濃尾平野上空に群浮する雲が、地上に昏い影を斑に落としている。青春18きっぷを使い七時間かけてやって来た、およそ一年ぶりの熱田である。人影の少ない駅から離れるようにして西口を出ると、すぐに熱田神宮の東側に沿う『大津通』に出る。もはや北側に見えている「伏見屋書店」(2014/01/03参照)は後で絶対に寄ることにして、南に昭和の澱を溜め込むようにして煤けた、小商店がゴチャリと連続する『神宮前商店街』のアーケードを駆け抜ける。300mほどで、大きな名鉄『神宮前駅』のロータリーにたどり着く。その前をさらに南に進むと、『神宮東門バス停』前にある小さな古本屋さんが視界に入った。店頭には二十ほどのダンボール箱が流れ出している。そしてその間に、キャップを冠ったジャンパー姿のオヤジさんが、ポケットに両手を突っ込み、身を傲然と反り返し、鼻歌を歌いながら、寒さに抗うようにして立ち尽くしている。立ち居振る舞いは高倉健そのものだが、ルックスは平沢勝栄風である。店頭に近付くと「古本です。見て行って下さい」とボソリ。会釈して居並ぶ箱に視線を落とす。そこに詰まっているのは、99円の雑誌・コミック・廉価コミック・単行本・ビジュアルムック・大判本などで、入口横には三冊100円の文庫台もある。小さいがわりと天井の高い店内に進むと、左奥に帳場があり、三方の壁は造り付けの頑丈な木棚で覆われた、昔ながらの小書店スタイル。中央には平台付きの木製棚が据えられ、両脇にも本棚が置かれている。店頭に店主と顔見知りのご婦人が現れると「バスまだ来ないから中に入ってな」と言い、一緒に中に入って来た。左側は入口横から、鬼平&ゴルゴ廉価コミック・100均日本純文学文庫・雑学系文庫、そして壁際のコミック・自然・絶版漫画と流れる。棚下には児童絵本&文学・絵本が積み重なる。向かいにはコミックと児童文学。入口正面の棚脇には、100均300均500均の単行本が収まっている。右側には壁際に実用(ペット・美術・健康・生活・スポーツ・料理など)・エロス・アダルト・官能小説が並び、向かいに定価半額の文庫が揃っている。奥壁棚には仏教・詩歌句・日本文学・日本史・時代小説がそれなりに揃っている。値段は安く、果てしなく雑本的で、何だか好感の持てるひたすらに街の人のための古本屋さんである。ゴチャゴチャした店内に潜り込む楽しみあり。本は大体70〜80年代以降が中心。春陽文庫「麗しきオールド・ミス/源氏鶏太」を買い、味覚糖・純露のハチミツ味をひとついただく。
気持ち良くお店を離れるが、気が急いて駆け足になり、ずーっと来たかった「伏見屋書店」前。
外棚で50円文庫と100円本の成果を上げてから、店内の長い古本通路に分け入って行く…。あまり時間はかけられないので、二十分ほどですべての棚に目を通したつもりで、東方社「青い火花/黒岩重吾」(真鍋博の装幀が青く美しい一冊。帰りの電車で読み切ったのだが、所収の『病葉の踊り』は傑作ではないだろうか。富ノ澤麟太郎や萩原朔太郎、乱歩の『踊る一寸法師』、初期谷崎潤一郎に始まり、京極夏彦・京極堂シリーズの関口君や、津原泰水・幽明志怪シリーズの猿渡君へと続く、病的文学&病的キャラへの進化系統中間にピタリと当てはまる気が…)ポプラ社「銀蛇の窟(海の巻)/高垣眸」集英社文庫「洲崎パラダイス/芝木好子」学研1971年「5年の学習・科学読み物特集号」(須知徳平のユーモア冒険小説、福島正美のSF、大石真の座談会、F・ディクソンのジュニアミステリあり)を計2150円で購入する。よっしゃ!帰ろう。

