
青春18きっぷを使い、常磐線で遠出。土浦駅近くで壮観な蓮畑の中を突っ切り、日立駅付近で太平洋の水平線に接触すると、海上と海岸付近には潮風のためか炎熱のためか、白いもやが吹き流れていた。そんな風に東京から四時間。南口に出て、四年ぶりの白いいわきの街に潜り込んで行く。空中広場から地上に下りて、駅前の通りを西へ。大きな『レンガ通り』に行き当たったら南へ。商店街である整備された『本町通り』を通過して、次の裏通りな脇道を西へ入る。すると右手にズングリした古いビルが現れ、飛び出した側壁に守られたような一階に、二軒のお洒落なショップが入っている。左側の音楽雑貨店『グリニッジ・ヴィレッジ』に注目すると、おぉ!全面がガラス張りなので、左壁手前に三本の古本棚を確認出来た。以前、常磐線植田駅でツアーした「瑞雲堂書林」(2012/05/20参照)であるが、現在は『植田コイン』と名を変え、純粋なコイン屋として営業している。その古本部門とベーシックなコイン屋部門を、この音楽雑貨店の一角を借りて移植したのが、平店と言うわけなのである。本棚から視線を外さずに右端の扉に手を掛ける…ガチッ…開かない。中の灯りは点いているのに。その時、メモを千切った小さな貼紙があるのに気付く。『配達に出ています。1時半には戻ります』…現在は十二時半である。仕方ない、昼食を摂りながら待つとするかと、扉を閉ざした「平読書クラブ」(2010/09/09参照)横の公園で、集う雀と共に地元パンを齧る。そしてどうにか時間を潰して午後一時半。しかしお店に動きはなく、まだ戻っていないようだ。その後、時間をおいて何度か見に行くが、やはり帰って来ない!いつまでもこうして、不審者よろしく張り込んでいるわけにはいかぬので、幸い外から本棚が丸見えなのをいいことに、ウィンドウに張り付いて、強引にツアーを決行してしまうことにする。三本の本棚は六〜七段に分けられ、真ん中はディスプレイ用。密教などの宗教・技術書・専門書・近代亜細亜・風俗・歴史・戦争・和本・古雑誌・利殖・コインなどが目立ち、カオス気味で古書も多め。しかしそのディスプレイは、お店に合ったしとやかさを獲得している。あぁ!触りたい捲りたいが、古本はガラスの向こう…。まるでビートたけし主演映画『哀しい気分でジョーク』(死期間近なコメディアンが息子と共に別れた妻の姿をオーストラリアまでこっそり見に行く話)みたいなツアーになってしまった。多少の罪悪感を覚えながら、そそくさと駅へ戻り、常磐線上りに乗り込む。
どうもこのまま帰ってしまうのは具合が悪いので、日立駅で列車を乗り捨て、陽の傾いた海岸段丘の街をひとっ走り。蘇鉄も健在な「佐藤書店」(2011/01/19参照)に飛び込んで、少ない時間で街の古本屋さんを味わいつつ、足下の古い本の山を穿り続けたいのをグッと我慢して、創元選書「ポオ詩集/日夏耿之介譯」講談社ノベルス「十四年目の復讐/中町信」を計850円で購入。ようやく古本にありつけた!と返す刀で駅まで戻り、後は東京を目指すのみ。
