2015年08月09日

8/9神奈川・新逗子 勿忘草

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昨日は一日中、ある先達の古本屋巡りの旅の記録の中を彷徨い続ける、不思議な仕事に従事する。読むほどにうらやましさが募り、ただただ未知のお店に行きたくなってしまう…。明けて本日、そう遠くへは行けないので、京浜急行で補助いすに硬く腰掛け、南へ一時間。以前、逗子駅近くの『亀ヶ岡八幡宮』の骨董市で(2014/09/13参照)、古本を扱っていたアンティークショップを目指す。京急逗子線の最果てである南口から表に出てすぐ、東に足を向け、田越川を仲町橋で越えて川沿いに南へ。東から迫る山と、川に挟まれたこの一帯は、うねる道沿いに古い家も並び、車さえ頻繁に通らなければ、静かにささやかな旅情を味わえるだろう。通りを南に進んで行くと、山裾から大きな寺の敷地が山肌に広がるのが目に入り、その向かいの二階建てアパート先端を改造し、青い日除けの下の白い出窓を草花で飾り立てたお店を発見する。無料の貝殻類を眺めて、左横のなだらかなアパート敷地内へのスロープを上がり、ガラス器が多数置かれたドア前から通路に入ると、細かな陶器・ガラス器・小さな人形類・植物の実・小アンティーク類が、どっさり載った棚が壁際に続く。土足のまま奥に進むと、縦に二部屋が振り分けで並んでおり、そこに大小様々な棚や台や机やラックやガラスケースを設え、陶器人形やボタンや西洋アンティーク小物を中心にギュギュギュッと飾り、住居感と店舗感がせめぎ合う、濃密だが整頓された空間が組み上がっていた。電気が点いておらず、左の部屋の奥のテーブル前に、二人の男女が後ろ向きに腰掛けている…「すみません、見せてもらってもいいですか?」と声をかけると、「あぁっ!いらっしゃいませ」と二人は慌てて立ち上がり、「今、電気点けますね」「どうぞ、ゆっくり見て行って下さい」とにこやかに迎え入れてくれた。優しくフレンドリーな壮年のご夫婦である。まず右の部屋に入ると、ちょっと大きめの家具類と共に、人形や飾り物がひしめいている。左奥に絵葉書箱を見つけたので、肩ならしに『軍事郵便』『建築』『少年倶楽部』などに分けられた紙片を繰っていると、奥様がひょこっと顔を出され「どんなものを探されてます?紙物お好きなんですか?」と柔らかく探りを入れて来る。「紙物はそれほどではなくて、どちらかというと古本が…」と言うと、「古本はこっちの部屋にありますよ」と、心が大いにときめく殺し文句が出る。大喜びで左の部屋に赴き、たくさんの小さな陶器人形が、こちらを見詰める通路を擦り抜け、奥のテーブル前へ。おぉ!確かに片隅に、古本棚が一本存在している!しかも古い本ばかりだ!まずはテーブルで、激安の紙物箱をソワソワと浮き足立って吟味。目的の古本にとにかくむしゃぶりつきたくて、ソワソワは続く。面白そうなマッチ箱やイラスト紙片を取り分け、いよいよ本棚の前へ。本は薄手のものが多く、そのほとんどがセロファン袋に入っている。明治本・教科書・婦人洋裁本・児童雑誌・学習雑誌・絵本・附録が四段に茶色く収まっている。一番多いのは教科書だが、辛抱して漁って行くと、時に面白いものが飛び出して来る。それにしても、安いな。四桁いっているのは1200円の「赤い鳥」くらいのものだ。というわけで棚の前に跪き手に入れた収穫は、杉山書店「人形佐七捕物帳百話 日蝕御殿・他七編」文人社「物語小説 人間魔/野村胡堂」(表紙画は志村立美!)富士屋書店「幽霊船の怪宝/たかのてつじ」(落丁あり)婦人之友社「子供之友 昭和八年九月」、それに空マッチ箱六つ・象とライオンのイラスト紙片・少年倶楽部附録はがき二枚(あぶら蝉とインディアン酋長)・1924年蒲田映画「黄金地獄」カラー広告(雑誌の裏表紙)を計2000円で購入。あぁ、興奮した。楽しかった。この中で一番嬉しかったのは「子供之友」が350円で買えたことだが、一番気になる物は神戸の食堂『みかど』のマッチ箱。『みかど』は調べると神戸駅構内にあった、食堂車と同じメニューを提供していたレストランらしい。それにしてもこの粗雑な造りのマッチは、恐らく戦中〜戦後すぐのものだろうが、何が書かれているのかよく分からない(椅子?)表と、裏の神戸港の絵が、妙に心を捉えるのだ。誰か名のある絵描きが描いたものだろうか…。
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※写真は合成の展開図です。

帰りに近くの古本屋さんの消息を確認すると、「ととら堂」(2012/05/02参照)は店内の本の森加減が進行し、元気一杯に営業中。だが『逗子銀座通り』を抜けた交差点脇にある「古本よみま専科」(2010/02/27参照)は、夏の暑さに融けてしまったかのように、消滅していた。ひとつの古本屋が消えたことなどに、誰も心を砕くことなく、銀座通りは、ビーチへ向かう半裸の男女の陽気さに、満ちあふれている。
posted by tokusan at 18:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 関東 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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