盛林堂・イレギュラーズ・エキストラver.の使命を全うすべく、午前八時過ぎの中央線に乗り込み、「神保町さくらみちフェスティバル 春の古本まつり」の開かれる神保町へと向かう。車内読書は小林信彦「虚栄の市」(これ、小林信彦レア角川文庫の中で一番面白い作品ではないか。プレ「夢の砦」と言ったところの、雑誌&テレビ業界露悪的暴露小説である)。午前九時前に盛林堂ワゴンのある『書泉グランデ』前に到着すると、すでに何人かの古本修羅が、鋭い目をして準備中のワゴン腕組みして凝視している…お、恐ろしい気迫…。ワゴンは全部で三台で、右が200均文庫&新書サイズ本、中央が300&500円文庫(木箱棚にレア文庫アリ)、左端が300・500・800円新書サイズ本(木箱棚にレア本アリ)の布陣である。店主・小野氏と奥さまが、配分を気に掛けながら本を並べて行くのを、結束本を運んだり、ゴミを片付けたり、アテに使っていた本をまとめたりと、静かにフォローする。そんな雑事をこなしていると、やがて開始時刻の午前十時が間近となり、古本殺気を放ちながらワゴンに迫る古本修羅の数は、二十名ほどに膨れ上がっていた。仮設番台に立つ小野氏が、ワゴンと木箱棚を押さえていてね、と指令を飛ばす。その瞬間午前十時になったので「それではスタートします。慌てずに押し合わずにお願いします」と声を出すと、四十本余りの手が、グワワッとワゴンと木箱棚に向かって伸びて来た…うぉぉぉぉ、まるで映画『ゾンビ』の、エレベーターが開いた瞬間のような光景…。押さえていても動くワゴン…恐るべきパワーである。

そして、暗算地獄がスタートした。小野氏と交代で番台に立ち、十冊二十冊と持ち込まれる本を、値札を千切りながらひたすら暗算の繰り返し…くぅぅ、足し算だけとは言え、たちまち頭がショートしそうだ。そしてついには四十冊〜五十冊持ち込む猛者が現れるので、私は番台の後にそれらの本を積み上げ、ただひたすら値札を千切り読み取り、暗算を繰り返して行く…暗算結果が三万とか四万とかになる、常識を遥か飛び越えた買い方には、ただ舌をくるんと巻くしかなかった…。そして、ここのワゴンは、スゴい本たちを安い値段で売っている!欲しい読みたい買いたい本がたくさんある!それらが、羽が生えたように売れまくって行く!…嗚呼、欲しい本が買えずに、人手に渡って行くのを、指をくわえて見ているしかない、この悔しさよ……これは古本好きにとって、ある意味生き地獄…そして暗算地獄…どっちにしろ地獄なのか……。そんな地獄を潜り抜けながら、怪しい空模様を気にしつつ、いつの間にか午後一時となり、昼食休憩を取る。そしてお腹を満たした帰り道に、一瞬「小宮山書店ガレージセール」【2013/07/12参照)に立ち寄ると、古本の神様が己の地獄巡りを哀れに思ったのか、嬉しい掘出し物を授けてくれた。創元社「雪國/川端康成」(函ナシ。二十五刷)偕成社 幼年どうわ12「怪じゅうが町へやってきた/ストックトン作 久保田輝男訳」世界偉人伝37「北里柴三郎/林髞」を計500円で購入する。「雪國」と「怪じゅうが町へやってきた」が嬉しい。「怪じゅうが町にやってきた」は伝説の怪獣“グリフィン”が町に来襲し、交渉役のおぼうさんに懐いて色々お世話をし始める不思議なお話。全編にわたり、モーリス・センダックの挿絵が輝いているのが、また嬉しい。

などとささやかな収穫を抱えてワゴンに戻り、またもや暗算地獄にズブズブ嵌る。開始から五時間経った午後三時、何とか保ってくれていた天気がいよいよ崩れ、雨が本格的に落ち始めた。こうなったら、紙で出来ている本は水に弱いのは明白なので、すぐさまガードしなければならなくなる。と言うわけで、ブルーシートを二重三重に掛け、それを丈夫なゴム紐で急速に緊縛して行く。

その間にも雨は強くなって行き、たちまち土砂降りになってしまった…これにて、本日の古本まつりは終了となる。途中で終了するのは切ないが、まぁここまで良く保ってくれたものである。さて、初日からこんな調子なので、明日はどんなことになるのやら。取りあえずは今のところ午後には雨が上がる予報なので、午後イチぐらいから現地で待機して、雨が上がり次第シートを外し、古本販売を始める予定である。ひとまず本日はおつかれさまでした。
PS. そう言えばワゴンを訪れたイラストレーターのYOUCHANさんに、「疾走!日本尖端文學撰集」を褒めていただき、天にも昇る気持ちとなる。また古本神のひとりであるエロ漫画編集者・塩山芳明氏がブログ『塩山芳明の漫画屋BLOG』で同書の感想を書いていただいている。氏の収録作ベスト3は、福井一・石濱金作・窪川いね子とのこと。渋い!と嬉しく感心しつつ、窪川いね子に対する真っ当な評価に涙してしまう。
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posted by tokusan at 20:30|
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