ところが都内の環状線が激しく渋滞、あまつさえ高速に乗っても朝なのに下りが渋滞しており、何となく躓いた気分になる。途中『談合坂SA』で借りて来た軽バンに乗った岡島弟と合流し、勝沼で高速を下りて、葡萄畑で出来た緑の迷路のような道をひた走り、どうにかおよそ三時間弱かかって目的宅に到着。矍鑠とした老依頼主と挨拶を交わし、早速作業に入る。前回すでに大量の本を運び出しているのだが、それでもまだ二階の部屋部屋には本がドッサリと残されているのだ。一部屋では壁の二面に大きな棚が張り付き、
一部屋には二本の本棚、そしてVHSビデオ部屋を通過して入れる書斎には可動式の書庫が付属しており、都合壁棚も含め十本の本棚が犇めいている。
向井氏と岡島弟は書斎で本の選別と結束に入り、岡島兄は壁大棚二本の部屋で選別と結束に入る。ここで面白かったのは、三店の古本屋さんの欲しい本があまり重ならぬところ。それぞれがそれぞれ得意の分野や、お店での本の並べ方や、催事での売り方などに合わせて、それぞれがすぐに売りに出せそうな本束を生み出していくのだ。函ナシの「断腸亭日乗」を「これは持って帰ろう。この方が安く買えて、素早く売れることがあるんです」と即座に縛り上げる岡島弟の独特な考え方に感心する。また床に胡座をかき、膝の上で本を縛り上げる奇妙なテクニックにも感心することしきり。巨躯の向井氏は、安楽椅子にドッシリ腰を落ち着けたまま、次々と本束を造り出して行く。岡島兄はスローペースだが、本の仕分けが物凄く丁寧。「普段はここまでしないんだけど、こうしといた方が後が楽」と楽しそうに作業している。イレギュラーズの私はと言えば、本格的な出番は結束本の運び出しにあるので、今は本束を空いている部屋や廊下に積み上げたりしながら、「欲しいのがあったら持って行っていいですよ」と言われているので、気になる本があったら遠慮なく抜き出して行く。なんたって、今日の作業の報酬は古本オンリーなのだ。力一杯働く代わりに、遠慮なくその代価として、素晴らしい逸品を手に入れなければ!と相変わらずの卑しい古本心を熱く燃やして、各部屋を行ったり来たりする。…窓の外に見える夏の葡萄畑が、何とも言えない美しさである…。
三時間ほどかけて、ほとんどの本の結束を終え、運び出し作業に入る。向井氏が二階の上がり口に本を集め、私がそれを階段で受け取り、玄関まで下ろして積み上げると、岡島弟が玄関前に着けたハイエースにドシドシと積み込んで行く。岡島兄は残りのチェックや本以外に使えるものを集めて行く。およそ四十分ほどで、大小百本ほどの本束を、依頼主に「本は重いですなぁ。フォッフォッ」と言われ、汗みどろになって運び出し、体内のエネルギーをすべて使い切ってしまう。その報酬として十冊ほどの本をいただくが、一番のスゴい物は、本ではなく一本の短いフィルムなのであった。岡島兄が仕分けた中に、奇妙なボール箱が二つあり、ともに『引火しない面白くて為になるライオン.フィルム』とハンコが捺されている。蓋を開けると四角い小箱が十個収められており、その小箱の中にはさらにフィルムが巻かれて入っていた。幻灯機用の駄玩具着色フィルムらしいが、そのラインナップが大変に素晴らしい!『鉄人28号』『遊星王子』『鉄腕アトム』『鞍馬天狗』『月光仮面』『七色仮面』『丹下左膳』などであるが、その中の一本に『怪人廿面相』が含まれていたのだ!『ララミー牧場』と合巻になっているそのフィルムを丁寧に開き、ゴクリと唾を飲み込みながら電灯に翳して見る。
内容は二十四コマあり、金の塔を狙う怪人廿面相と明智&小林コンビが知恵比べするというもの。だがストーリーは大雑把につながっているダイジェスト版的な感じなので、もしかしたら付属の脚本みたいなものを弁士よろしく読み上げながら、紙芝居のように上映するのかもしれない。こ、これは貴重で素晴らしい物だ!と一人大大大興奮してまう。
で、で、で出来れば報酬にいただきたいのだが(欲望は既に丸出しで止まらない…)、これをいただいてしまうと、小箱がせっかく十個揃って完品なのが崩れてしまう…うぅ〜ん、諦めるか…あっ!そう言えばもうひとつ箱があったな!と思い出し、そちらも開けてみると、こちらのフィルムは何故かモノクロバージョン。そしてフィルムは小箱ではなくフィルムケースに入っている。あっ、こっちにもちゃんと「怪人廿面相」があるじゃないか、しかもこちらは完品じゃないので、思い切ってお願いしてみよう。と部屋に入って来た岡島兄に「岡島さん、このフィルム、完品じゃないしかもモノクロフィルムの方、一本だけいただいてもいいですか?」とお願いすると、至極あっさり「いいですよ」と答えていただく。うわぁい!と気持ちを抑え切れず小躍りすると「すげぇ真剣に言われるから、何かと思いましたよ」と笑われる。いや、この貴重な一本のフィルムが手に入っただけで、ここに来た甲斐がありまくりなのです!本の雑誌スッキリ隊、バンザイ!ととにかく無邪気に大興奮する。帰りは帰りでまたもや高速でヒド過ぎる渋滞に巻込まれたのだが、とにかく廿面相のフィルムが嬉しくて、始終ニヤニヤホクホクしていた次第。

