縦長で奥深く天井が高く、洒落た空間である。各ジャンルは品揃え&棚造りしっかりで、マイペースな雰囲気と若めの傾向がこの街ではなかなか新鮮な印象を受ける。奥のカウンター前のレコード軍艦島が異彩を放つ。他にも張り子の人形や、アンティークなショウケースや、オバQの鉛筆削りや、崎陽軒の醤油入れ『ひょうちゃん』などが売られている。散々何を買おうか悩んだ挙げ句、初っ端なのに古本ではない、件の醤油入れを500円で購入する。だがこれは、スタンダードな横山隆一作ではなく、何と原田治の絵入りなのである。うぅむ、これは嬉しい。こんな奇妙な物が出ていたのか。ミスマッチも甚だしいところが、全く持って愉快愉快。続いて「天野屋」(2008/12/21参照)に向かい、雑然とした空間と、頻出する古書をウハウハ楽しむ。
ボール紙表紙本、おぉっ!九鬼紫郎の時代物!渡辺啓助!などと目の保養を済ませてから、河出市民文庫「上林暁集/山本健吉編」を300円で購入する。熊本に所縁ある作家の本が早々に買えたのが嬉しく、ちょっとした役目を果たした気分になる。「ちょっと地元喫茶店に入って一休みしよう」と岡崎氏が提案。賑やかなアーケードの下に入り、地下の喫茶店『珈琲人』に腰を据える。金沢碧のようなご婦人が一人で優しく切り盛りしているお店である。心と身体を小休止させた後に、「舒文堂河島書店」へ。
来るのは三度目だが、相変わらず豊かな古本屋さんである。店頭+店内前部+店内中央部+店内後部と、まるで四つの異なるお店が連結しているような豊潤さなのである。特に熊本の歴史郷土関連はピカ一。店内前部の棚から、戦前の子供雑誌「幼年倶楽部」などからセレクトした物語をハードカバー合本にした私家本を千円で購入する。その後は近くのホテルにチェックインし、またも一休み(ちなみにこの間、岡崎氏はビールを飲み、サンドイッチで腹ごしらえし、トークに備えていた…)。ベッドに寝転び「上林暁集」の『天草土産』を読む。おぉ、旅先で収穫の古本を読み耽る幸せよ…。午後五時半、ロビーで岡崎氏と落ち合い、アーケード街をそぞろ歩きで抜け、地元デパート『鶴屋』の本館6階で開催されている「第50回鶴屋古書籍販売会」に突入する。ダンス衣装売場と紳士服売場と分け合った場所に、40弱のワゴンを並べ、右と左で老舗と若手がせめぎ合う感じの中規模の古本市である。
老舗の郷土本の強度も凄まじいが、若手のデパート古本市には珍しい均一ワゴンも魅力的。「本々堂」が出す200均のワゴンから、雄山閣出版「虹男/角田喜久雄」(箱ナシ)を220円で購入する。買物を無事に済ませ、連絡通路からトーク会場へ向かい、午後七時から岡崎氏と縦横無尽に古本屋さんについて話しまくる。いや、やくたいもない古本屋大好きオッサンたちのバカ話をご静聴いただいた、三十人弱の素敵なみなさま、本当にありがとうございました。
打ち上げでは新鮮なお魚をたくさん食べつつ、「河島書店」御大&若旦那「エターナルブックス」さん「タケシマ文庫」さん「汽水社」さん「グエル書房」さん「古書ワルツ」妹さん(2010/09/18参照。実家が佐賀で帰省中だった)「西海洞」さんらとワイワイガヤガヤ。そしてなんと、北九州からわざわざ古本乙女・カラサキアユミさんも駆け付けていたので、場は更に無闇矢鱈と古本話で盛り上がる。カラサキさんからは、古本市でさっき買ったばかりの、昭和の地元商店広告の裏に丁寧に書かれ綴られた郷土士伝を見せてもらう。もちろん目的は郷土士伝ではなく、その裏の広告チラシたちなのである。相変わらず古本&紙物好きにメーターを振り切っていて、期待を裏切らぬ活躍っぷり。また「西海洞」さんからは、「紙物の山の中に入ってたんだけど…」と、突然古い平成八年の中学生の生徒手帳をプレゼントされる。中を開くと、名前がなんと“古本”さん。嬉しいけど、私はこれをいったいどうすりゃいいんですか!と苦笑しながらありがたく拝受する。


シワひとつない、まだピシッとシーツが敷かれたチェックインしたばかりのホテルのベッドで、数時間前に買ったばかりの古本を読むなんて、素敵すぎますね。車中ではなく、機内でポケミス(しかも古本!)を読み進める感じも!