『ウィークエンドパス』の上位パス『スリーデーパス』を入手して、一路北へ。航続距離が延び、北海道の尻尾まで行けるのは何とも有り難いことである。盛岡から抹茶ツートンカラーの、二両編成ディーゼルカー・山田線に乗り換える。快速には『リアス』と言う良い名がつけられている。東の太平洋に向かって、最初は住宅の間を雪を舞い上げ汽笛を『プィ〜』と鳴らし走り始める。車内は三連休の初日なので、少し混雑しているらしい。およそ十分で都市部の辺縁を離れたら、後は徹底的に雪で真っ白な山間を走り続けて行く。駅間は長く、幾つもの暗く短いトンネルを潜り抜ける。しかし、海に近付くにつれ、雪は意外なほど少なくなって行くのだ。およそ二時間後に、宮古駅に着く。有人改札を通って小さな駅舎から出ると、新しく整備された駅前が山をバックに広がっている。吹き荒ぶ針のような冷風を身に受けて、北に向かって歩き始める。すぐの交差点際にある銀行の敷地内には、真新しい『津波到達地』の碑が建てられていた…宮古港に注ぎ込む閉伊川沿いに長々と続く防波堤を越え、およそ一キロを黒い海水が蹂躙した記憶である。自然の猛威に強烈な畏怖を覚え、今は寒さに身を震わせながら北へと歩き続ける。500mも進めば、右手に今日は閉まっている『宮古市魚菜市場』が見え、道は急激に西に折れ曲がる。道なりにそのまま西へ進んで行けば、右手に去年新しく開店した古本屋さんが現れる。ちなみに色々調べてみたのだが、宮古に古本屋さんがあったと言う記録は、どうしても見つけることが出来なかった。岩手県は元々古本屋さんが少なく、昔から盛岡に集中していたそうである。なのでもしかしたらこのお店が、宮古初の古本屋さんなのかもしれないのだ(過去に宮古の古本屋さんをご存知の方は、ぜひ情報をお寄せ下さい)。が、しかし!ここは残念なことにコミックの専門店なのである。古本修羅としては物足りないこと必至だが、それでもこの地に、大震災被災後に出来た古本屋さん!この目でしっかりと確かめるのが、私に課せられた役目なのである(あくまでも自主的に)!中に入って出迎えてくれたのは、武骨な石油ストーブの暖かさ。うむ、本当にコミックばかりだ。店内は広く縦長で、左側手前に帳場兼作業場とコミック揃いの山。壁際は本棚で、右壁の前後にはガチャガチャ群が置かれている。真ん中に背の低い背中合わせの本棚が二本連なっている。右を見ても左を見てもコミック…。尚帳場横には大きなテーブル席があり、訪れた人の交流スペースとなっている。マンガマンガと奥へ進むと、最奥には暖簾で隠されたアダルトスペースもしっかりと作られていた。さて、果たして何か買えるのか?と踵を返すと、目に入ったのは棚脇の小さなスチール棚!おぉぉ!これは何と、100均文庫棚ではないかっ!コミック専門店なのに、古本を置いてくれてありがとう!と二重に並んだ三段を物色する。ミステリ系文庫が中心で、教養文庫「鎌倉・三浦半島の旅/渋江二郎編著」ハヤカワ文庫「宇宙の戦士/ロバート・A・ハインライン」をどうにか購入する。
この後は、ブラブラと街を散策し、次第に東の河口付近まで足を延ばす。進めば進むほど、街路が新しくなって行くのが空恐ろしい。新しい信号・更地・工事中の建物・放置された廃墟…様々な異なる時間の流れを、この街は内包してしまっている。しかし荒涼とした感じは漂うが、街は少しずつその傷を治しつつあるのだろう。防波堤の向こうの漁船に止まった、たくさんのカラス、それに道路とほぼ同じ高さの水面を見ていたらとても寂しくなり、駅方面にトボトボと引き返す。その駅前に、三角形の小さな街の本屋さんが、風情をたたえてちょこんと建っていた…。
●おまけ「増坂書店」
建物の形通り中も小さな三角形で、どうも雑誌・コミック・時代劇文庫以外は、妙に古臭い80年代前後の本が多い。フムフムと楽しく眺めていると、児童文学のコーナーで、偕成社「鉄仮面/原作・大デューマ 高木彬光」を見つけたので、喜んで購入することに!すると三角形の鋭角に潜んでいたおばあさんは、古い本で申し訳ないと180円を値引きしてくれた。ありがとうございます!
こんなわけで、どうにか街の人々の営みの一端に触れ、ようやくひとつのツアーの形になった気が…よし、後はまた長時間の電車移動で、家へと帰るだけだ。初の宮古に感謝を捧げつつ、しばらくは駅の待合室で、電車が来るのを待ち続ける…。


●宮城・角田「スリーブック」
店内を覗き込むと、しっかりと古本の並ぶ棚が確認出来るが、床には本がボトボト落ちていて荒れた状態。良く見ると扉は角材で封鎖されていた。もしや左の小屋に誰かいるのでは、と開いた戸から覗き込む…うわっ、ただ開けっ放しなだけだ。大量の漫画雑誌と文学全集が詰め込まれた小部屋…は〜ぁ、と大きなため息をついて後ろを振り返る。うわっ!信号待ちの車の中の顔が、みんなこっちを向いちゃってる!こ、これはイカン。完全なる不審者と見做されているようだ。あくまでも何気ない風を装い、口笛まで吹きながら、本をたっぷり備蓄したままの半廃墟古本屋さんを後にする。営業している時に訪れたかった…買取が復活したら、店売り復活もよろしくお願いします!
●福島・福島「大槻本店」