午前十時半前にお店に飛び込み、ミーティング時に先輩方にガチガチになりながらご挨拶する。すると、たちまち外に飛び出し開店準備に取りかかる彼らの素早さに圧倒されながら、手渡されたエプロンを着用するのに愚かなほど一苦労し、己の無能さと、完全なる月とスッポンレベルの社会人格差に、今更ながら愕然としてしまう…。そんなまごまごあたふたしまくりテンパリ続けているド新人の今日のメインのお仕事は、レジ兼作業場に陣取り、本の状態チェック&クリーニング&ビニールカバー掛け、それにほんのちょっとの接客とレジ打ちと棚への補充である。すべてのことに緊張しながら、懇切丁寧に教えていただいた仕事の仕方やお店についての知識で頭の中をショート寸前にパンパンにしながら、ゆっくり不器用に仕事する。だがそんな中でも、ビニールカバー掛けが次第に上達しいく小さな小さな進歩に、まずは喜びを覚えてしまう…。本に掛けるビニールは、片側がポケット状になっており、中間から少し過ぎた所にベルト状の帯があり、反対側に留めるシールが付いているもの。まずはポケットに本の袖を差し込み、ベルトに反対側の袖を通し、シールで留めるというのが一連の作業となっている。だが、ソフトカバーの本は、ぐいんと表紙をたわめられ、ベルトに袖を通すのも楽勝なのだが、ハードカバーはそうも行かぬ。その名の通り表紙が板の如き硬度を誇っているので、たわめることはまず不可能。本を思いっきり反り返し、ギリギリの危険な力技で無理な角度を作り出し、素早く巧妙にベルトに通さねばならぬのだが、これが不器用者にとっては、千メートル級の山を越える以上に難事なのである。不覚にも何枚かのビニールカバーを駄目にして落ち込んでいると、先輩が魔法のようなカバーの掛け方を教えてくれた、まずはベルトに反対側の袖を通し、こちらの袖は本体からカバーだけを外し、それだけをポケットに差し込む。そしてそのカバーに改めて本体表紙を多少反り返しながら誘うように差し込むと、嘘のようにツルンと美しく収まり掛けられた状態になるのである。なので後半戦はこの魔法の手順を次第に己のものとし、古本をキレイな商品に仕上げることに快感を覚え始める。…ここまで書いて来て、あまりのミニマムさとマニアックさと伝わらなさ(恐らく)に恐縮しながらも、明日はどんな地道な仕事を割り当てていただけるのか、恐がりながらも楽しみに感じられた、一日をどうにか過ごす。
これはまだビニールをダメにするレベルの掛け方。この後、徐々に徐々に上達して行くのだが、次第にそのテクニックや知識が体に染み付いて来るに従い、暖簾分けしたお店が、本家のやり方(様々な業務上システム)を自然に継承して行くことについて、大いに納得してしまう。長年勤めて様々なテクが身に付いた時には、それが一番やり易いやり方になっているのだから、当然のことなのである。

