

駅に戻って南武線から小田急線に乗り継ぎ新宿へ。南口の大階段を下りて、何故か満開の桜の樹の下を通り抜け、かつての猥雑な南口ヘアピン坂道の残滓とも言える『食堂 長野屋』に腰を据え、カレーライスとビール小ビンで昼食とする。満腹した後は、人ごみを擦り抜け擦り抜け『靖国通り』まで出て、曙橋方面にプラプラと向かう…。駅からのルートは以下。ちょっと陰気な都営新宿線ホームから地上に出ると、大きな『靖国通り』。右に『あけぼのばし通り』の商店街アーチを見て、『住吉町交差点』を横切り、北側歩道を西進して行く。振り返れば、東京全域を監視しているような、巨大過ぎる防衛省のタワーがそそり立っている。その機械的視線を振り切るようにしてさらに西に歩き続ける。スーパー『丸正』創業者の胸像が建つ石造りの小広場前を通り過ぎ、やがて三本の杉が立つ三角形の『富久町遊び場』にたどり着くので、ここで一本北側の通りに目をやると、白い二階建て低層古ビルの端に、『古本』と書かれた縦長の白い暖簾が、風に揺れているではないか。コメントタレコミで知ったのだが、日月限定営業のためになかなか訪れることが出来なかったお店なのである。暖簾を潜って引戸を開けると、四畳半ほどの狭い店内。壁際には白い本棚が巡り、真ん中には平台と棚が合体した什器が置かれ、右にすぐ窮屈な帳場がある。そこには大工の棟梁のような短髪白髪でマスク姿の壮年男性がキュッと収まっており、「いらっしゃいませ」と渋く一声。入ってすぐの平台棚には、岡本太郎・美術系文庫&新書・アート関連書がビッチリと収まっている。左壁の少し低めのボックス棚には、美術図録・作品集/写真集・デザイン・民藝などが並び、上部には堀内誠一・荒木経惟などが飾られている。正面の高い壁棚には、サブカル・アート・写真関連・現代美術・前衛美術・デザイン・建築・文字・測量・色彩・日本美術・植物・舞踏・土方巽・ファッションと、容量はそれほどないはずなのに、緻密に綿密に並んで行く。右壁にはカルトコミック・セレクト日本文学・再びの建築・再びの民藝が続き、バックヤードの扉と帳場の上にさらに一枚の板が渡され、漫画評論・カルト漫画・岡本太郎などが、映画『宇宙人東京に現わる』のパイラ人(岡本太郎デザイン)フィギュアとともに並んでいる…根っからの岡本太郎好きだな。帳場下には美術系文庫&新書・都市・詩集などが収まっている。美術を背骨に、建築・写真・漫画を太い枝とし、細やかで見たこともない本も飛び出す、レベルの高いお店である。値段には幅があり、安い値付が多いのがとても嬉しい。欲しい本がたくさん見つかり、すぐさま掌の中に本が溜まって行くので、一旦冷静になって買うべき本を改めて吟味する。ニトリア書房「戦後前衛所縁荒事十八番/ヨシダ・ヨシエ」三笠書房「不純異性友遊録」読売新聞社「また横道にそれますが」ともに田中小実昌、弘南堂「炉辺詞曲 アイヌ神謡集/知里幸恵編」を購入する。満足して扉を開けようとすると、その扉が帳場で屈んだ店主のお尻に激突してしまう。「す、すみません!」「いえ、狭くて、すみません!」などとやりとり。いつの間にか曙橋に、日月だけ営業する、素晴らしいお店が誕生していました。