今回は久々に古本神のひとり、ミステリー評論家&翻訳家の森英俊氏に誘われ、未踏の古本屋さんを訪ねることにする。神保町駅ホームで待ち合わせ、有楽町線に乗り込み埼玉方面へ。その車中で本日訪問するお店について質問を重ねて行くと、なんと山梨県都留市にあった「岡本書店」が移転して来たものであることを知る。「岡本書店」…行ったことある!確か広い塗装屋さんの敷地内に、二棟の倉庫らしきものがあったお店だった記憶が…断然入れなかった記憶が…(2010/11/12参照)。森氏は目録でお店の移転と店舗営業していることを知り、一度苦労して訪れたとのことであった。その時はまだ大量のダンボール箱が山積みされている状態で、明らかに営業準備段階だったので、改めて本日、思いっきり探索するための二度目の訪問となったわけである。駅西口に出て、ロータリー端にあるライフバス乗り場から、ICカードの使えぬ小さなバスに乗車する。駅から『すずかけ通り』を南西にニキロほど進んだ四つ目のバス停『大日本印刷工場前』で下車。通りを少し戻り、横断歩道を渡って大日本印刷の広大な敷地沿いに北西へ工場街の裏道を歩いて行く。最初の脇道を東北方面に折れ、さらに工場と倉庫の殺風景な裏通りを歩き続ける。すると森氏が左に現れた、大きな運送会社の倉庫を眩しそうに見上げている。「ここです」「ええっ!倉庫じゃないですか。お店なんて何処にも」「ここの二階なんです。ほら、この前来た時はありませんでしたが、ここにお店のポストが」指差された人気のない一階倉庫柱下部に目をやると、確かにそこには「岡本書店」と書かれた札が…。倉庫脇の水色の鉄階段を、半信半疑で上がって行く。段々と、大きく開かれた倉庫の扉の中が見えてくる…ぐおぉっ!本棚!確かにそこには、周囲の工場街的ロケーションからはほど遠い、本棚が並んでいるではないか。緑の床の空間にそっと足を踏み入れると、凄まじく広大な体育館のようなお店で、左側には本棚が少し並んでいるが、後はナンバーを書かれた小さなダンボールの山が果てしなく続く、とても古本屋さんの店舗とは思えぬ光景が、ただただ圧倒的に広がっていた。森氏はすでに端の事務所スペースに半身をねじ込ませ、何やら交渉に入っている。まったく相変わらずの剛腕だなと苦笑しつつ、アクの抜け切った殿山泰司壮年時代的店主にご挨拶する。そして「森さん、これ店舗じゃないじゃないですか。完全に倉庫ですよ」「でも、この前来時、ここはお店だって言ってたんだよ」とヒソヒソ…いや、それでもこの状況は、どう見ても絶賛整理中の大倉庫なのである。三人で少し噛み合ぬ会話を交わしつつ、森氏が前回探していると伝えていた児童系の本の束を、まずは見せていただく。すべて裸本であるが、中には興味ある本も含まれている。ところが値段の話になると、バラでは売らぬ、束で買ってくれ、と言うことになる。その額が意外にちゃんとした値段だったので、私は取りあえず辞退。だが結局、森氏が値下げ交渉をいいところまで進め「じゃあ二人で半分ずつ出そうか」ということに、突然決まる。何だか巻込まれた感があるが、これはまずとにかく本を買い、相手に購入意志のあることを伝え、その後の探索&交渉を有利に進めるための、テクニックのひとつなのである…もちろん私ひとりではとても使えぬ技…。その後はリリースしていただき、広い店内(倉庫内)をウロウロ…いやこれが本当に凄い。ジャッキー・チェンが乗り込む敵のアジトを想像してもらえれば、恐らくそれが一番近いイメージである。私はただポカンとしながら、長い通路を行ったり来たり。その間にも森氏は、倉庫のあちこちから目欲しい本や束を集め、すぐさま店主と交渉に入っている。そのバイタリティに感心しながら接近すると、熱心にヒートアップしているのは児童学習雑誌付録本の束について。これもまたバラ売り不可とのことなので、八十冊余の小型本を一冊幾らにするかでのせめぎ合いが始まっている。結局全部で一万五千円で落ち着いたのだが、その瞬間森氏が、こちらに向かってニッカリと微笑み「よし、後で分け合いましょう」と宣告する。あぁ!知らないうちに、俺もその束を買っていたんですね。……今日俺は、ありえないほど自動的に、大量の古本を買ってしまったのだ。森氏がひとまず代金を支払い、大量の本を袋に入れて、恐るべき倉庫店を辞去する。これからもっと片付いたら、さらに様々な興味津々食指が動く本が現れそうな、そんな気配が濃厚な倉庫であった…。午後三時台はバスが皆無なので、駅まで古本を抱えて戻り、電車の中で本を仕分ける。まるでボスが差配する銀行強盗後の分け前を待つように、まずは森氏が欲しい本を抜き、余りがこちらに回ってくるカタチであるが、買った束は恐ろしいほどの有望株で、かなり良い本がポンポンと積み重なって行く。森氏は、賭けに勝ったのである。結局今日は連れて来てもらって良かったと、心の底からウットリしながら観念して、全代金の三分の一を支払う。いや、やっぱりこの人には適いません。また来週、ぜひとも面白いところに行きましょう。
結局こちらに回って来たのは五十六冊。そのうちの素敵な収穫は上記の写真で、特に学研「6年の学習」付録の加納一朗のジュブナイル怪奇ミステリ「悪夢の追せき」「こうもり男」「影が歩く」「きょうふの人形」には歓喜の嗚咽が!


加納一朗氏の名前も懐かしい。まだ幼稚園くらいの頃に、「子供の科学」で「暗黒星雲アルファ」というのを読んだ記憶が。イメージが「妖星ゴラス」とダブります。
加納さんは存命ですから、まとめてほしいものです。近年、魔子鬼一さんという探偵作家がオーストラリアで亡くなられていたことをあるルートで知ったときには、ああ遅かったと思ったものです。幸い娘さんがあの震災の被害を受けておられないようですので・・・、このあたりは盛林堂書房でお願いしたいものです。短編集を!