2015年12月05日

12/5福島・木戸 岡田書店

昨日は己のフェア棚に軽く補充してから、「盛林堂書房」(2012/01/06参照)ガラスウィンドウ内で開かれている『虚無への供物展』をフムフムフムと眺め、無料配布の小冊子「『虚無への供物』と中井英夫 そして西荻窪」をいただく。そして夜九時からは、本の雑誌社『菊池寛賞贈呈式二次会』に駆け付け、有名無名の人間の坩堝の中でひたすらビールを呷り、酔いを深めながら受賞を祝す。ビールがドシドシ消費されて行くが、ほどほどにしなければならない…何故なら明日は2015/12/02のお店に再チャレンジするのだから!

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家に帰り気絶するように就寝したら、明けて早朝午前六時に無事に起床。三時間かけていわき駅に到達し、さらに四両編成の常磐線で北へ向かう(竜田駅〜原ノ町駅間は未だに不通で、ノンストップバスが運行中。そのバス車内では、一回通行するごとの被爆線量をしっかり測定…)。今日の太平洋は暗く青緑色を湛え、海岸線はそのほとんどが造成中で、遠くに小さく重機が蠢いている。電車は低山の中を、谷を滑り数多のトンネルを潜り、北へひた走って行く。三十分ほどで目的のひっそり閑とした無人駅に到着。駅頭に立つと、人家はあるが人影はなく閑散としている。駅前広場片隅の自転車置場には、スタンドを立てたままの錆び付いた自転車が、十九台放置されている。この楢葉町一帯は、九月五日に避難指示が解除されたばかりの地域である。駅前の放射線量計のデジタルカウンターに目をやると、0.128マイクロシーベルト。町の中を歩き始めると、空家・廃屋、それに人が戻って来た家・定期的に手入れをしているような家が、混在しているのに気付く…。駅前広場から西に向かい、すぐに北へ曲がり込む。道なりにテクテク歩き続け、シャッターを下ろしっ放しらしい『豊政商店』脇の道を南西に入る。そこからまた道なりに坂をダラダラと上がれば、車の行き交いが賑やかな『国道6号』に出る。目の前のなかなか変わらぬ『名古谷交差点』の向こうに、『本・古本』『営業中』などの派手な幟が、威勢良くはためくのが目に飛び込んでくる。それらに導かれ、いそいそと大きな日本家屋の一部を改装した古本屋さんに急接近する。ここは、避難指示が解除されたと同時に、神速に設えられ開店したお店なのである。こんな、こんな、素晴らしい行動力と心意気を見せてくれたお店を早急に見に行かなければ、いったい何のための古本屋ツアーか!と古本魂を盛大に焚き付けられ、今ここにようやく立っているのである。さらにお店に近付くと、横手からギターケースを持った黒ブチ眼鏡の青年が現れ、お店に向かう私を見つけ、ペコッとお辞儀。そのままお店の中へ消えて行く…彼が店主なのか。若い!続いて開け放たれたままの入口から中に入ると、すぐ正面の帳場に立つ件の青年が、明るく爽やかに「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。横長の八畳ほどの空間で、フロアは板敷きで一段高くなっている。左の壁と奥壁にはDIY感あふれる壁棚が設置され、右壁には本棚が置かれている。フロア真ん中には大きな平台がひとつ置かれ、入口正面にナナメに机を置いた帳場がある。「土足のままどうぞ」と言われ、壁棚に接近。左壁には廉価コミックと作家50音順最近刊ミステリ&エンタメ文庫。奥壁棚には福島郷土本・最近刊コミック・古児童雑誌&漫画雑誌・ジュブナイル少々・絶版漫画(充実)が並ぶ。平台には、入口側にレンガのような厚さの廉価コミックが詰まり、奥側は官能文庫と絶版漫画文庫の取り合わせ。田河水泡のらくろ色紙が掛けられた右壁には、時代劇文庫・ロック・ジャズ・ルパンシリーズ・アダルト雑誌などが固まっている。大衆性と趣味性が炸裂する小さなお店で、絶版漫画に力を入れている模様。値段はちょい安〜普通。帳場脇にあるプレミア付録漫画やジュブナイルの入ったケースを覗き込み、その横に置かれた付録漫画箱を漁る。今は催事に本を出している(「所沢古本まつり」)ので品が分かれていること、開店して間もないが付録漫画を探しにお客がやって来ること、結局買うことになる表紙がナゾ過ぎる付録漫画の話などを店主とアレコレ楽しく話す。光文社「少女」ふろく「星からの合図だ!/原作・園生義人 構成・大竹昌夫」4・5・7・8月号の四冊を購入する。避難指示が解けるや否や、復興の地に猛々しい若芽の如く誕生した古本屋さんよ。その勢いを失うこと無く、グングン己の道を突き進むのだ!と密やかにエールを送り、これからまだ二時間電車の来ない駅へ、トボトボと引き返す。

駅の待合室に独り陣取り、持参したパンで昼食を摂る。しかしどうしても二時間は余りにも長いので、腹ごなしに海まで歩いてみることにする。ほとんど家の無い、家の跡の残る更地と、強制的休耕田の荒野を真っ直ぐ進む。休耕田とは言っても、耕され、土の中から掘り出された瓦礫が所々に山を作り、少しずつ耕作の準備に入っているようだ。水の残る所では、白鳥が群れをなし、泥の中のエサを探っている。やがて海岸線に近付くと、高い盛土のために海が見えなくなってしまった。その盛土の向こうに出ようと思っても、切れ目なくすべての区域が工事中のため立入禁止となってしまっている。瓦礫の詰まった黒い大きな袋が大量に積み重なる異様な光景の中を、駅に向かって渋々引き返す。海をバックに本日の獲物を写真に撮るつもりだったのだが…。代わりに風吹き荒ぶ強制的休耕田をバックに撮影することにする。
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この付録漫画は、表紙からはまったく何の漫画かうかがい知ることは出来ない。すべて内容とは無関係の、可愛い犬のカラー写真なのである。唯一タイトルと数種のキャッチで(『こわい宇宙まんが』『こわいまんが』『スリラーまんが』)何となくSFっぽい匂いが感じ取れる。中を見せてもらうと、園生義人原作の横山光輝タッチ少女SF漫画であることが判明。主人公・まち子のお父さん柴田博士は、完全に鉄人の敷島博士である。そして!バレリーナ姿の宇宙人が攻めて来る…あぁ、攻めて来る!
posted by tokusan at 21:13| Comment(4) | TrackBack(0) | 東北 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
4日金曜日のNHKテレビ「ドキュメント72時間古書の迷宮へようこそ」ご覧になりましたか?
短い番組でしたが、なかなか、良かったです。
Posted by 黒猫太郎 at 2015年12月06日 10:33
見ました。面白かったですが、夜と夜中の神保町レポートも敢行して欲しかったです。だが、やはり古本街はいいものですね。
Posted by 古ツア at 2015年12月06日 21:21
木戸の岡田書店に来られたのですね。
自分も今日行ってきました、
元々いわき市内の自宅近くにあった岡田書店が楢葉町で開店したと聞いたので早速行ってみた次第です。本を見ながら店主と話す時間は楽しかったです。またこちらのタレコミ情報ありましたら送りますね。
Posted by どらけん at 2015年12月08日 17:33
どらけん様。行かれましたか!無条件に応援したくなる、素晴らしい心意気と無謀さと、古本屋的なお店ですよね。これからもぜひとも応援して上げて下さい。そして地元ならではの情報、お待ちしております!
Posted by 古ツア at 2015年12月09日 18:19
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