主に右辺と奥がアンティーク&バーゲン品&デッドストック類で埋まり、古本は左辺と中央長テーブルに集まっている。ミステリ&SF文庫・文芸単行本・仙花紙本・推理小説単行本・ミステリ&SF雑誌・春陽文庫などがすべて100円でうずくまっている。すでに古本神と古本修羅に蹂躙され後なのだろうが、補充は常に行われているようななので、どうにか三冊を掴む。新潮文庫「アッシヤァ家の沒落/エドガア・アラン・ポオ」「日夏耿之介詩集」カッパ・ブックス「みみずく説法/今東光」を計300円で購入する。テクテク通りを北に遡り「盛林堂書房」に立ち寄る。「フォニャルフ」の動きをチェックしつつ、右上の本棚探偵「ひとたな書房」に視線を移す。おぉ!渡辺啓助の「海底散歩者!」、げえっ!その隣りには常に恋い焦がれている九鬼紫郎の別ペンネーム・九鬼澹の仙花紙本が並んでいるじゃないかっ!何てことをしてくれるんだ、本棚探偵!と一人で無闇矢鱈にいきり立ち、値段をチェックする……一万三千円か…いつものように、相場の半額ほどの破格値だが、さすがに高いな…。万超えの値に、古本心が少しクールダウンする。そして帳場に向かい、朝日新聞社「空を護る科學/淺田常三郎」アトリエ社「ピカソの歩いた道」を200円で購入し、とにかく心を落ち着けて「フォニャルフ」の先月分の売り上げを受け取ることにする。するとその額が、ちょうど一万三千円……あぁっ!これはいったい古本神の気まぐれな悪戯なのか!それとも思し召しなのかっ!たちまち心は麻酔され、フラフラと「ひとたな書房」に接近し、湊書房「探偵小説集 人口怪奇/九鬼澹」を脆くも購入してしまう…買ってしまった。もう喜んでいいんだか、嘆いていいんだか自分でもよく分からないが、この憧れの本がとにかく手に入ったのは、ちょっとしたパーティでも開きたいくらい嬉しい気分である。この本が、こんな値段で手に入るなんて、基本的にないもんね。
戦前に九鬼紫郎が編集長を務めていた探偵小説雑誌「ぷろふいる」に掲載された自作の探偵小説三編をまとめた全230ページの中編集である。戦後はハメット張りのハードボイルド系探偵小説を書き飛ばし、奇怪な輝きを放った九鬼だが、いったい戦前にはどんな小説を…と読み始めると、書き出しの「懐かしい東京よ、さやうなら(オールヴアール)」に早速ノックアウトされてしまう…や、やっぱり、か、買って良かったなぁ。良し、これからビールでも傾けながら、あらゆる読みさしの本をすっ飛ばし、この「人工怪奇」に取りかかることにしよう。本棚探偵、今日もありがとう!
青空の下の「人工怪奇」。その歪な宝石のような原色の輝きで、俺の心を存分に魅了してくれっ!

