2016年01月06日

1/6福島でリサイクル系古書店に撃沈する

最後の青春18きっぷを使い、ガタゴト福島を目指す。相変わらず早朝からの出立なので、長い車内生活では読書とうたた寝を繰り返すのが常であるが、今回は一睡もすることなく、辰野九紫の昭和十二年刊ユーモア小説集「重役子守唄」を読了してしまう…面白い!佐々木邦や源氏鶏太とは異なる、滑るように粋で洒落のめす文章は、まるで新作落語の語り口のようである。だがこの“新作”は昭和初期の“新作”なので、江戸洒落風俗と最尖端の昭和初期が混ざり合い、妙にペダンチックで気持ちの良い古臭さを醸し出している。本が出版された“当時”にしか存在出来なかった文学に接し、見たことのない昭和初期の世界に足を踏み入れる車内生活…気づけばいつの間にか、遠望する山の頂きにしか雪のない、曇り空のそれほど寒くない南東北に突入していた。福島駅北端で一年ぶりの阿武隈急行に乗り換え、三十分でこの路線では数少ない有人駅の梁川駅に到着する。

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●福島・梁川「ファミコンショップヒーロー梁川店」
乗って来た電車のすぐ後ろで線路を渡り、駅舎を抜けると広く殺風景な駅前ロータリーである。そこを突っ切り、交差点を渡って北に進むと、駅のホームからすでに見えていた元『靴流通センター』であることが露なお店が、廃墟の雰囲気を湛えて静かに佇んでいた…この店名…秩父にかつてあったお店(2011/06/07参照)と同系列ということか…。外壁や看板に踊る風化しかけた文字は、リサイクル店であることを如実に表しているが、それでも『古本』『和本』などの文字に期待を寄せてしまい店内へ。広々としているが、今のところトレカのガラスケース・DVD&ゲーム棚・ファミコン&スーファミカセットが大量に下がるパーテーションしか目に入らない。しかし左側奥に目を凝らすと、場違いな掛軸ワゴンが存在し、骨董類ガラスケースも置かれている…よい兆しだ。では、古本は何処だ!と奥のコミック通路に分け入るが、行けども進めどもコミックばかりで、広大なアダルトゾーンの手前でようやく一本のラノベ&文庫&単行本棚を発見するに留まる。本は激安だが、まったく色めきたてない自分が、そこに悲しく屈んでいた。講談社文庫「水の中の八月/関川夏央」を購入し、サッサと駅へ戻る。

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●福島・福島「ブックタウン野田町店」
駅の待合室と一体化した明け透けな蕎麦屋で昼食を摂り、福島駅に引き返す。地下の東西自由通路を経て、初めての西口に出る。ロータリーから西に離脱すると、地方都市の繁華さはすぐに影を潜めてしまう。真っ直ぐ西に『県道70号』を歩いて行くと、ジリジリと正面から山塊が近付いてくる。駅から500m強の六つ目の信号で北に向かい、うねる道をしばし歩く。『学習センター』前を通過し、一本目の脇道を住宅街に入り込むようにして西へ向かうと、福島交通『桜の聖母学院バス停』前に、店頭が雑然としたお店がこつ然と現れた。チェーン店ではあるが、ちょっと期待で来そうな面構えではないかと期待し、店内に突入する…が、期待は見事に外れる。アダルトとコミックメインの通路の狭いお店である。一般ゾーンにもアイドル系写真集&DVDと成年コミックが幅を利かせてしまっている。唯一左端通路の壁棚に、海外文学文庫・ラノベ・時代劇文庫が一部並んでいるが、それさえも通路に積み上がったアダルトDVDダンボール箱群に遮られ、あまり見ることが出来ない。肩と共に視線も落とすと、DVDダンボールの表蓋には、AV嬢の写真が大きくプリントされ、彼女の口から出た吹き出しには「宅急便のお兄さん、ごくろうさまです♥」と書かれていた…くくっ、何という新しい気配りかっ!と感心しつつ、角川文庫「悪魔くん 貸本まんが復刻版/水木しげる」を購入し、お店から敗走する。

駅に戻って再び長い自由通路を通って、今度は東口へ。駅前商店街の古本も扱う新刊書店「政文堂書店」(2012/08/08参照)が喫茶店になっている悲しい現実を目撃し、その先の「ブックオフ福島駅前通り店」で資料用の春陽堂江戸川乱歩文庫「孤島の鬼/江戸川乱歩」を購入し、ついに大した収穫もなく帰路に着くことを決意する。
posted by tokusan at 22:35| Comment(5) | TrackBack(0) | 東北 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
本年もよろしくお願いいたします 福島をご訪問いただきありがとうございます 
Posted by 二本松市民 at 2016年01月07日 18:29
今年もよろしくお願いいたします。もはや恒例ではありますが、福島古本屋事情に動きがありましたら、ぜひともお報せ下さい!お待ちしております!
Posted by 古ツア at 2016年01月08日 16:55
政文堂書店の閉店をお知らせし損ねてしまい、たいへん失礼致しました。7月に新規再開したてんとうふへもまだ行けていない状況ですが、何かあればご報告させていただきます。よろしくお願いします。それにしても年末に訪れた赤羽の紅谷書店には魂消ましたね。まさか、あんなとは……。
Posted by 二本松市民 at 2016年01月08日 22:33
たいへん申し遅れました。実は私、こういうイベントの世話人を2012年よりいたしております。アドレスご参照いただければ幸甚です。
Posted by 二本松市民 at 2016年01月08日 22:36
おぉ!素晴らしき活動!これからもビシバシご活躍ください!次の課題図書は「ドグラマグラ」なんですね。ブブブブブブ………。
Posted by 古ツア at 2016年01月09日 16:38
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