2017年09月17日

9/17神奈川・石川町 るなぱあく古本街

東京ではさほど激しくなく、一定量でシャワーのように雨が降り続ける中、午後に外出。向かったのは、横浜の雨の馬車道で、地下から顔を出すと、改装中で封鎖された『県立歴史博物館』の威厳ある灰色の陰鬱な姿が視界に飛び込んで来る。そのまま伊勢佐木町に向かい、まずは「活刻堂」(2009年10月12日参照)に腰を据え、講談社「13の凶器」「13の密室」「13の暗号」三冊共に渡辺剣次編を計300円で購入する。そして時刻が午後四時に近づいたので、狭い横丁に飛び出して傘を開き、南東に向かってビルの谷間を歩き始める。目指すは寄せ場として有名な寿町の『寿町総合労働福祉会館』跡地で開催されている、劇団「水族館劇場」が企てた混沌とした野外イベントなのであるが、嬉しいことにその一環として古本市も開かれているのである。寿町で古本…まさに夢のような組み合わせである。台風接近のため人影の少ない街路を寂しく進み、羽衣町→不老町→翁町→扇町と、何だか昔話の世界に迷い込んだような町名を伝い、やがて寿町に至る。ビル化した現代的な安宿とコインランドリーと飲み屋が連続し、傘を差した老人が街角の所々に立ち尽くしている…確かに独特な雰囲気は今もって維持しているが、全盛期ほどの荒れた危なさは感じられない。町の南西に位置する福祉会館の跡地は、『安全第一』と書かれた工事現場用の塀にぐるりと囲まれ、さらに内部が工事用の足場や鉄骨で、武骨に荒々しく、俗っぽく言えば寺山修司or丸尾末広的見世物小屋空間として組み上げられ、どんよりとした雨空の下で、町からは完全に浮き上がった“ハレ”の日の空間として、堂々と怪しく存在していた。『盗賊たちのるなぱあく 娯楽の殿堂』と掲げられた入口ゲートの下には、すでにグッズや演劇の当日券を買い求める人々の列が、雨にも負けず出来上がっている。ゲートを潜り、礫と泥で出来た会場内に入り込む。様々なゲリラ的建築物には、鬼海弘雄のポートレートパネルが大量に貼付けられ展示されている。さて、古本市は何処で…と入って左方向に進んで行くと、左にはメリーゴーランドのような奇怪で巨大なオブジェがあり、すぐ下にはすでに池のように広がってしまった、暗褐色の大きな水たまりがある。その上を延びるようにして、三列のアルミニウム足場が橋として組まれ、その先には薄暗い空間を湛えたテントがあった。強い水気の中に古本の気配を感じ取り、ゆっくり慎重に足場の橋を進んで行くと、おぉ!やはりそこが古本市の会場だったのである。
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橋と同じくアルミニウム足場で作られた高床の足下三十センチは、すでに泥水に侵略された、水上古本市なのである!テント内は薄暗く、開かれた入口側以外は、棚や平台が置かれ、中央には背中合わせの本棚二本と古い冊子類や紙物の詰まったプラ箱が並んでいる。市としては小規模である。並ぶジャンルは社会問題・アングラ・サブカル・アウトロー・映画・和本・古い洋探偵小説雑誌・演劇・思想・ストリップ・性愛・日本近代文学・教科書類・田中小実昌など、奇怪な芯が通った世界である。だが、だが、何よりも、この台風が生み出してしまった、亜細亜バザール的空間がとにかくアナーキーで素晴らしく、上陸した瞬間からトキメキが止まらない!次々橋を渡って来る人も感嘆の声を上げながら、非日常的過ぎる空間の虜となって行く。たちまち混み合う会場。そんなお客さんたちと、池側では気をつけないと転落してしまうので、慎重に譲り合いながら、古本を細かくチェックして行く。その間に「古書 信天翁」(2010/06/27参照。店主・山崎氏は長靴を履き、池の中を自由に動き回っている!)「古書ほうろう」(2009/05/10参照)「古書 赤いドリル」のみなさんと、挨拶を交わす。普通の古本市だったら、台風接近の荒天は絶望的な状況なのに、皆一様に笑顔を浮かべ、この状況をマックスに楽しんでいる模様。なんと麗しい変わり者たち!いや、正直この奇跡の光景を生み出した、みなさんと台風と水族館劇場には、とにかく絶大なる感謝を捧げたい。今日来て本当に良かった!と喜びを噛み締めながら、嬉し過ぎ楽しみ過ぎて、会場を馬鹿みたいに三周はしてしまう。八雲書店「金泥/吉井勇」アルス「フレップ・トリップ/北原白秋」(白秋の樺太旅行記。昭和三年初版だが函ナシで口絵も二枚抜け落ちている。でもやっぱり嬉しい!表見返しには神保町「一誠堂書店」(2010/03/27参照)の古い古書店ラベルあり!)を計700円で購入する。
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再び橋をギシギシ渡り、泥と礫を踏み締めて、寿町の街路に舞い戻る。さっきより、雨と風が強くなり始めている。斜向いの角地ビル一階には、謎の酒屋があり、ちょっと怪し気な男女が嬌声を上げながらアルコールに酔い痴れている。途端にこちらもビールが飲みたくなるが、とてもその中に飛び込む勇気はない。水上古本市の興奮覚めやらぬまま、傘も差さずにワンブロック歩き、やたらと酒類の豊富な自動販売機で缶ビールを購入。グビグビ喉に流し込みながら、ようやく傘を差して元来た道をたどり始める。寿町→扇町→不老町→羽衣町と進み、ちょうど『国道16号』にぶつかったところで、缶ビールを飲み終わる。あぁ、台風の日の、夢の中のような古本市よ、さらば。この市は今日が最終日であった。
posted by tokusan at 20:51| Comment(0) | 関東 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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