2021年10月29日

10/29古本屋ツアー・イン・日下三蔵邸【第十章】

すでに昨日のことである。最近集中して行っている稀代のアンソロジスト&ミステリ評論家で、驚異の蔵書数を誇る日下三蔵氏邸の書庫整理に、「盛林堂書房」(2012/01/06参照)小野氏とともに急行する。盛林堂・イレギュラーズとなっての日下邸通いは、大いなる楽しみでもあるのだが、その作業のハードさは他に類を見ないものである。東京を盛林堂号で午前七時過ぎに出発し、午前九時半に現地着。本邸車庫に車を停めると、暖かな上着を羽織った日下氏が現れ、その服装の違い思わずに季節を感取ってしまう。「どうぞどうぞ」と招き入れられ、すでに本の影が少ししか残らぬ玄関廊下を通過し、脇の和室に入り込む…あぁ、初めて日下邸を訪れた時のことを思い出すと、この通常レベルのスムーズさはまるで夢のようである(2014/12/10参照)…あれからもう七年が経過し、コツコツコツ日下氏と小野氏と三人で力を合わせ、本の山の片付けに腐心して来たのであるが、人間諦めずに継続すれば、いつかは実を結ぶものなのだなぁ〜と実感する。その本当にキレイに片付いた和室に、三人で車座に座り「いやぁ、周りに何もないと、グッスリ熟睡出来るんですよ…さて、本日のミッションです」と日下氏が一枚の紙片を差し出した。
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「これは、一軍のリストです」「一軍?」「そうです。これらの本を本邸書庫に残し、もう必要としない本はすべて出して、その後さらに一軍の本をマンション書庫から本邸に移し、完全な一軍の探偵小説棚を作るのです!」と高らかに宣言した。おぉ、それは探偵小説マニアにとっては、究極の夢の書庫である!しかも日下氏の蔵書のレベルなら、恐ろしいことにそれが実現可能なのである!しかしこの“一軍”の一覧表…これに似たのを何処かで見たことがある気が……そうだ、ミステリ評論家・新保博久教授の書庫整理の時だ(2018/01/10参照)。教授も似たようなリストを作成し、貼り出していたっけ…などと魔窟から魔窟への連想を果たし、仕事部屋横の本邸書庫へと進む。作業に掛かる前に、通路が物品で塞がれていたので隠されてしまっていた、書庫最奥のコミックゾーンを見学。
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ここはあまりに入り込んでいないので、棚が九十年代でストップしいるのでありました…。作業は最奥通路の探偵&推理小説単行本ゾーンで行われる。日下氏が最奥に入り込み、不要本&一時避難本をガバガバ取り出し、それを通路途中の小野氏が中継し、玄関ゾーンに待機する私がそれを受け取り、和室に運び込んで本を仕分けして行くというカタチである。まぁ一度に運べる本は二十冊弱くらいで、その奥の通路だけでもおよそ三千冊の本があるのだから、およそ百回ほど地道に細かく繰り返せばどうにかなるのだろう。
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「朝山蜻一が奥に隠れてました」「ここ一帯九鬼紫郎だ」「飛鳥高がどっか行っちゃった」「水谷準これだけだっけ?」「三好徹は残す本です」「高木彬光がなんでこんなにあるんだ!」「香山でせっかく二段作ったのにずらさなきゃ」「島田一男の山を仕事部屋から持って来てください」「あそこに横溝の「探偵小説五十年」の裸本があったはずです」などの言葉が飛び交いながら、およそ三時間も作業すると、あっという間に和室には本の山が完成…それにまだまだ処分本が二百冊くらいしか出ていない。
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「う〜ん、本はもっと減らしたいんですよね。まぁ後でもっと出しますよ。でもおかげさまで棚はだいぶ形になってきました」と日下氏が言うので見に行くと、確かにそこには奥から素晴らしく濃厚な探偵小説世界が構築され始めていたのである。
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これはその一部の九鬼紫郎棚。これに匹敵するのは江戸川乱歩邸くらいであろうか…。

駅前に寿司昼食に出て、帰りにマンション倉庫に立ち寄る。「一軍の本を少し持ち帰ります。まぁ、ダンボール三箱程度でしょうか」と言うことで、極狭通路を進み、トレイ前に積み上がった空きダンボール数箱をリビング中央の空きスペースに重ね、出されて来た本を詰めて行く。本の選定は最初日下氏が行っていたのだが、途中から入り難いところに小野氏が勇猛に進むことになり、俄然次々と本を発掘して来てしまう。
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台所横で次々と一軍本を発見する小野氏とそれを受け取る日下氏の図。

「小栗です。これは可哀想だから持って行ってください」「日影も可哀想だから持って行ってください」「戸川も置いといたらダメでしょ」「楠田が出て来ちゃいました」「城は一緒にしとかないとマズいですよ」…これが延々続き、あっという間にダンボールは十箱を越えてしまった。終いには日下氏が「小野さん、そんなに向こうにまだ入らないよ!」と嬉しい悲鳴を上げ始める始末。予定時間も既に一時間オーバーしている。ようやくブレーキの壊れたダンプカーのような小野さんを宥め、マンション書庫を脱出。「小野さん、見つけ過ぎだよ。古本屋さん、コワいよ」「だってスゴい本がたくさんあるんだもん、止まんないよ」「小野さん掘り過ぎ!日下さん買い過ぎ!」というわけで本邸へと戻る。
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これはマンション書庫で見つけた酷い誤植本。さて、何処が間違っているのでしょうか?

ダンボールを玄関にドカドカ運び込み、日下氏は棚造りの続き、私は和室から入れ戻す本の選定&棚造り補助、小野氏は持ち帰ったダンボールを開梱し仕分けして棚造りに備えて行く。それからさらに三時間…ようやく最後に近い“鷲尾三郎”まで到達するが、実はまだまだ入れ戻しは残っている。だが遅いのでこの日はタイムリミットとなり、取りあえず残った本は通路に積み上げ逃がすことにして、次回の訪問まで日下氏が一人で地道に棚造りを進めることにする。それにしても、だいぶ目的の本へのアプローチがスムーズになり、書庫本来の機能を取り戻し始めたのは僥倖である。結果、処分本は計350冊ほど。そして一日の労働の労いとして、城昌幸の時代物四冊(これで日下藩の城道場に通うことになってしまった…)とカバーナシ扉ナシ目次ナシの「その鉄柵を残して/鷲尾三郎」「恐怖博物誌/日影丈吉」「暗色コメディ/連城三紀彦」を下賜される(当然すべてダブり本で、城に至ってはトリプり本であった…)。結束した本を盛林堂号に積み込み、疲れた身体を引き摺って、焼肉晩ご飯でエネルギー補給。環八で激しい渋滞に巻込まれながら、どうにか午後十一時には帰宅する。みなさんおつかれさまでした!
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posted by tokusan at 10:08| Comment(0) | 関東 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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