今日も懲りずに(というか味を占めて)骨董市を目指す。たまたまひと月前にテレビで目にしてから、毎月七日の開催が巡って来るのを、ちょっとだけ心待ちにしていたのである。強い風が吹き荒れる早朝のJR成田線は、田植えが完了した水面に細かなさざ波が立ち続けて止まない田園風景の中を、軽やかに滑って行く。『きのした』ではなく『きおろし』と読む駅に着いたのは、午前八時四十二分。南口に出ると人気のない寂れたロータリー。だが、そこから東に向かって三十メートルも歩くと、南に延びるシャッターを下ろした『木下駅南口商店街』に、およそ七十の骨董店が、かりそめのお店を広げていた。すでに多くのお客さんの姿があり、あらゆる古物に鷹のような蛇のような鋭い視線を照射している。一見すると、誰が店主で誰が客なのかよく分からない…。並ぶ品物は、定番の古雑貨に加え、ジャンク品・古布・古銭・大物骨董品(人間大の仏像までも!)・民具・絵画などがよく目につく。だが商店街を入ってすぐの所に、ダンボールに古本を詰めたお店が広がっていたので、早速古本心は有頂天に!エロ小説・エロ雑誌・獅子文六・書道和本・大型美術本・医学書・絵葉書…うぅぅん、古本があったのは素晴らしいが、完全に食指は動かない…。仕方なく百メートル弱の通りを南下しながら、両側に並んだお店をチェックして行く。300均歌本箱・カラーブックス箱・鴎外全集箱・図録箱などを見かけるが、やはりめぼしいものはナシ。中頃のお店の和本タワーを探索し、俳優座のガリ版刷り台本「未必の故意/安部公房作」「門 わが愛/夏目漱石作・早坂暁脚色」を計200円で購入出来ただけで終わりそうな雰囲気に、すっかり意気消沈し始める。途中、仮面ライダー&円谷系のソフビを山にして出していたお店があったので、古い2号・V3・アマゾンの値段を聞いてみると、1500円〜2000円。どうしよう?と一瞬悩むが、いや、俺は古本を買いに来たんだ!そう残り少ない闘志を燃やし、それなりの値段がするソフビの誘惑をすっぱりと断ち切る。意を決して最初のお店へ戻り、もう一度箱内をチェックしたり、絵葉書箱を漁って東京検事局肩書きの古い名刺を買おうかどうか迷ったりしていると、箱が寄せ集まる島の中央の大型美術本が置かれた隙間から、さっきは気付かなかった、なんだか雰囲気のある古雑誌の一部が覗いているではないか。慎重に上になった本を退かしてみると、A5サイズの64〜66ページと薄手の雑誌、スタア社「MEN 男だけの雑誌」が五冊キレイに重なっていた(昭和二十三年 新年號・二月號・3月號・五月號・七月號)。手にしてみると、聖林映画情報を中心に、翻訳探偵小説・風俗小説・スポーツ・ファッション・米仏風俗&世相などを掲載した男性誌である。おっ、辰野九紫の小説が!保篠訳「古城の秘密」はルパン対ヘルロック・ショルムスだ。野口久光・前谷惟光・横山隆一・小野佐世男・花森安治が挿絵を描いているが、長澤節と岡本太郎なんてのも!そんな風に驚き喜び店主のご婦人に値をうかがう。「それは…一冊400円」「ということは五冊で二千円…」「でも…一冊200円でいいよ。400円で売りたいんだけど200円でいいよ」「ということは五冊で1000円。ありがとうございます!」とめでたく購入。早起きして来た甲斐がありまくりとなりました。骨董市、門外漢でも楽しいな。だが、これで古道具&骨董にのめり込んだら、大変なことになりそうだと、軽く己を戒めて、当分は古本だけを追い求めようと心にそっと誓っておく。
素敵にバタ臭い表紙絵は塚本茂。五冊とも経年劣化以外はなかなかの美本である。

