改札を抜けて駅北口に出たなら、そのまま駅前から抜け出さずに西に向かい、高架下の『西友』内を失礼ながら抜け道にする。西端の出口から吐き出されると、高架から徐々に離れるようにして、一本の直線道が北西に延びて行く。「忘日舎」(2015/09/28参照)の前を通り過ぎ、さらに「古書音羽館」(2009/06/04参照への脇道もやり過ごす。そこからさらに百五十メートルほど進んで行けば、左手の曲がり角手前の店舗の軒下に、箱に“T”“B”のイニシャルとともに可愛らしい熊が顔を出す木の看板が下がっているのを発見出来るだろう。脇道に入り込み店舗前に回り込むと、白と赤枠の洒落た小さなお店である。吉祥寺にあった絵本の名店『トムズボックス』が、古本屋さんとして、ここ西荻窪で復活を遂げたのである。ガラス戸を開けて中に入ると、横長のこじんまりとした空間である。手前の窓際には新刊が入った小さな棚と、カードや雑貨類の棚が設えられている。フロア中央には新刊類を並べた大きなテーブルが置かれている。右奥には洋書の絵本&児童文学棚があり、それに続き帳場が造られている。そこに座るの二人の男性で、なんだかはるき悦巳の漫画に出てくる人たちみたい…「外をたくさんの女子高生が通って行きますよ。チラシでも巻きましょうか?」などと嬉しそうに会話中。入って直ぐの左壁はラックになっており、戦前戦中の古い絵本やお薦め絵本が飾られている。その奥から棚になっており、さらに奥壁は一面の棚。児童文学関連・イラスト・作品集・アート・絵本関連図録・絵本・漫画関連・絵本・児童文学・紙芝居・文庫本・長新太・和田誠・今江祥智などが並んで行く。所々にレアな児童文学と絵本が顔を出すのがスゴい上に、七十年代〜八十年代辺りの日本のイラストレーター&イラストアート関連が深く集められているのが面白い。値段はビシッとスキ無しである。福音館書店かがくのとも「ふしぎなきかい/安野光雅ぶん・え」を購入する。開店おめでとうございます!…あぁ、考えてみれば、これで三日連続で絵本の古本を買っていることになるのか…。
この後は駅南側に出て「盛林堂書房」(2012/01/06参照)へ。「フォニャルフ」に補充した後、帳場横で出来立てホヤホヤの本と地図を受け取る。我刊我書房 覆刻「彩色ある夢」と盛林堂ミステリアス文庫「不思議な宝石」はともに石野重道の作品。稲垣足穂の盟友だった、知られざる作家の自費出版本の誌面覆刻と、同作家の新たに発見された童話をまとめた文庫本である。読みたくとも読みたくとも読めなかった作品たちが、二十一世紀に新刊として蘇った!二冊同時に石野重道本のカバーデザインを手掛けられる日が来るとは、全く持って驚きで、人生は何が起こるか分からない奇怪な楽しいものである、と改めて思う。「彩色ある夢」オリジナル本の装幀者は稲垣足穂なので、私が新しいデザインを施すなど余りにおこがましいのだが、巡って来たチャンスを思いっきり甘受し、まったく違うものを創ることを念頭に、依頼を受けたのである。大正十二年刊のオリジナル本は、タルホの無邪気とも言える図形や英単語や線形を散りばめた、シンプルでファンタジックなデザインであった。そこから離脱するために、本文から勝手に読み取った、『黄色』『孔雀』『三角』を素材にし、眼底に飛び込んで来る光彩のような文章のピーキーでクレイジーなな感覚を折り込み、ある種の読み難さを孕む特徴ある文体を追いかけ、デザインを組み上げて行った。「不思議な宝石」は、同じく素材のひとつである『黄色』の感覚を拡大し、大正末期のモダニズム感覚を、シンプルに包み込んだつもりである。フフフフフフ、しばらくはこの二冊で、文学史の地下深くに埋没していた、忘れ去られた宝石のような、1920年代の特異なモダニズム&アヴァンギャルドを、たっぷりと慈しめそうだ(「彩色ある夢」のアンカットも、不器用ながらに全部切り裂いたぞ!)。明日から盛林堂店頭でも販売されるので、気になる方はお早めに!
http://seirindousyobou.cart.fc2.com/
そしてさらに受け取った地図とは、構成を担当したA4サイズ『西荻窪古本屋マップ』である!西荻窪の十六店の愛すべき古本屋さんを地図と文章でご紹介!こちらも明日辺りから、西荻窪の各店舗で無料配布される予定なので、是非とも手に入れ、各店舗を経巡り、古本をバンバン買い漁っていただければ!

