記念すべき二十回目の「不忍ブックストリート一箱古本市」のプレゼンターを、一箱の首領・南陀楼綾繁氏より仰せつかり、午前十一時過ぎに根津駅に降り立つ。しかし地図も出店場所も把握していないので、まずは近くの「タナカホンヤ」(2012/05/29参照)に顔を出す。するとそこには、すでに第一波が去った後の幕末専門「モロ古書店」と乙女系ハードボイルド「文庫善哉」が強い日射しに焼かれていた。挨拶を交わして本を買い、端のアンソロ本を多く並べる「小声書房」にも足を留める。店名通り青年の声は小さいが、喋りはアグレッシブで滑らかであった。続いて『ハウスサポート八號店』では、乙女系トランクを開陳した「万開books」に少し心を奪われる。期待を決して裏切らない「とみきち屋」では文庫を一冊購入。「ひるねこBOOKS」では、海外児童文学箱入り本ばかりを並べた「いちょう文庫」を気にしながら、「散歩堂+」で一冊購入。ここではメガネがいつの間にかセルフレームに変わった南陀楼氏とも遭遇し、言葉を交わす。『アイソメ』では、本が見え難い男子仲良し二人組の「二十成人文庫」に面くらいながら、「脳天松家」で一冊購入。『根津協会』では暗い室内と明る過ぎる中庭のコントラストに翻弄されながら、「よたか堂」の緩い個人的宮沢賢治縛りに微笑み一冊購入。「喜多の園」(2011/07/21参照)では、相変わらず本を売りたがらない店主と話し込みながら、「W ART BOOKS」の小さなプラ箱に立体的に大判本+その代替物とも言える小型本を埋め込んだもどかしげなスタイルに小さな感銘を受ける。『往来堂書店』では忖度して谷譲次の新潮文庫「もだん・でかめろん」を差し出す「RAINBOW BOOKS」に喝を入れながら一冊購入。初の出店場所となる『森鴎外記念館』では高い壁沿いに箱が並び、非常に見やすく整然とした印象を受ける。『老人ホーム谷中』では、ガチガチに須賀敦子で縛った「コローのアトリエ」と、八十年代の匂いが色濃い「サルエ堂」に注目する。「古書ほうろう」(2009/05/10参照)では「B-bookstore」の木製二段回転ラックに見蕩れ、「雨の実」母娘の“お喋りジェットストリームアタック”を心地良く浴びる。『谷中の家』でビートたけし縛りで八十年代たけし風セーターを着た「ドジブックス」に口あんぐりした後、公園でパンにて昼食。木陰でスヤスヤ眠るトラ猫を起こさぬよう、忍び足でゴミを捨てる。『貸はらっぱ音地』では「言戸堂」では山岳と雑本が混ざり合う中から一冊を購入する。これで全十二ヶ所・計五十六箱を巡り終り、計九冊を計4200円で購入したこととなる。時刻は午後二時三十分…昼食を摂った公園に腰を据え、「文庫善哉」で買った本を読み始めてしまう…途中、公園を通り抜けた何人かの知り合いに声を掛けられ、柄にもなく照れてしまう。午後五時過ぎに、住まいの図書出版局「中野本町の家/後藤暢子・後藤幸子・後藤文子・伊東豊雄」を読了。涼しくなり始めた風の中を、表彰式会場へと向かう。今回の古ツア賞第一位は「よたか堂」であったが、残念ながら会場に姿が見えなかったので、第二位の「W ART BOOKS」が受賞となった。

買った本たちと、久しぶりのスタンプコンプリート。全部捺すと浮き上がる文字は『ちいさなうちゆうを20周』であった。「よたか堂」で200円で買った絶版の新潮文庫「無聲慟哭・オホーツク挽歌/宮沢賢治 草野心平編」が、ちゃんと柔い帯付きで嬉しい。
思えば一年に一度、谷中・根津・千駄木の一角に、人の手でたくさんの本が寄り集まり、工夫を凝らして開陳され、やがてそれらが別の人の手に渡り、街の外に流れ出て行くのである。百年以上これが地道に続いたとして、本が完全に旧時代のものとなった時代には、奇妙な習俗として、形骸化した奇祭として、民俗学の研究対象になっているかもしれない。それだけこのイベントは、人の心とこの土地に、根付いた印象がある。主催の皆様、助っ人の皆様、出店の皆様、お客の皆様、本日はお疲れさまでした。そして二十回、おめでとうございます。
posted by tokusan at 22:04|
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