●松江「ダルマ堂書店」
目の前の『県道431号』を東に進む。船底の浅い小型の遊覧船が次々と現れる京橋川に架かる、『京橋』と『東京橋』の間に、一軒の古本屋さんがあるのを、すでに確認済みなのである。道路からちょっと奥まった場所にある、ちょっとショールームチックなそのお店は、実は昨日訪れた「だんだん書房」(2015/10/23参照)奥様の、父上のお店なのである。つまりは連続で親娘それぞれの古本屋さんを訪ねることになったわけである。左にガラスケースが二台ある小空間があるが、奥にグッと空間が延びて行く、余裕のある店内。昨日トークにまで来ていただいた、作業着ジャンパー姿の老紳士店主にご挨拶し、早速棚に食らいつく。そして即座に『このお店には何かがあるぞ!』と、古本修羅レーダーがピコンピコン盛大に反応してしまう。左右の壁に長い壁棚が設置されており、中央には三本の背中合わせの棚が縦列し、余裕ある通路を造り出している。入口右横の大きな窓際には応接セットと机のみの帳場がある。左のガラスケース内を覗き込むと、文学プレミア本とともに、戦前の南洋一郎の少年冒険小説が飾られている…よって期待はさらに大きくなる。左の壁際には明治大正本も散見される日本近代文学から始まり、同等の古さを保ちながら短歌・俳句・詩・民俗学・朝鮮・中国、そして見たこともない『武士道文庫』『冒險文庫』などが固まっている。棚下平台には古雑誌や紙物がズラリ。奥壁の左側には専門書的な和本が集められている。通路棚には、日本文学・充実の小泉八雲関連・戦前文学&大衆小説・美術・民藝と続いて行く。棚を見ている間にも、店主と様々な会話を交わしているのだが、すでに魂は古本棚に吸い取られてしまっている。棚下平台には古い大衆雑誌・児童雑誌・美術誌などが置かれている。左側通路は、通路棚に政治・戦争・産業・農業・趣味・風俗・自然・動植物と並び、棚下には紙物・地図類・小型本・豆本などを入れた箱が、楽し気に集まっている。向かいの壁棚には島根郷土本が大量に収まり、奥に歴史&宗教が固まっている。勝手に郷土本の集まったお店と憶測していたのだが、あにはからんや!左側通路の古書中心の日本文学通路に感動する。値段はキッチリ付けられているが、それでも相場より少し安めで、お楽しみの隙もチラホラと確認してニンマリ。梅昆布茶をご馳走になり、さらに古本屋話を弾ませながら、見つけた瞬間に『松江に来た甲斐があった』と真剣に感じた、昭文館冒險文庫「海底の寶庫/昭文館編集部編」(ちょっとオーバーテクノロジーの多少SFチックな海洋冒険小説。戦前なのは間違いないが、何故か奥付が落丁ではなく最初から付いていない模様)を2500円で覚悟して買おうとすると、店主は「高いな」とつぶやき、何と1000円にしていただく。どひゃっほう!松江には「ダルマ堂書店」ありと、この胸にギリッと刻み込んでおこう。
●松江「冬營舎」
続いてそのまま『京橋川』沿いに西に進み、宍道湖方面に足を向ける。『幸橋』で南側に渡り、シダレヤナギの続く川沿いを『島根県警察本部』を右に見て、風に吹かれながらさらに西に歩いて行く。一本目の脇道である『ガラエ丁』を南に入ると、左手にすぐに、一見して古本屋さんとは分からぬ、サッシ戸の並んだ簡素な佇まいのお店が姿を見せる。強い風が通りを吹き抜けると、戸がパタパタと音を立てる。店内にスラッと入り、昨日のトークですでに挨拶を交わしていた店主・イノハラ嬢にご挨拶する。面白く愉快で、独特なコミュニケーションのテンポと生き方のビートを兼ね備えている方で、地上1センチどころではなく、10センチは浮遊している感じに、尊敬と感銘を覚える。店内は外観同様シンプルで、まるで精神を研ぎ澄まし、ギリギリまで削り取った、道具のない作業場のような感じである。入口左横には『ヒトツキ古本屋』という一箱程度の古本を売れる販売スペースがあり、壁際にはシンプルな壁棚が設置されている。そこには食関連・旅・超セレクト日本文学・料理・自然関連。中央には長机とその上に棚が置かれているが、ここに並ぶ本は店内閲覧用で、販売はされていない。右壁にも簡素な棚が設置され、セレクト雑誌・「暮しの手帖」・児童文学・山陰関連本、それにお店を象徴するような冬・雪・北関連の本が集められている。個人的嗜好の少数精鋭主義が潔く光るお店である。値段は普通。何故か再訪を固く誓わされ念押しされ、法政大学出版局「蟻の結婚/古川晴男」を購入する。
会場にこっそりと戻り、どうにか午後三時を迎えて、一箱古本市も無事に終了。無事に二日間を走り抜けられたことに、胸を撫で下ろす…いや、まだ、あの夜行バスに乗って帰らなければならないのだが…。少し時間が空いたので、ひとりで松江の街をブラブラ歩くことに決め、近くに見えていた『松江城』に向かう。そして北端のお壕端にある小泉八雲の旧居を見に行くために、城の敷地から抜け出すと、一軒の雑多な骨董屋さん「ANTIQUE屋」が目に留まってしまう。
古道具が縦横無尽にごたつく店頭を眺めていると、三ヶ所に古本や紙物があるのをやはり発見。結局街歩きなどすっかり忘れて、ガサゴソと箱や棚を漁ってしまう。バカみたいに十五分ほど格闘し、大日本雄弁会社講談社雄弁新年号付録「青年愛誦ポケット詩歌集」(昭和十二年)キング文庫「名家一言集」そして絵葉書「鎌倉・江之島拾六景特製品」を手にして店内へ進む。すると入口部分は土足のままで大丈夫だが、奥は靴を脱いで上がり込む板の間になっている。「すいません」と声をかけると「おぅぃ」と芥子色のジャケットを着た北園克衛風店主がダンディーに現れた。「すいません、これはお幾らでしょうか?」「三千円」「えっ、そうですか。じゃあ選ばないといけないな…」「じゃあ二千円でいいよ」「わ、わかりました。いただきます」「うむ、いい買物だ」…というようなやり取りを交わし、結局古本を買って会場に戻ることとなる。出発時間までみなさんとお酒を飲んで過ごし、大いに松江の夜を名残惜しむ。「ではこれにて」と荷物を携え出口に向かうと、「BOOK在月」のスタッフさんや、一箱で知り合いになったネット書店の昭和紳士「享樂堂」さん、それに「冬營舎」さんが、わざわざ見送りに出て来てくれた。みなさま、二日間本当にありがとうございました。トークに来ていただいたみなさま、本を買っていただいたみなさまもありがとうございました!松江には、また必ずいつの日か戻って参ります!と心の中で誓い、またもや夜行バスで一路東京へ。
午前七時の明るい新宿は、今まで遮光され閉じ込められていた身からすると、ドラキュラが浴びる陽光のように粉微塵になってしまいそうなほど、疲れた身体には強烈だった…。

