
午後二時過ぎに、日影以外はわりと麗らかな陽気の等々力に流れ着く。そう言えば、隣町の尾山台に確か新しい古本屋さんが出来ていたのでは…と、己のあやふやな記憶を頼りに、東急大井町線沿いに東に進む。すると尾山台に着いた途端、目の前に古本屋さんが出現した!駅踏切から『ハッピーロード尾山台』を南下し、最初の十字路の東南角ビル一階に、そのお店は出来ていた。だが、少し奇妙な感じである…あぁ、お店がと言うか、店内と言う概念が存在しないのか。つまり、ほぼ買取専門店の店頭に、壁棚とたくさんのプラ箱を展開し、古本を販売しているのである。袖看板と、ビルニ面の軒看板には、大きく『出張買取』の文字がマゼンダを基調に煌めいている。大通り側には壁棚があり、足の早い新しめの本を中心に、ルポ&ドキュメント・サブカル・自己啓発・ビジネス・趣味などが並んでいる。脇道側には、お店の前に一般文庫棚と時代劇文庫プラ箱、そしてビルの柱周りに、百均新書&文庫プラ箱・児童文学&絵本プラ箱・ムックプラ箱・東野圭吾プラ箱が二十近く展開している。新しめの本が中心で、値段は定価の半額〜1/3。文庫を一冊選び、買取店のドアを開けると、狭い空間で古本の入ったプラ箱に囲まれたオヤジさんが一人。「いらっしゃいませ」を合図に本を渡し、精算してもらう。すると「本が冷えてしまってるので、本が温まったら値札が簡単に剥がせますよ」とアドバイスされる。ありがとうございます。ちくま文庫「文豪文士が愛した映画たち/根本隆一郎編」を購入する。その後は、ここまで来たならと歩いて自由が丘まで出て、「西村文生堂書店」(2013/09/10参照)を覗き、洋書やアメコミが蔓延る中に、まだ和書が存在するのを確認して安心し、國際文献刊行會「世界奇書異聞類聚 第十巻 地上楽園/ヰリアム・モリス」を千円で購入する。これを買ったのは、「魔女の誕生」の解説で、都筑道夫が『ヒロイック・ファンタシイの最初の作者は、ウィリアム・モリスということになる』と書かれていたのに影響されて。鋲留めの函から本体を取り出すと、魚をモチーフしにした斬新な表紙デザインが現れた。次いで本扉を見ると、可愛い描き文字と帆船のイラストがあり、そには『Tom』の署名が…これは、大正十五年の村山知義の仕事だったのか。どおりで尖っているわけだ、と感心することしきり。
