まだ午前十時四十分の、ビルの影に覆われた冷えた『宮益坂』を、早足で上がって行く。頂上に着き、横断歩道を渡ると、「中村書店」(2008/07/24参照)はまだ開店していない。足を停めずにその前を通り過ぎ、「巽堂書店」(2008/07/24参照)に到着する。午前十時半が開店時間なのに、どうやらシャッターを開けたばかりで、表には何も出ていない。老店主が薄暗い店内の奥で、ゆっくりと開店準備を進めている。そしてドアや店頭のビル壁には、コメントタレコミ通りに『閉店のお知らせ』が何枚も貼り出されていた。『先代が開店した昭和3年から83年に渡り、お引立ていただきました巽堂書店を、平成29年12月16日をもち、閉店することとなりました』と書かれている。誠に寂しい限りである。だが、まだ今はお店が目の前にあるから良いが、閉店してしばらくしてこの前を通りかかったりすると、何気なく足を停めて店頭の古本を楽しんだことを思い出し、その寂しさはより一層深いものとなるのであろう。ここでは店頭で妙な本をちょくちょく買わせてもらっていたが、一番の思い出を挙げるならば、写真家・澤田知子の「ID400」が100均に並んでいたのに、買い逃してしまったこと…今でも時間を巻き戻して買いに行きたい、痛恨の大失敗である…。陽の当たる白タイルの店頭に立ち、そんなことなどを思い出していたが、まだまだお店は開きそうにない。そこで50mほど離れたガードレールにお尻を乗せて、文庫本を読みながら開店を待つことにする。およそ十五分後の午前十一時になって、ようやく店頭に均一棚が立ち始めた。本を閉じてお店に近づくと、老店主が三本目四本目の棚を、きっちりぴったりとセッティングしている真っ最中で、店内にはすでに先客の姿もあった。立ったりしゃがんだりを繰り返して、店頭棚に隅から隅まで目を通し、三冊をつかんで店内に進む。BGMはいつもと変わらず柔らかで雄大なバロック音楽である。閉店まで後二十日余りあるので、こちら方面に出たときは、なるべく立ち寄るよう心がけよう。朝日新聞社「国鉄監修 続・日本の鉄道」(カバーナシ)春陽文庫「花の季節/北條誠」人文書院「アンドレ・ブルトン集成1」を計500円で購入する。

店頭にて持参した「野呂邦暢古本屋写真集」を開き、旧店舗が載ったページとともに記念撮影。
帰りは荻窪まで出て、月曜日の「ささま書店」(2008/08/23参照)詣で。白馬出版「銀座 わが街/銀芽会編」春陽堂文庫「診察簿餘白/正木不如丘」牧神社「恐怖小説史/エディス・バークヘッド」を計1050円で購入する。家に帰ってからは、仕事をしながら12/9の古本市の準備を、まずは大雑把に細々と進めて行く。
posted by tokusan at 14:08|
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古本屋消息
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宍戸錠が刑事時代の仲間だった鈴木瑞穂に呼び止められるシーンの前後です。
いまは、世田谷代田で通信販売専門になっているようですが、ネットでは在庫が分からないので注文する機会も
ありませんね。