2017年04月05日

4/5吉田謙吉に喜び、古本殿上人の痕跡をたどる。

早起きして、昨日からエンジンフル回転でやっつけている「中央線古本屋地図(仮)」のレイアウト作業。どうにか完成率八割くらいには達した感じがするので、少し安心する。今回の本は、かなりイレギュラーな作り方をしてしまったので、常に気が気じゃなくフワフワしていたのであるが、やっとそんな軛からも解放されたようだ。詳しいことは、近々に迫って来た情報解禁とともにお知らせする予定。モニターから視線を剥がしとり、ウンと椅子の上でひとつ背伸びする。そして今回も面白そうな本に仕上がりそうだと手応えを感じつつ、頭の中ではすでに『次はどんな古本屋の本を岡崎氏と作ろうか』などと考えてしまっている。中央線沿線が出来たのなら、他の古本屋街である『早稲田』や『本郷』も面白そうだ。だが『早稲田古本屋街』に関しては「古書現世」(2009/04/04参照)の向井氏が、すでに二冊の名著をものしている。ならば、『本郷』…いや、ものすごくアカデミックな本となりそうな上、様々な高いハードルが立ちはだかる予感がする。いや、そもそも『本郷古本屋街』に、まったく造詣が深くないのが大きな難点であるな…。そんな風に、あてどもない思考に耽りながら、ふと机の横の本の山に目をやると、ちょうど目線の辺りに背を向けていた「弘文荘待賈古書目 第二十九號」が目に留まる。古本神…いや、もはや古本殿上人である古書鑑定の権威・反町茂雄が出した昭和三十二年の目録である。引っ張り出してパラパラ捲っていると、巻末のお店の地図が目に飛び込んでくる。それは、『本郷古本屋街』に向かい合った、まだ都電が走っている『本郷通り』沿い『東大正門前』からの案内図であった。突然ムラムラとそこに行きたくなってしまったので、関係各位への連絡を済ませてから、すっかり春めいた四月の屋外に飛び出す。南北線で『東大前下車』。北から『本郷通り』を南下する形で、途中「第一書房」(2011/08/16参照)の外棚にへばりつく。すると、美術出版社「絵本ヨーロッパ 舞台装置家の眼/吉田謙吉」を発見する。
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築地小劇場から出発した舞台装置家であり、また考現学者・今和次郎と「モデルノロヂオ」を著した著者が、1950年代のヨーロッパを、紀行・演劇・都市・町・風俗・雑貨類から紹介して行くビジュアル本である。大量の著者撮影のモノクロスナップ、堀内誠一を先取りしたような洒落たデザイン、日用雑貨や紙物の紹介が、古本心をいとも容易く穴だらけにしてしまう。値段は2000円だが、相場よりは遥かに安め。少し迷っただけで、あっさり購入してしまう。早々に満足して『東大正門前』。件の目録を徐に取り出し、地図通りに街の中に分け入って行く。
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まずは通りから西に向かい、少しさびしい商店街らしきものを奥に進むと、広場のような五叉路が待っている。昔はここに交番があったのか…う〜ん、この道と街の形、何処かで見たことあるような…湧き上がって来たのはかなり強い既視感だったので、しばらく記憶の検索を路上で行ってしまう…あっ、そうだ!確か木村伊兵衛の『本郷森川町』だ!これから進む道は、まさにあの写真の奥へと進んで行くことになるんだ。道に立つ人&道行く人の物語が勝手に頭の中で交錯する名作白黒写真と目の前の景色を重ね合わせ、予想外の出会いにちょっと感動しながら北西に進路を採る。五叉路に、昔の街の面影は残っているが、進む地の両側はほとんどがマンションなとなり、なんだか味気ない風景。そして進行方向は下り坂になっているのに、地図では陸橋の上を通過することになっている。不思議に感じながら坂道を下って行くと本当に陸橋が現れ、さらにその下に道と街が存在していた。この辺りの高低差は、こんなにも激しいのかと今更思いながら、やがて上り坂となる道をスタスタ突き進むと、街は途端に高級住宅街と化して行く。そして道の先に、地図では『児童遊園』と書かれた『西片公園』が姿を現す。子どもたちが嬌声を上げながら、全力で遊んでいる。ここでは『大椎樹』というかなりロマンチックでユニークな目印が、地図上に葉っぱマークでプロットされているが…そこで公園の豊かな植栽を順繰りに確認して行く。まずは杉、そして満開の桜、さらにその横に確かに椎の木!うわ、本当にあった。残ってるんだ。スゴいぞ!と、かつて「弘文荘」を目指して来た人たちも見上げたであろう樹の下に立ち、無邪気に喜びまたもや感動してしまう。この後、無事に「弘文荘」の跡地である反町邸にもたどり着くのだが、それよりなにより今日のクライマックスはやはり、今から六十年前の地図に引き寄せられて出会うことになった『大椎樹』だったのである。フフフフフ。やっぱり、街をちゃんと歩いて現地に来てみると、何か色々面白いことに出会えるものなんだな。
posted by tokusan at 17:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 追記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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