2018年12月16日

12/16東京・鶯谷 古書 木菟

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嫌気を覚えてしまう、粘っこく明度が低い曇天である。新宿駅から山手線の上半分を五分の二周し、昨日新しく出来た古本屋さんを見に行く。だが、間違えて南口で降りてしまった…本来は北口から改札を抜け、『言問通り』に上がって西を目指すのが正しいのだが、仕方ないのでこのまま歩き始めることにする。ぐるっと回り込むように、北西にある『言問通り』を目指して進んで行く。『寛永寺』の霊園と、『東京国立博物館』に挟まれた道に入り込んで行くと、人影はほとんどなく、タクシーが連なり憩っているほどの静けさである。整然とした情報の少なさと、空の広さが、まるで浮世絵を見るようである。こうなると嫌気を覚えた曇天も、俄然風雅なものに変貌して行く。徳川家綱廟の豪華な門や、威厳ある『東京文化財センター』前を通り、どうにか目的の『言問通り』へ出ると、浮世絵の面影は消え去り、下町の風景が広がり始める。通りを西にグイグイ進み、やがて『上野桜木交差点』。道を北へ入り込み、黄色い看板の『愛玉子』前を通過して、交番のある小さな交差点を西に入る。すると右手に、谷中の風景にベストマッチしたお店が見えて来た。小さく細長く新しく、三階建ての店舗兼住宅の一階がお店なのだが、大変に造作と意匠に手間をかけているのが一瞬にして見て取れる、驚きの店構えである。瀟洒な軒燈が可愛らしく、明り採りの小窓も美しい。上部がRになり、磨りガラスと透明ガラスを組み合わせた木枠戸は、まるで庵の入口のようである。そしてその左右には、何と龍と鳳凰のレリーフが飾られている。さらに左の店名看板が埋め込まれた部分は、いわゆる“梲(うだつ)”のようでもある。そんなこだわりの入口から中に進むと、おぉっ!これはまたまたスゴい!細長い店内は、両壁に造り付けの木棚を設え、七段×七列でずずいっと奥の帳場まで美しく続いている。足下には御影石のパネルが敷き詰められ、中央には細長い平台が三台縦列して行く。…完璧だ。完璧な空間造りだ!と感心しながら棚に眼を流し始める。右壁は、フランス・パリの歴史や社会や事件から始まり、東欧・ドイツ・ヨーロッパ全般・スペイン・ロシアと大きく広がり、やがて中国やアジアにも至る壮大な並びを展開し、見る者を圧倒する。それに続き、思想系エッセイ・民俗学・政治・思想・近現代史・上野英信・谷川雁・埴谷雄高・石牟礼道子・松下竜一・労働運動・抵抗運動・無政府主義・社会主義・共産主義などが、煉瓦の如く連続して行き、最後の棚は新刊書で埋められている。踵を返して左側の棚を帳場近くから眺め始めると、海外の思想書が集められ、それにつながるように大量の海外文学がきめ細やかに並び続ける…おぉ、ブルース・チャトウィンやジャック・ロンドンも網羅されているのが嬉しい。そして入口近くには、安部公房・大江健三郎・開高健・車谷長吉・金井美恵子・後藤明生・富岡多恵子などを核に、独特な日本文学の波が寄せ集まっている。平台には、カルチャー雑誌の揃い・海外文学・思想系雑誌の揃い等。とにかく体系的に並ぶ硬めの本(そこには松岡正剛の色濃い影が)たちに、圧倒されっ放しである。深く重い本棚である。こういう潔い古本屋さんを営むのは、とても勇気がいるのではないだろうか。値段は相対的にちょい高ではあるが、硬めの本にしては買い易いお値段と言えよう。帳場に近付き、ほんのちょっと高橋源一郎風と言えるような壮年男性に精算をお願いする。レジ操作に手間取るのは、開店二日目のご愛嬌である。大和書房「レムの宇宙カタログ/スタニスワフ・レム」(これは安値で、なんと喜びの六百円!)を購入する。表に出て、お店を視野に入れながら、辺りを見回してみる。長い白塀、墓場、木造家屋の裏側、蘇鉄、楠の巨木、反り返った寺の屋根…そんな景色の中に、新しい古本屋さんが出現していた。開店おめでとうございます。そしてあくまでも蛇足だが、その楠の巨木が生えている、南側の『大雄寺』の古めかしい境内に入り込むと、何と墓石と卒塔婆越しの古本屋さんと言う、奇景と言っても過言ではない幽玄な景色が拝めるのだ。ぬぉっ、素晴らしい!
posted by tokusan at 18:38| Comment(2) | 東京 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
街を通り抜けて、そのまま古本屋さんの棚へ迷い込む。ちょいと落語を聞いているのかのような名調子ですね。これは一度行ってみなくちゃなと思いました。みなとみらい古本まつりをうっかり逃してしまった傷心のワタシを大いに慰めてくれるのでした。
Posted by としのすけ at 2018年12月17日 05:22
お褒めにあずかり光栄です。このお店、営業日が木〜日となっていますので、お気を付けて。
Posted by 古ツア at 2018年12月17日 21:18
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