2019年09月08日

9/8東京・高円寺 tata

昨晩気まぐれに、昭和十二年第二刷の岩波書店「墨東綺譚/永井荷風」(“墨”は本来、さんずいに墨である)を一気読みする。暗闇に向って窓を開け放ち、生温い空気を取り入れ、蚊取り線香を炊きまくり、大きな総ルビの活字と、木村荘八の墨の挿絵を目玉で追い、玉ノ井の迷宮を脳内でうろつき回る。何度目かの再読だが、やはり荷風の街の描写は、愛と寂謬を引き摺りまくりながら、微に入り細に入り叙情を湛え、やがて失われる風景を、見事に文中に定着させている。巻末には「作後贅言」という「墨東綺譚」とはそれほどクロスしない、隨筆とも創作ともつかない掌編が載っているのだが、こちらは銀座の街と風俗が詳細に記されており、荷風といつも行動を共にする、帚葉翁という老人が街行く人々を今和次郎のように考現学的に観察記録しているのが、何とも言えず味わい深い。二編併せてまさに名作の逸品である!…などと感じ入った晩夏の寝苦しい夜…。
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これは函背の『蚊遣香』の絵。第七章の章タイトル横にも載せられている。

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そして本日は、綿菓子のような雲がモクモクと青空にはびこるのを口を開けて見上げ、高円寺へ。駅北口に出て、喧噪の『高円寺純情商店街』を北へズンズン突き進む。突き当たったら西に曲がって『庚申通り』に入り、そこからさらに北へ進む。ちょいちょい進んで、右に通りの名の由来となる『庚申塔』を眺め、さらに先へ。この辺りから、道の右側に潜む細路地に神経を使って歩くようにする。すると、中華麺屋の手前の行き止まり路地の入口に、白い儚い立看板が出ているのが目に留まる、看板上部に細い線で幾何学的に書かれたお店のロゴも、これまた儚い。それを目印に路地へふいっと入り込む。飲み屋や食べ物屋がひっそりと並んでいるが、右手奥には白い袖看板を掲げた洒落たお店が潜んでいる。おぉ、ここは「アバッキオ」(2008/10/14参照)のあった所ではないか!そうか、ここに新しい、bookshop galleryが出来たのか!と西洋風扉を開けて店内に滑り込む。そこは、いつか来た「アバッキオ」とほとんど変わらぬ光景。右にカウンターがあり、一人のシュッとした青年が先客と楽しそうに話している。入口左横には本棚、左壁に小さな棚が続き、真ん中には二階への鉄梯子。さらに棚が続き、奥には大きな棚が張り付いている…什器も旧店そのままのようだ。並んでいる本はかなりセンスが良く、池波正太郎・伊丹十三・岸田衿子・原節子・赤瀬川原平・粟津潔・カンディンスキー・ジョン=ケージ・ブルーノ=ムナーリ・アート・絵本・モビール・デザイン…う〜む、いいなぁ。値段はかなりしっかりめ。気になる本を手に取っていると、先客を送り出した店主が、フレンドリーに話しかけてくれた。「アバッキオ」さんとは以前からの知り合いで、本屋をやる条件で、この場所を受け継いだこと、今は並んでいるのは古本だけだがそのうち新刊も取り扱うこと、二階は急な梯子で昇るのが難儀だがギャラリーとして使うこと、カウンターではコーヒーやお酒を提供すること(恐らく飲み屋になってしまうのでは…と店主は楽しそうに危惧)、などなど楽しくうかがう。まさに「アバッキオ」の場所も精神も受け継いでいる感じである。色々整ったら、お酒を飲みにフラリと寄ってみることにしよう。晶文社セレクション「バウハウスからマイホームまで/トム・ウルフ」を購入する。うらぶれた路地裏に開店、おめでとうございます!
posted by tokusan at 16:15| Comment(0) | 東京 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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