2017年11月29日

11/29「文壇底流記」

コメントタレコミのあった未知のお店へ出かけることにして、昼食を摂ってから外出。新宿駅でJRを乗り捨て、西口改札を抜けて都営新宿線のホームに向かっていると、円形のイベントコーナーでは神奈川のお店を中心とした「新宿西口古本まつり」(2008/11/28参照)の真っ最中であった。そうか、市は明日30日までか。時間がないので流しながら見る感じで、ちょっとだけ覗いて行こう。そんな風に多数のワゴンが作り出す通路に入り込み、いつもより速い三倍くらいのスピードで、本の背に目玉を忙しなく走らせて行く…が、気になる本が所々に見つかり始めると、たちまちその速度は低下していまい、結局じっくりと棚を隅から隅まで見ている自分がそこにいた…。途中「雲雀洞」さん「文雅新泉堂」さん「一角文庫」さんに発見され、声を掛けていただく。会場全部を見て気に入ったのは、今回はその「雲雀洞」さんであった。ジャンルが幅広く柔らかで、あまり見かけぬ古書が時折安値で混ざり込んでいるのが、何とも言えない。結局愚かにも一時間ほど滞留してしまい、未知のお店に向かうのはすっかり諦めて、那南タイムス社「文壇底流記/杉山幸一」読売新聞社「週刊読売 昭和五十年八月九日号 特別企画:推理小説」を計824円で購入する。
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「週刊読売」の特集は、探偵グラビアページや『東西推理小説ベスト20』『座談会【三億円事件、メグレ警部にやらせてみたい】佐野洋×中島河太郎×田中小実昌』『クリスティ礼賛』『世界名探偵紳士録』『推理小説への招待』『雑学事典』などで構成されている。しかしそれより何より「文壇底流記」は拾い物であった。大正終りから第二次大戦前にかけて、文壇の裏街道を這いずり回った男の、短い回想録である。元々文学を志していたが、その日暮らしの日雇い仕事に疲れる日々を送っているので作品を書くこともままならず、結局一面識もない菊池寛にたかって露店の古本屋を始め(この出来事は菊池自身も『自賛』という小説に仕上げている)、その菊池の紹介により芥川龍之介や久米正雄からも古本をせしめて糊口を凌ごうとする。だがそんなことが長続きするはずもなく、結局菊池からは即座に見限られてしまい、著者は作品を書くことなく文壇周辺をウロウロしながら、様々な底辺の職業を転々として行く。だがいつしかその豊富な職業体験が幸いし、下村千秋や加藤武雄にネタ提供したりするのを経て、実話物や大衆小説の胡散臭い書き手として三流雑誌などで活躍を始めるのだ。そんな興味ある話や自作の小説を掲載したこの文庫サイズの粗末な本は、戦後に自身で故郷の栃木で立ち上げた出版社から出されているようだ。値段表示は何処にもなく、扉には献呈署名が入っている。恐らく知人に配布した少部数の非売品なのであろう。嗚呼!今まさにこの時が、時代の底に流れ落ちた知られざる作家が、古本を媒介として、ふいっと現代に奇跡的に浮かび上がった瞬間なのである!こんな他愛無い喜びに突然出くわすのも、古本探しの大きな醍醐味と言えよう。
posted by tokusan at 19:16| Comment(0) | 追記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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