にっ!それでもお話は刺激的で面白く、瞬く間に四十分が経過してしまう。いつまでも聞いていると、頭が確実にショートしてしまうので、頃合いを見計らい、目録を盗み見ながら選んだ一冊を見てみたいと申し出る。そうして棚から探し出してくれた一冊、六合館「新聞廣告の研究/新田宇一郎」がちゃんと面白そうだったので、購入を決意する。さらに手書き目録のバックナンバーもいただき、お礼を言って長居したお店を辞去する。ふぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜っと、路上で緊張を吐息にしてから、ユラユラ『ミロンガ』にたどり着き、青島ビールで弛緩しまくる…とにかく、入れて良かった。
posted by tokusan at 21:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 東京 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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