2018年06月06日

6/6怪談じゃない!

シトシト雨の中、午後に東恋ケ窪に流れ着く。よし、では今日こそはと、西武国分寺線で一駅北に進んで、四年ぶりの「古本ゆめや」(2009/06/26参照)を訪れる。店先では、店主が椅子に深く腰掛けながら、向かい合ってこれまた椅子に座っているうら若き女性と、バリトンボイスを響かせながら歓談中である。一瞬お店に入るのを躊躇してしまうが、店主&女性ともに「どうぞどうぞ、いらっしゃいませ」と迎え入れてくれる体勢。座る二人の間を通って店内に進み、古本棚と向かい合う。創元推理文庫「スーパーゲームアドベンチャー バック・トゥ・ザ・フューチャー/安田均・TTG」角川文庫「エレファントマン/マイカル・ハウエル ピーター・フォード」を計920円で購入する。
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古本を買って家に帰れば、ヤフオクで落札した古本が、封筒の中から出されるのを待ってくれていた。ライバル少しありの3100円で落札した、大川屋書店「怪談百物語 船幽靈/高山怨縁編」である。大正六年刊で、表題作以外に『死人喰ひ』『清が淵』を収録。縦148mm×横88mmのポケットサイズ。巻末の広告を見ると、他に「化物長屋」「麻布七不思議」「鍋島の化猫」「本所七不思議」「不思議の白虎」「幽靈の手引」などがラインナップされている。広告上部には『ポケット形怪談百物語 全百冊』とあるが、本当に百冊も出したのだろうか…。
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写真は上が素晴らしいカバー絵と、これまた素晴らしい1色の表紙絵である。下は見返しのこれまた素晴らしい口絵。すべて『船幽靈』からのワンシーンである。とここで、絵に違和感を覚えたので、すぐに本編を読み始めることにする。…どうやらいわゆる『船幽靈』の怪談とは違い、オリジナルあるいはアレンジ作らしいな…。早々に九十四ページの中編を読み終えると、思わず口元が盛大に綻んでしまう。ぜんっぜん怪談じゃない!むしろSF作品じゃないか!海に現れる巨大な幽靈に端を発し、取りあえず怪談らしく物語は進んで行くのだが、途中、帆船+蒸気船の怪船が出現する頃から、話は怪しくなって行く。船から続々姿を現す幽靈軍団と、その高さ二丈に及ぶ巨大幽靈(大体六〜七メートルであろうか。表紙の絵はこの幽靈である)!その幽靈出現の元、謎のオーバーテクノロジー『幻靈機』!そして臺湾征服の野望!…もうメチャクチャ過ぎて、やはり落として良かったと思える逸品なのであった。こうなると他の巻も俄然読みたくなって来る。取りあえずは「幽靈の手引」辺りが、怪しい怪しい…。
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2018年06月01日

6/1村山知義の「構成派研究」!?

昨日は午後イチの国分寺に流れ着いたので、駅北側に出て古本屋間を彷徨い歩く。だが、「雲波」(2017/02/03参照)は定休日で、「超山田堂」(2009/11/06参照)は『5/30お休み』の札を下げたまま開いていない。結局頼れる「七七舎」(2016/02/06参照)に縋り付き、河出文庫 本格ミステリコレクション2「岡田鯱彦名作選/日下三蔵編」を600円で購入して、スゴスゴ阿佐ヶ谷へ戻る。駅北口の「千章堂書店」(2009/12/29参照)で彩図社「定本 消されたマンガ/赤田祐一+ばるぼら」を200円で購入して帰宅。

明けて本日は午前十時に早々と高円寺に向かい、「西部古書会館」の「BOOK&A」二日目を覗く。民俗学系の本が多く、「アカシヤ書店」(2008/12/17参照)の古書群と「才谷屋書店」(2012/05/07参照)の安値本が好ましい。じっくり見て三冊を選ぶ…だがその中の一冊は、ある意味本とは言えない代物であるが…。学習研究社 昭和35年「六年の学習」正月第一付録「人物で見る科学のあゆみ五千年」新人社「幻想物語/ホフマン」中央美術社「構成派の研究/村山知義」を計615円で購入する。さて、とてもスゴい本が上記三冊の中にしれっと混ざっているのだが、これは残念ながら、完全な本の状態ではない。200円だった大正十五年出版の村山知義「構成派の研究」は、表紙と32ページのモノクロアート紙口絵のみの、半端者なのである。だがそれでも、この村山が手掛けた表紙(恐竜の絵とレタリング文字が素晴らしい)と32枚の構成派の作品が見られるのは、とても素晴らしいことである。普通、本はこのような状態になってしまったら、破棄されるのが当然である。もちろん片割れの本文部分があれば修理すれば良いのだが、これは何処かで離ればなれになってしまったか、はたまたこの口絵部分だけを切り取り、資料として保存していたものと思われる。だからこれを捨てずに、売りに出してくれていた「がらんどう」さん(2011/02/25参照)には、大いに感謝を捧げたい(この表紙だけが紙物として安値で出されていたら、それでも恐らく買っていただろう)。本物の表紙!当時最先端の構成派作品の数々!チャペック『ロボット』の舞台装置!MAVOの展門塔&移動切符賣場!村山の活動寫眞館緞帳!…伝説の作品たちが、当時の紙面から眼前に飛び出して来るこの幸せ!すべての古本がそうではないが、場合によっては完品でなくとも、充分楽しめるケースが存在するのである。例えるならば、窯跡を掘り起こし発見される、名陶の欠片を慈しむのに、ちょっと似ているのではないだろうか。まぁそうは言っても、いつの日か完品を手に入れるか、奇跡のように古本市で片割れの本文を見つけるかして、通読したい気持ちは当然持っているのだが…。そんなことを考えながら帰り道をたどっていると、『ド根性ガエル』のピョン吉Tシャツを堂々と着た女性と擦れ違う。とても青い空の下の、午前十一時の『早稲田通り』と私の心中に、ビュウッと爽やかな風が吹き抜けて行く。
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2018年05月29日

5/29ボーナスは幽靈!

いつも大量の古本を運ぶバイト“盛林堂イレギュラーズ”としての声がかかったので、午前十時半に西荻窪「盛林堂書房」(2012/01/06参照)に到着する。やがてお店のシャッターが上がり、開店準備の店頭棚&台の素早い設置を感心して眺めながら、店主・小野氏の登場を待つ。程なくして店前に停まった車は、いつもの自家用車・盛林堂号ではなく、レンタカーのワンボックスカーであった。つまり今日はそれほどの量の古本を運ばねばならないのである。一時間後には神奈川県某所にたどり着き、大量のペーパーバックや洋書を大きな台車に満載し、計八回を高層階からエレベーターで地上に下ろして、車に積み込みまくる。
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筋肉を酷使し、汗を流し、高い車内温度と格闘していると、あっという間に五時間余が経過してしまった。スライドドアを開ければ、そこには独特な美しさを見せるペーパーバックの地層が誕生していた…。
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その後は神保町に向かい、「東京古書会館」一階の荷捌き所で、運んで来たばかりの本をほとんど下ろし、新たに150本ほどの本束を積み込む。一時間ほどの間に、小野氏は出会う古本屋さんたちと挨拶がてら言葉を交わして行く。なるほど、ここでの何気ないやり取りが、実は大事な情報交換となっているのだなと、門外漢ながらプロフェッショナルの仕事を盗み見た思い。その間に私も、「日本書房」(2011/08/24参照)のユキオ氏に「そういう風に手伝ってたくさんの本を見ていれば、良い本が見つかる目になりますよ」と声をかけられたり(いつもいつも恥ずかしながら、店頭台のみでお世話になっております!)、「三楽書房」(2012/07/19参照)アキヒロ氏に「そんなに本を運んでいると、本が嫌いになっちゃうんじゃないですか?ウヒャヒャヒャヒャ」と茶化されたり、時々お世話になっている古書組合広報部の方と挨拶を交わしたりする。搭載古本入れ替えの所要時間は一時間を要し、渋滞気味の夕暮れの東京をノロノロ進んだ後、西荻窪へ午後七時に帰還する。だがイレギュラーズとしての仕事はまだ終わらない!運んで来た本を、お店裏手の倉庫に搬入しなければならぬのだ。イレギュラーズ・小野氏・小野氏の奥さん&お母さんの四人が力を合わせ、バケツリレーならぬ結束本リレーで素早く本を移動させて行く。近頃は組合の経営委員としても活躍していた奥さんが、単行本束を、四本・五本と抱え上げるのに舌を巻く。そしてようやく午後七時半にすべてを終えた時には、当然の如くクタクタになっていた…だが、なんて心地良い疲労なんだ。そんな風なくたびれ具合を見兼ねたのか、特別ボーナスとして、二冊の古本をいただく恩恵に与る。一冊はカバーのない東光出版社「恐怖探偵 幽靈鐡仮面/横溝正史」(カラーコピーのカバー付きだったので、後でボンドで接着)、もう一冊はSidgwick&Jackson「GHOSTS The Illustration History/Peter Haining」(洋書の幽霊写真集。コナン・ドイルが妖精と共に写っている写真や、ドイル自身が心霊として写り込んでいる写真が掲載されている!もしや、かの有名な北原案件なのか?)である。溜まった疲れを多少吹き飛ばしながら、筋肉の軋みを実感して帰宅する。
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ふと気付けば、両方共“幽霊”に関わる本であった…。
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2018年05月28日

5/28世界探偵傑作叢書

今日は基本的に家に閉じこもって仕事と原稿書き。だが午前十一時に一度だけ抜け出し、「ささま書店」(2008/08/23参照)店頭棚を探りに行く。やけにヤクザ任侠関連の本が出されているなぁ…と思いつつ、その中から異色の一冊を見つける。いや、これもヤクザ関連ではあるのだが、出しているのは、いかがわしい本を数多く手掛けた出版社・第二書房。三島剛の表紙イラストが強烈な「男の紋章/大門武」である。鈴木清順監督の映画に同名作品があるが関連はなく、こちらは目次ページに『長編ホモ・ロマン』とある、新宿を根城にする命知らずの十三人の舎弟を従えた親分(四十歳童貞アパート住まい。女嫌い。超強い。舎弟全員と絆を強くするための肉体関係アリ)の、独り語りである(ですます調で、物凄く丁寧に色も暴力も平等に語るので、奇妙なおかし味がある)。…まさかこんな本を「ささま」店頭で見つけてしまうとは…世の中には、本当に色んな本が出されているのだな…。まぁ読む読まないは別として、このような珍書が100円ならば、迷わず手に入れておくべきである。淡交新社「木喰の境涯 微笑佛/五来重」とともに計216円で購入する。

夕方、ポストにヤフオク落札品が届く。河野成光館 世界探偵傑作叢書6「英海峡の怪奇/F・W・クロフツ作 甲賀三郎譯」である。送料含め1180円で落札。元々黒白書房から出ていた全十八巻を、昭和十三年に成光館が表紙や本文レイアウトもそのままに再版したうちの一冊である。この二種類のシリーズは、持っただけで簡単に違いが分かる。黒白版は表紙も本文もベストな硬さで手に良く馴染むが、成光館版は紙が薄く柔らか過ぎて本が簡単に丸まってしまうほどヘニャヘニャしているのだ。黒白版の方が圧倒的に良いのは、言わずもがなである。だが例え再版であっても、山下謙一の装幀の良さが決して揺らいでいないのは、とにかく嬉しい。シリーズなのに各巻バラバラの装幀で、独特なイラストや文字の入れ方は、現代でも充分通用する素晴らしさである。いつか全巻を手に入れて、ズラッと並べてみたいものだ。だが、まだたったの四冊か。しかも安く集めようとすると、その道のりはより長くなってしまうのである。湘南探偵倶楽部の復刻版も素晴らしいのだが、やはり本物が良い。さらに黒白書房版で集めようとすると、さらにさらに……。
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2018年05月24日

5/24くものすおやぶん!

ちょっと仕事の中休みに外へ抜け出し、中野へ向かう。途中、ビルが塗装養生中の「古書コンコ堂」(2011/06/20参照)に立ち寄り、店頭箱から地味に探していた福音館書店こどものとも533号「くものすおやぶんとりものちょう/秋山あゆ子」を見つけ出し、喜ぶ。ハードカバー版は持っているのだが、元本は未入手だったのだ。十手持ちのおにぐもの“あみぞう”と、子分のはえとり“ぴょんきち”が、謎の怪盗“かくればね”から蔵のお菓子を守る、興奮必至のお話(実際知り合いの子供にこの絵本をプレゼントしたら、景色の中に巧妙に隠れる“かくればね”の姿に「ふぉ〜〜〜っ!」と興奮し過ぎてしまい、嘔吐してしまったことがあった…)。楽しい虫漫画の第一人者による子供用絵本だが、ちゃんと捕物帖としても秀逸に成立しているのである。2003年に「くものすおやぶん とりものちょう」2007年に「くものすおやぶん ほとけのさばき」が出版されている。ちなみに福音館書店の絵本には必ず題名の英訳が付いているのだが、「くものすおやぶん とりものちょう」は「THE SPIDER POLICE STORY」となっている。結束本がそこかしこに積み上がる、ちょっといつもの「コンコ堂」らしくない店内で、同じ福音館書店「ぴかくんめをまわす /松居直さく・長新太え」と一緒に計206円で購入する。
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「とりものちょう」と「ほとけのさばき」元本。三作目をいつかは出して欲しいのだが。「くものすおやぶん くわがたとうのさくりゃく」とか「くものすおやぶん みっしつのみのむし」とか…。

中野では『ブロードウェイ』に直行し、二階のギャラリーで『マカロニほうれん荘展』を見学する。かつて秋田書店「週刊少年チャンピオン」で連載されていた鴨川つばめのギャグ漫画『マカロニほうれん荘』の初の原画展である。入場無料なのだが、先週の土日は整理券が配られるほどの大混雑だったらしい。今日も平日木曜なのに、小さな会場には若者がたくさん詰めかけている…へぇ、今の人にも『マカロニほうれん荘』は読み継がれてるんだ…。右壁には主に扉絵やカットが飾られ、左壁には漫画原稿が飾られている。ビッシリと懐かしい絵が壁を埋め尽くしているので、とても見応えがある。キンドーさん!トシちゃん!そうじくん!それにしても、線が太くて、何て絵が綺麗なんだ!小学生当時、団地の商店街にあった本屋さんに、毎週金曜日に楽しみに立ち読みに行ったのを、今でもありありと思い出すことが出来る。同時期に集英社「週刊少年ジャンプ」で連載していた江口寿史の野球(一応)ギャグ漫画『すすめ!!パイレーツ』があり、まるで『マカロニほうれん荘』と双子のような作品で、どちらも映画ネタ・音楽ネタ・サブカルネタ・特撮ネタ・お色気ネタ・可愛い女の子をスマートに取り入れ、センスの良いギャグを競い合うように毎週炸裂させていた。思えば、そんなエポックメイキングな二作をリアルタイムで味わっていたとは、幸せな子供時代であったなぁ…などと大いに懐かしむ。原画以外にも、連載当時の関連商品や、アパート『ほうれん荘』のモデルとなったアパートの写真群、クレヨンで描かれた最近の直筆色紙、会場内で流れるBGMの直筆リストなども飾られている。登場人物の一人、クマ先生の『ノォ〜〜〜ッ!』は今でも充分面白いことを認識し、賑わう会場を後にする。そのままブロードウェイから北に抜け出て「古本案内処」(2015/08/23参照)へ。フロア奥の照明が白熱電球に代わり、ちょっとだけシックな雰囲気になっている。新潮文庫「3人がいっぱい1/和田誠」ちくま文庫「YASUJI東京/杉浦日向子」扶桑社文庫「初稿・刺青殺人事件/高木彬光」を計756円で購入し、『早稲田通り』をテクテク歩いて帰宅する。
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2018年05月23日

5/23探偵文藝叢書第3巻

古本と古本屋さんには大敵である雨が降り出す前にと、神保町へパトロールに出かける。すっかり2・3番線線路の上が鉄骨で覆われてしまった、薄暗い御茶ノ水駅から飛び出し、『明大前通り』の坂を下って午前十時半の神保町に入る。「慶文堂書店」(2012/01/14参照)では、傘を差してしゃがみ込み電話中のご婦人が探る店頭箱に横合いから手を出して、講談社文芸文庫「金沢|酒宴/吉田健一」を200円で購入する。珍しく店頭に人影の皆無な「田村書店」(2010/12/21参照)では龍星閣「我が詩篇/川上澄生」を600円で購入する(夫婦函の中には、龍星閣の小冊子「げらずりぐさ 復刊第3号」が混入していた…)。足を早めながら「アムール」(2011/08/12参照)で東京創元社「創元推理文庫解説目録1978・5」カッパ・ノベルス「地獄の辰・無残捕物控/笹沢佐保」を計200円で買ったところで、ついに雨がポツポツ落ちて来たので、さらに足を早めて水道橋駅から電車に乗り込む。帰りにある展覧会を見ようと思っていたのだが、水曜が定休日なのを知り早々に帰宅する。

そして夕方、嬉しいヤフオク落札古本が、家のポストに滑り込む。大正十二年刊の東京小西書店探偵文藝叢書3「怪教の秘密/ウヰリヤム・ル・キユー」である。裸本で経年のイタミがあり、3111円であった。まったく未知の叢書であるが、調べてみると全五冊が刊行されており、1「赤い線/サックス・ローマー」2「恐怖の仮面/アーサー・リーヴ」4「戦慄の都/フレッチャー」5「空中よりの声/ウヰリヤム・ル・キユー」という布陣らしい。ル・キューはイギリスの作家で、スパイ小説創始者の一人と目されている。ちょっと先走って「怪教の秘密」を読み始めてみると、倫敦に極秘潜入した死んだはずの怪僧ラスプーチンが、出自に暗い秘密を持つ牧師に邪秘教の秘技を授け、その牧師が早速高笑いしながら、倫敦を支配しようとし始めている!…むぅ、何だかヒドい感じで面白そうだ。それにしても明治大正の翻訳&翻案探偵小説群は、現在では再版の機会に恵まれることは少ないので(名作以外は、その古臭さ故…ということであろうか)、読むためには百年前の古本か、奇特な復刻同人誌にでも当たるしか無いのが現状である。だが、おいそれと読めないからこそ、闘志が湧いて読みたくなり、古臭いからこそ百年前の息吹を吸い込みながら読みたくなってしまうのである。もはや読まなくとも良いが故に消え去った、だからこそ読むべき探偵小説を探し求めて、今日も血走った眼が、古本屋さんの店頭とネットの海を彷徨うのである…。
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2018年05月17日

5/17『まち歩きマップ』と私的児童探偵小説考察。

あまりの蒸し暑さに閉口しながら、夕方前の上連雀に流れ着くが、住宅街の小さな草原公園『水源の森』にポツンと停められた移動図書館『ひまわり号』を偶然目撃し、緑の草と児童本が多く並ぶ本棚の、不思議なコントラストが引き金になり、心の中にだけ涼風が吹き渡って行く…。そのまま良い気分で三鷹駅にたどり着き、北口側に出て「水中書店」(2014/01/18参照)にかぶりつく。ちくま文庫「聴雨・螢 織田作之助短篇集」リトルモア「ぼくは漁師になった/千松信也」彩図社「売春島「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ/高木瑞穂」を計千円で購入する。そして帳場に置かれた「水中書店」オリジナルフリーペーパーに気付いたので、レジのお姉さんに声を掛けいただくことにする。青いインクで刷られた『水中書店から出かける三鷹まち歩きマップ』。全四ページが、イラストと言うか漫画で構成され、素敵にキャラクター化した店主の今野氏が、お気に入りのお店を訪れ紹介する形を採っている。クオリティが恐ろしく高いので、瞬時に脱帽する。まったく今時の古本屋さんは、何と言う物を作り、配布しているのか!とニヤニヤして家に帰る。
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さて、先日裸本故安値で購入出来たポプラ社のジュニア探偵小説「恐怖の口笛/海野十三」だが、熱で学校を休んだ子供のように速攻で読了してしまう。その題名と、謎の口笛とともに何かで首を絞められ、血を吸われて殺された金持ち夫人から始まる物語に、『もしやこれはコナン・ドイルの『まだらの紐』のいただきか?』などと浅薄に思いついてしまうが、事実はそうではなく、名探偵・帆村荘六×怪盗・あざがに仙斎(顔に蟹の痣があるから“あざがに”…)×恐怖の吸血鬼×覆面探偵・青竜の四つ巴の知能戦&生死を賭けた宝物争奪バトルであった。たった独りのあざがに仙斎が、オランダで特注した素晴らしい軽機関銃で警官隊と激しい銃撃戦を行い敗色濃厚にしたり、帆村荘六が様々な事情からミュージカルの舞台でスポットライトを浴びてタップを踏んだり、途中一度だけ“あざがにが“ざりがに”になっていたり(間違える気持ちは分かる、編集さん。でも、『ざりがに』にしちゃぁ、ダメでしょう!)、筆が滑ったのか物語の途中で覆面探偵の正体がさらっと書かれていたりして、とにかく突っ込みどころ満載なのだが、やはり買って良かったと満足して読了したのである。それにしても私は何故、これらの昭和初期〜昭和三十年代にかけての、児童用探偵小説に魅了されているのだろうか。ひとつは子供時代に、バカの一つ覚えみたいに、江戸川乱歩の『少年探偵シリーズ』と偕成社版『名探偵ホームズシリーズ』しか読んでいなかったことであろう(しかも繰り返して)。大人になって知った、他の著名な探偵小説作家にも(横溝正史・高木彬光・大下宇陀兒・甲賀三郎・島田一男・西條八十などなど)にも同様の児童向け作品があることを知った時の衝撃!子供時代に読むべきだった、さらなる名探偵と名悪党の知られざる世界!その、失われた時と物語を渇望して(今では読むことのできないクレージーな作品も多く潜んでいる)、五十を越えた今になっても、ジワジワと児童用の本を追いかけざるを得ないのである。そしてさらなる理由を挙げるなら、物語の舞台となる都市、特に親しい東京のかつての姿を垣間見たいためとも言えよう。都市と言う、無数の建物と無関係の人間が犇めき、欲望と負の心が渦巻く場が生まれたことにより、スリリングに成立するようになった探偵小説。際限ない発展や再興を続ける都市の中で煌めく、名探偵対悪党の華麗なる活躍。そこには見たことのない、思いもよらぬ東京が、まだまだ隠されている気がしてならないのだ。この「恐怖の口笛」でも、銀座・京橋・青山・玉川などが生き生きと登場している。あぁ、願わくば、この本の中の東京に、いつかはたどり着きたい…そんな風に夢想しながら、脳内の憧れの都市像を強固なものにするために、これからも児童探偵小説を、懐を気にしながら買い込んで行くことであろう。子供の時にしか味わえぬ感覚は確実に存在し、それはすでに失われているのだが、年齢を重ねた今だからこそ読み取れるものも、確実に存在しているはずなのである。
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おぉ、あざがに仙斎がアドバルーンで、東京・銀座の空高く逃げ出して行く…。
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2018年05月16日

5/16「女食人族」と「疑問の三」!

五月はもはや夏なのか?と激しく疑問に思いながら、照り付ける夏の日射し浴びて、午前十一時半の「ささま書店」詣でへ。散歩中の幼児の集団が、店前に停まっていた、ルートトラックのコンテナに描かれた大阪府古書籍商業協同組合のゆるキャラ『メ〜探偵コショタン』を見て「メェ〜!」と叫ぶのを耳にしながら、河出新書「片棒かつぎ/井伏鱒二」虎書房「恐るべき広告/永田久光」(カバーナシ)昭森社「美學奥義 小村定吉詩集」新潮文庫「聖ヨハネ病院にて/上林暁」講談社「殊能将之未発表短篇小説集」を計1080円で購入する。

家にテクテク帰り着くと、一通の奇妙なタレコミメールが届いていた。ついこの間もタレ込んでいただいた、古ツア単行本編集者さんからのもので、本棚探偵・喜国雅彦氏が「ひとたな書房」に本日昼間に補充する旨が書かれていた。元々はtwitter情報で、どうやらtwitterをやっていない私に配慮して、わざわざタレ込んでくれたらしい。確かに「ひとたな書房」に目がなく、心酔し切っている身としては、ありがたい情報である。元々今日は補充に赴くはずだったのだ。欲しい本が見つかれば、迷わず力強く買ってやろうと、昼食を摂ってから銀行強盗事件発生で大騒ぎの西荻窪へ向かう。件の銀行脇の道は、すでに規制線が解除されていたが、マスコミのカメラがまだべったりと張り付いている。肩に掛けた大量の古本が入ったバッグを不審に思われ、職務質問でもされやしないかと、いらぬ愚かな心配をしながら「盛林堂書房」(2012/01/06参照)に到着する。「フォニャルフ」をドバドバ補充入替しながら、チラチラと斜め右上の本棚探偵の「ひとたな書房」に視線を走らせる。あぁ!香山滋があるじゃないか!異常に茶色い本が蔓延ってしまった補充をサッサと済ませ、黒く安っぽい折り返し付きペーパーバック、東西文明社 傑作怪奇探偵小説選集「女食人族/香山滋」を、陶然としながら取り出す。C級感が溢れまくるのを止めようともしない『女食人族』『爬虫邸奇譚』『蜥蜴夫人』の三編を収録している。いつものように、後見返しの札に赤いダーマトで書かれた値段を見ると、六〇〇〇円…ぬはぁ〜、買います買いますもちろん買いますよ!と帳場に持ち込む。あぁ嬉しい。
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これでいったい何冊目の「ひとたな書房」からの購入本だろうか…。

良い古本を買って落ち着きを取り戻した後は、店主の小野氏と懲りずに古本四方山話。すると、入荷仕立てホヤホヤのダンボール箱を持ち出して来て、自由に中を見せてくれるではないか。ある探偵小説作家の、み、見たことのない翻訳本や時代小説が出てくるわ出てくるわ。取り戻したばかりの落ち着きを速攻でなくしながら、古本を手にして感嘆のため息をつきまくる。すると、新潮社 新作探偵小説全集「疑問の三/橋本五郎」昭和七年初版の函ナシ本も出て来たので、ありがたいことに千円で譲っていただく。だが本を渡す段になって、小野氏が「ちょっと待って。間にまさか附録挟まってないよね。「探偵クラブ」」と慌ててページをパララと捲る。幸か不幸か、挟まっていませんでした…まぁ何はともあれ、これで「疑問の三」が読めるんだ!と大いに喜び、ついでにエニグマティカ叢書「ルヴェル新発見傑作集 仮面」も購入し、すっかり散在してしまったことに気付かないフリをして家へと戻る。
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2018年05月14日

5/14イレギュラーズとしておでこを強打する。

本日は午前の早い時間から、“盛林堂イレギュラーズ”としての活動を開始し、盛林堂・小野氏とともに、暑過ぎる陽射しにブーたれながら、都内某所の研究所に買取に赴く。主に重く大きな学術系箱入り本の整理に従事。仕事場所として与えられたのは薄暗い台所で、薄暗闇と埃に塗れながら、午前と午後の四時間を労働に費やす。途中重い本を両腕に抱えながら、換気扇のフードにおでこを痛打し、『ぐわっ!』と怪獣のような叫び声を上げ、目の前に星を散らしてしまう…。だが作業は順調に進み、取りあえず午後三時には、一部まとめた本を西荻窪に運び込み、イレギュラーズとしての活動を早々と終える。
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※月曜定休日の静かなる盛林堂店内。帳場周りには新たに入荷したレア明治&大正本が積み上がり、ちょっとの間一人にされた瞬間、思わず悪の道に走ってしまいそうな悪魔の誘惑と、心の中で真剣勝負のド突き合いを展開してしまう…も、もちろん清き正しい心が勝利しましたよ。

この買取さえ終わってしまえば完全休業日となる小野氏と歩調を合わせ、「古書音羽館」(2009/06/04参照)を覗きに行く。新潮社「私の少女マンガ講義/萩尾望都」を900円で購入しつつ、店主の広瀬氏と居合わせた里山社さんにご挨拶する。続いて突然「中野ブロードウェイに久しぶりに行きたい!」と宣い始めた小野氏と中野に向かい、ブロードウェイを一階から四階までじっくりと経巡る。古本屋ではすっかりセドリモードになる商売人の小野氏に怯えながら、四階の「まんだらけ海馬」(2015/02/06参照)で、カバーナシのポプラ社 日本名探偵「恐怖の口笛/海野十三」(名探偵帆村荘六vs怪盗あざがに仙斎…“あざがに仙斎”って…なんと燃えないライバルの名前…)を見出し、喜んで二千円で購入する。
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その後は夕方なのに小道の居酒屋に繰り出し、ひたすらレア古本の話に終始しながらビールを飲み干して行く…あぁ、今日もそんな風に、見事に古本に塗れまくった、楽しい一日でした。でも家に帰って、ズキンと痛むおでこを鏡で見たら、たんこぶ&その上に付いた傷が付いている!いい大人なのに、みっともないなぁ。
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2018年05月12日

5/12本をトレードする。

夕方前にどうにか武蔵境の南西に流れ着いたので、西武多摩川線の踏切を越え、「尾花屋」(2017/06/15参照)を訪れる。店頭で岡本太郎二冊を掴んで店内に進むと、相変わらず冬の雰囲気を纏った店主が、地元のオバちゃんに食いつかれ、とても良い話相手になっている…。新潮社「私の現代芸術」朝日新聞社「岡本太郎の眼」共に岡本太郎を計300円で購入する。

その後は武蔵境まで出て、中央線→総武線と乗り継いで西荻窪途中下車。週末の賑わいを見せる「盛林堂書房」(2012/01/06参照)に立ち寄り、作家&ホームズ研究家・北原尚彦氏より贈られた本を受け取る。常に雑食古本買い足る私は、時にその見境なく面白そうな古本をとにかく買ってしまう性質から、SF的奇書を日々求めている北原氏の探書を発見してしまう光栄に浴することに、まま見舞われるのである。そう言う時はすかさず氏から連絡が入り、『これこれこういう事情から探していた本なので、良ければ譲ってもらえないか』と懇切丁寧に説明されるのである。そうなれば、ただのぼけっとした古本好きが所蔵しているよりは、研究者の手に渡った方が、遥かに世の中のためになるので、遠慮なくお渡しすることに決めているのである。ただし、こちらも少額とは言えお金を出して買った物なので、氏の蔵書とトレードしてもらうのが、定例となっている。その受け渡し場所が、二人の一番頻繁な接点となる「盛林堂書房」なのである…「盛林堂」さん、スパイが木の樹洞を介して機密文書をやり取りするようなことを、いつもしてしまって、大変申し訳ございません…。というわけで今回は、京都で見つけて来た日本書房「アメリカ民話 ジャングルのターザン/中正夫・文 花山信吉・画」(2018/04/06参照)とトレード!帳場で袋を受け取り、楽しみにしながら家に持ち帰る。その袋の表には、『第四章ごらん下さい。』と書かれている…何だろう?ちなみにこれまでも何度かトレードは行ったのだが、贈られる本は、いつも予想の斜め上や下を行く、奇怪な変化球本ばかりなのである。「九鬼紫郎がお好きなようですから、「怪奇探偵小説集」を用意しました」とか、「ダブっていたので「社会進化 世界未来記」をどうぞ」なんてことは決してないのである。氏は、完全に無邪気なイタズラ好きの、怪人二十面相側の人間なのである。そんなことを改めて思いながら、袋から本を取り出すと、文雅堂書店「改版増補 胃腸之一年/醫學博士 湯川玄洋講話」なる、明治本を大正七年に改版して出した消化器官医学一般啓蒙書であった。…やはり、物凄い変化球で来たか…それにしても何故?と訝しがりながら、衛生志向向上のための本を繙いて行く。本当に胃腸の仕組みと役割と効用の話ばかりだ。そのうち懸案の第四章に差し掛かると、ここにも『こちらの四章が白眉となります。お楽しみ下さい』と書かれた紙が挟み込まれていた。
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その第四章に熱い視線を注ぐ。『(四)胃腸兩國の探検』!あぁ。これは『ミクロの決死圏』的に人体を探検し、その構造を紹介するSF的アプローチ!早速読み込んで行くと、『人体國聯邦』の一部である『胃の國』と『腸の國』の王二人が(それぞれ“胃王”“腸王”)、自分たちの治める國と、関係のある他の聯邦國の模様を視察するというストーリーである。いやぁ、くだらないけど、これは嬉しいなぁ。『口唇國』から始まる、人体の消化器官という管的宇宙への旅!他の章が、ひたすら真面目な胃腸とそれに関する消化と食物の話なので、この章だけが、とんでもなく異彩を放っているのである。それにしても、良くこんな硬そうな本から、面白い章を見つけられるものだ。そう感心しながら。己の修業の足りなさを、大いに痛感したトレードであった。そして実はまだ、北原氏が本気で欲しがっている本が温存してあるので、これをトレードに出した時、いったいどんな本が贈られて来るのか、今から楽しみでしょうがなかったりしているのである。

そしてさらに巻末の広告を見ていると、國枝史郎の「黒い外套の男」という劇脚本の傑作選集が出されているのを知る。…うわぁ、こんな本知らなかった。欲しいなぁ、読みたいなぁ…。
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2018年05月08日

5/8イレギュラーズとかこさとし。

午前十一時過ぎに「盛林堂書房」(2012/01/06参照)に赴き、そそくさと盛林堂号に乗り込み、“盛林堂イレギュラーズ”として活動を始める。本日の主な役割は、洋書&洋書ペーパーバックの大量仕分けである。慣れない英語に四苦八苦し、表紙のイラストや作家名を参考にして、どうにか見当をつけてミステリー・ホラー・SF・ファンタジーなどに分けて行く。夢中になって小野氏とともにたくさんの山を仕分けたら、あっという間に午後四時…ヒィィィィっ!脳味噌の普段使わぬ部分を駆使していたら、明らかに時間感覚が狂ってしまった!と大いにおののく。そして外は雨が降り始めてしまったので、メインの運び出しは次回行うことにして、妙な頭脳的疲れを背負いながら午後六時半に西荻窪に帰還する。いつものように小野氏とお互いの健闘を讃え合った後に、新刊の盛林堂ミステリアス文庫「夏芝居四谷怪談―弓太郎捕物帖―/大阪圭吉」を御恵贈いただき、新刊の黒死館付属幻稚園 噴飯文庫「阿部徳蔵魔術小説集 未亡人の妖術」を千円で購入する。「未亡人の妖術」に収録された最後の作品『謎の人 フーデニ』に激しく既視感を覚える。えっと…何で見たんだっけ、何で読んだんだっけ…えっと、えっと、えっと……あっ!そうかこの間、森下雨村の小説が載っていたから買った、裏表紙のない「少年倶楽部(2018/03/20参照)」だ!慌てて雑誌を繙くと、目次には『魔術物語』の冠が付けられ(本編では『大魔術物語』となっている)、阿部徳藏の名もしっかりと…き、気付かなかった…。

そして敬愛するかこさとしが5/2に亡くなってしまった。子供の頃から今に至るまで親しみまくった、大好きな絵本作家である。科学絵本シリーズなど名作は数あれど、私にとってのフェイバリットは、「はははのはなし」と「だるまちゃんとてんぐちゃん」に尽きるのである。そう言えばその昔、代々木の『プーク人形劇場』二階にあるかこさとし本やグッズを扱うショップ『だるまちゃん』に行くと、壁に直筆でA5大の『だるまちゃんとてんぐちゃん』の絵が掛かっていた。売り物らしいので値段を聞いてみると、何と二十万円(確かこのくらいの値を告げられたはず)と教えられ、泣く泣く諦めたことを、これを書いていて思い出した。だが今の私は、そんな悲しい思い出を軽微ながらも補填する本を持っている。五年ほど前、妹から突然「私いらないからあげる」と二冊の絵本、偕成社の『かこさとし おはなしのえほん』「からすのパンやさん」と「にんじんばたけのパピプペポ」を手渡されたのだ。どうやら二冊とも貰い物らしく、その出自も良く覚えていないとのこと。カバーは無く、読み込まれた感じが色濃く残っている。だが、この二冊ともが献呈署名本なのである!「からすのパンやさん」は初版で、『一九七三・九・一一』の日付けがあり、署名は漢字で書かれている。「にんじんばたけのパピプペポ」は1978年の13刷で、『一九七九・七』の日付けがあり、署名は平仮名で書かれている。今改めて言おう、妹よ!こんな素晴らしいものをありがとう!いずれは人の手に渡る日が来るのだろうが、それまで誠心誠意大切にします。そして、細かく親しみ易い絵でと平易な文章で、世界の様々なことを分かり易く丁寧に教えてくれた加古里子氏にありったけの感謝を。心よりご冥福をお祈りいたします。
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2018年05月07日

5/7シモキタで水谷準に出くわす。

お昼過ぎに永福町に流れ着くが、まだ雨は降って来ない。体力にも余裕があるので、京王線で下北沢へ出る。するといつの間にか駅『南口』が封鎖されており、『南西口』という新しい改札から吐き出される…旧南口から西に百メートルほどの場所である。これなら、『本多劇場』方面に向かうのは、『北口』の方が遥かに近いようだ。ブツブツ言いながら歩いて「ほん吉」(2008/06/01)前。木箱に古書がたくさん出されているではないか。新潮社 新潮文庫第八編「マルコポーロ旅行記 下/生方敏郎譯」(大正三年刊の小型本。この年にすでに『新潮文庫』が存在していたとは…)筑摩書房「日本文学手帳」(「筑摩現代文学体系」全97巻の特別付録。文学便覧+手帳)ネスコ「TOKYO事件・芸能マップ」近代ジャーナル「パッション 女優蜂/池俊行」を計400円で購入する。路地から飛び出し『茶沢通り』を渡り、そのまま「古書ビビビ」(2009/10/15参照)に雪崩れ込む。右奥道路側のSF&ミステリゾーンに張り付くと、即座に一冊の薄い仙花紙本が目に留まった。共和出版社「傑作探偵小説選集 最後に笑ふもの/水谷準譯」である。未見の本である。なので、ここで会ったら百年目なのである。『裏角欠け』…たいしたことないぞ。『蔵書印』…気にならないぞ。『背切れ』…この程度なら直せるぞ。『¥3000』…安い気がするぞ。というわけで、いそいそと買うことにする。昭和二十一年刊の全九十四ページで、『二重自殺事件/ピエール・ボアロオ』『最後に笑ふもの/オーエン・オリヴァ』『奇妙な遺産/レスリー・チャーテリス』の三編が収録されている。本扉には『傑作探偵小説選集 第一輯』とあるのだが、続編は出版されたのだろうか?
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家に帰り、大阪に「古本屋探検術」の追加三十部を送る。前回同様、表4にとち狂った古本屋関連識語署名がしてありますので、『梅田蔦屋書店』の特設古本本コーナーで、どうかお手に取ってお楽しみ下さい。
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2018年05月05日

5/5荻窪に甘えて。

雲ひとつない青空の下、荻窪と高井戸に挟まれた宮前に流れ着く。すでに疲れ果ててしまっているので、乳酸の溜まった足を引き摺りながら荻窪駅方面へ向かう。まだ陽は高いから、何処かにツアーに行くべきなのだが、疲れは向上心を簡単に奪い去って行く…いいや、いつものように荻窪の古本屋さんを巡ってしまおう。荻窪に、甘えてしまおう。「竹陽書房」(2008/08/23参照)では新潮日本文学アルバム「澁澤龍彦」と藤井大丸「花の百年/荒金義喜」(京都地域百貨店「藤井大丸」の小説仕立ての百年史)を計300円で購入する。続いて「竹中書店」(2009/01/23参照)の300均台前に立ち、目を凝らす。すると、水書坊「紫の履歴書/美輪明宏」に奇妙なオーラを勝手に感じ取る。不厚な本を引き出して見ると、ふむぅ、献呈署名入り。当たりである。
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もう一冊、晶文社「日本のミイラをたずねて/土方正志」とともに、またもや計600円で購入する。引き返して横丁に入り込み、先日訪れたばかりの「おぎくぼ古本市」(2018/05/02参照)へ。「ささま書店」(2008/08/23参照)棚から、先日は何故目に留まらなかったのか?と不思議に思う筑摩書房リュミエール叢書11「1923溝口健二『血と霊』佐相勉」が相場よりちょい安値で売られているのを見付け、1620円で購入する。溝口の幻の表現主義怪奇映画『血と霊』様々な角度から執拗に追いかけている本。スチール類も豊富に掲載されている。原作は大泉黒石なのか(後で調べてみると、原作本は鬼高値!だが、欲しいっ!)!ここまで来たならば、やはり「ささま」に寄らねば収まるまいと店頭に立ち、河出書房 世界探検紀行全集10「ウスリー紀行/アルセーニエフ」大雅新書「父親としての森鴎外」/森於菟」を計216円で購入する。あぁ、すっかり荻窪に甘えて、楽しんでしまった。そう満足て駅北口から、阿佐ヶ谷に向かうバスに乗り込むと、出発するや否や小さな衝撃が車体を伝う。車内マイクを通して運転手が「あれ?ぶつかったかな?」と小さく呟く。あぁ、バスがタクシーと接触事故を起こしてしまった。「すぐ済むと思うんで、ちょっと待ってて下さい」とニコヤカに表に飛び出す運転手。そうは言っても、発車までしばらくかかりそうなので、後部席へのステップにペタリと腰を下ろし、「1923溝口健二『血と霊』」を読み始める。後の席では幼児が「ぶつかった、ぶつかった!」と連呼し、母親に「シィ〜」と諌められている。…あぁ、早く家に帰りたい…。
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2018年05月04日

5/4市からまつりへ

家の何処かで水漏れが起こっているらしく、昼前から水道屋さんに復旧作業に取りかかっていただく。だが隙を見て、高円寺「西部古書会館」の「西部展」に古本を買いに行くことにする。ヒタヒタ住宅街を抜けて行くと、銭湯の煙突に鯉幟が飾られ、屋根より高い青空の下を勇壮に泳いでいるので、その美しさと非現実さに、しばしの間足を停めて口を開け、目を奪われてしまう。
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子供たちがザリガニ釣りに興じる池のある公園を抜け、どうにか午前十時五分に会場着。中はほどほどの混雑であるが、ご多分に漏れず、古本修羅の気合いが猖獗を極めている。もちろん私も迷いなくその一員となって、会場内にドッと溶け込む。「藤井書店」(2009/07/23参照)が昭和初期関連の良い本を並べているのに出くわすが、欲しい本が何冊も見つかるが、懐の寂しさから今回はパス(でもあの階段の写真ばかりの本は、やっぱり欲しいなぁ…チャンスがあれば明日買いに行くか…)。「とんぼ書林」さんと挨拶を交わし、いつの間にか隣りで本を抱えていた「なごみ堂」さん(2010/02/12参照)には、独特の視点で選んだ安値の戦利品を見せてもらったりする。結局三十分ほど滞在し、大日本雄辯會講談社「われ等の海戦史/平田晋作」(函ナシ)社会思想社「魔術館の一夜/泡坂妻夫」を計850円で購入する。家へ戻ってもまだまだ水道管の復旧作業は終わりそうにない。そこで中央線で一路八王子に向かい、久しぶりの「八王子古本まつり」(2011/05/02参照)を眺めることにする。もう十八回もやっているのか。街を斜めに貫く『ユーロード』に一直線に並ぶ、四十七の古本テントに休みなく食らいついて行くと、最後の百均ゾーン&自然・郷土・音楽・映画ゾーンにたどり着いた時には、ヘロヘロになってしまう。楽しいが苦労して何万冊もの本を眺めたはずなのに、結局岩波文庫「幽靈曲/ストリンドベルク」あかね書房少年少女世界SF文学全集6「四次元世界の秘密/L.P.デービス」の二冊を計千円で購入するに留まる。……まったく不思議だなぁ、こんなに本がたくさんあるって言うのに…。午後四時過ぎに家に帰ると、水道工事はまだガリガリと続いているのであった。おぉ、ゴールデンウィークの、そんなありふれた一日が、通り過ぎて行く。
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2018年05月03日

5/3もりやすじに悶絶する。

雨が止み風が強くなった蒸し暑い午後、吉祥寺に向かう。狭い道に進入して来るバスと何台も擦れ違い、喫煙者の群れを抜け、高架脇の「一日」(2017/08/11参照)にたどり着く。今日から十四日まで、併設のミニギャラリーで、アニメーターもりやすじの原画展が開かれているのである。おぉ、古本屋さんで、もりやすじの絵が見られる、この上なき幸せよ。『10%OFF』の札がノブに下がる鉄扉を開けると、すぐ右の壁に額装された二枚が掛けられ、さらにすぐ左に展開するミニギャラリーに、十数枚の額装原画が飾られている。『太陽の王子ホルスの大冒険』『長靴をはいた猫』『白蛇伝』…あぁ、柔らかな鉛筆の線が生み出す超絶な可愛さに、精神が悶絶してしまう。一概に『東映動画』への“ノスタルジー”として片付けられない、己の幼少期から現在まで地続きのイラスト&キャラクター嗜好を存分に確認し、たまたまこちらの店番をしていた「百年」さんと言葉を交わし、冨山房「久留島 お伽講壇/久留島武彦」を、嬉しい10%オフの680円で購入する。古い高等保育学校の所蔵印があり函ナシだが、大正六年五版のオリジナル講談風お伽話集である。初っ端が、鱗のある海底人爺の話で面白そう!各話の始まりに挟まれた色刷り石版も素晴らしいぞ!その後は「バサラブックス」(2015/03/28参照)にも立ち寄り、桃源社「加田伶太郎全集」双葉文庫ファミコン冒険ゲームブック「謎の村雨城 不思議時代の旅」を計400円で購入する。さぁ、悶絶して用事は終わった。早く家に帰って、もはや読むのを止められない「鞍馬天狗 御用盗異聞」の続きに取りかかることにしよう。鞍馬天狗の脳内イメージは、作中ではトレードマークの覆面などしていないのだが、もちろん若かりし頃の嵐寛寿郎である。
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2018年05月01日

5/1仕掛け絵本と鞍馬天狗!

早くから行動を起こし、午前十時半の神保町に立ち、二週間ぶりのパトロールを行う。『駿河台下交差点』際で「三茶書房」(2010/10/26参照)に取り憑くと、真ん中の300均ワゴンから、お店にそぐわぬ本を引き当てる。BANCROFT&CO.LTD.「FLEETFOOT THE FAWN/Pictures by RUDOLF LUKES・Story by GEORGE THEINER」という洋書の絵本である(1965年ロンドン出版で印刷はチェコスロバキア)。ページを開くと何とこれが仕掛け絵本!ページを開く力を利用して、隠れていた動物が顔を出したり、ピコピコ動くように仕掛けられているのだ。全六場面だが、すべての紙ギミックに破損&異常ナシ!しかも絵がグラフィカルでとても可愛い!と大喜びし、店内帳場で精算すると、ありゃりゃ、勘違いで値段が500円になってしまった…まぁいいや。それでもこんな安値で、状態の良い仕掛け絵本を買えることなんて、まずないのだから。
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森の中で親とはぐれて迷子になった小鹿の物語。様々な動物との出会いが、すべて仕掛けで演出されている。

ニヤニヤ不気味な笑みを浮かべながら、その後も神保町をうろつき回る。「田村書店」(2010/12/21参照)はGWはお休みか。「@ワンダー」(2009/01/21&2014/05/22参照)では壁棚をしゃがんでみていると、店主の鈴木氏に元気に挨拶される。しばらく古本屋関連について立ち話をしつつ、またいつかの買取手伝いもお願いしておく(面白そうな買取話、ひとつあり。手伝えるかどうかはまだ不明)。その後『白山通り』を北上し、「奥野かるた店」(2014/05/08参照)二階で開催中の『野球盤ゲーム展』に心惹かれるが、会場が開くのは正午からなので今日は諦め、5/6(日)の展示最終日までにどうにかして駆け付けようと算段する。そんなことをして歩いていると「日本書房」(2011/08/24参照)前着。慌てず騒がず落ち着いて本の背に視線を落とし続けると、博文館「鞍馬天狗 御用盗異聞/大佛次郎」を発見。背が少し傷み、昭和二年の第十二版だが、江戸が大火に見舞われている、伊藤幾久造の函絵が素晴らしいの一言!おぉ、本文中にも別紙の挿絵が入っている!と喜び、わずか300円で購入する。「御用盗異聞」は鞍馬天狗単行本二作目で、冒頭に鞍馬天狗についての説明があり(連載中の博文館の小型雑誌「ポケット」についても記述あり)、巻末には前単行本の慷概が掲載されている親切設計。帰りの車内で慷概に次いで本編を読み始めたら、スピード感あふれる面白さに止まらなくなってしまった…。
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2018年04月29日

4/29第20回不忍ブックストリート一箱古本市

記念すべき二十回目の「不忍ブックストリート一箱古本市」のプレゼンターを、一箱の首領・南陀楼綾繁氏より仰せつかり、午前十一時過ぎに根津駅に降り立つ。しかし地図も出店場所も把握していないので、まずは近くの「タナカホンヤ」(2012/05/29参照)に顔を出す。するとそこには、すでに第一波が去った後の幕末専門「モロ古書店」と乙女系ハードボイルド「文庫善哉」が強い日射しに焼かれていた。挨拶を交わして本を買い、端のアンソロ本を多く並べる「小声書房」にも足を留める。店名通り青年の声は小さいが、喋りはアグレッシブで滑らかであった。続いて『ハウスサポート八號店』では、乙女系トランクを開陳した「万開books」に少し心を奪われる。期待を決して裏切らない「とみきち屋」では文庫を一冊購入。「ひるねこBOOKS」では、海外児童文学箱入り本ばかりを並べた「いちょう文庫」を気にしながら、「散歩堂+」で一冊購入。ここではメガネがいつの間にかセルフレームに変わった南陀楼氏とも遭遇し、言葉を交わす。『アイソメ』では、本が見え難い男子仲良し二人組の「二十成人文庫」に面くらいながら、「脳天松家」で一冊購入。『根津協会』では暗い室内と明る過ぎる中庭のコントラストに翻弄されながら、「よたか堂」の緩い個人的宮沢賢治縛りに微笑み一冊購入。「喜多の園」(2011/07/21参照)では、相変わらず本を売りたがらない店主と話し込みながら、「W ART BOOKS」の小さなプラ箱に立体的に大判本+その代替物とも言える小型本を埋め込んだもどかしげなスタイルに小さな感銘を受ける。『往来堂書店』では忖度して谷譲次の新潮文庫「もだん・でかめろん」を差し出す「RAINBOW BOOKS」に喝を入れながら一冊購入。初の出店場所となる『森鴎外記念館』では高い壁沿いに箱が並び、非常に見やすく整然とした印象を受ける。『老人ホーム谷中』では、ガチガチに須賀敦子で縛った「コローのアトリエ」と、八十年代の匂いが色濃い「サルエ堂」に注目する。「古書ほうろう」(2009/05/10参照)では「B-bookstore」の木製二段回転ラックに見蕩れ、「雨の実」母娘の“お喋りジェットストリームアタック”を心地良く浴びる。『谷中の家』でビートたけし縛りで八十年代たけし風セーターを着た「ドジブックス」に口あんぐりした後、公園でパンにて昼食。木陰でスヤスヤ眠るトラ猫を起こさぬよう、忍び足でゴミを捨てる。『貸はらっぱ音地』では「言戸堂」では山岳と雑本が混ざり合う中から一冊を購入する。これで全十二ヶ所・計五十六箱を巡り終り、計九冊を計4200円で購入したこととなる。時刻は午後二時三十分…昼食を摂った公園に腰を据え、「文庫善哉」で買った本を読み始めてしまう…途中、公園を通り抜けた何人かの知り合いに声を掛けられ、柄にもなく照れてしまう。午後五時過ぎに、住まいの図書出版局「中野本町の家/後藤暢子・後藤幸子・後藤文子・伊東豊雄」を読了。涼しくなり始めた風の中を、表彰式会場へと向かう。今回の古ツア賞第一位は「よたか堂」であったが、残念ながら会場に姿が見えなかったので、第二位の「W ART BOOKS」が受賞となった。
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買った本たちと、久しぶりのスタンプコンプリート。全部捺すと浮き上がる文字は『ちいさなうちゆうを20周』であった。「よたか堂」で200円で買った絶版の新潮文庫「無聲慟哭・オホーツク挽歌/宮沢賢治 草野心平編」が、ちゃんと柔い帯付きで嬉しい。

思えば一年に一度、谷中・根津・千駄木の一角に、人の手でたくさんの本が寄り集まり、工夫を凝らして開陳され、やがてそれらが別の人の手に渡り、街の外に流れ出て行くのである。百年以上これが地道に続いたとして、本が完全に旧時代のものとなった時代には、奇妙な習俗として、形骸化した奇祭として、民俗学の研究対象になっているかもしれない。それだけこのイベントは、人の心とこの土地に、根付いた印象がある。主催の皆様、助っ人の皆様、出店の皆様、お客の皆様、本日はお疲れさまでした。そして二十回、おめでとうございます。
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2018年04月26日

4/26削除指定本かっ!

今日は夕方前に堀之内に流れ着いてしまったので、かろうじてこの辺り唯一の古本屋さんと言える「ブックオフ杉並方南町駅前店」に潜り込み、光文社文庫「奇想の源流 島田荘司対談集」新潮文庫「映画狂時代/檀ふみ編」を計216円で購入した後、関東バスに飛び乗って新高円寺で下車。『ルック商店街』を南から遡って行くと、最初の信号を越えた右手にある、古くからある街の本屋さん「栄文堂」が空の什器を晒し、本の並ばぬ棚ばかりの店内が、洞窟のように暗闇に支配されている。そこには片付けに奔走する老婦人の姿が…ついにここも店じまいか…。老舗の本屋さんが消えることを寂しがりながら、シャッターを下ろした「アニマル洋子」(2014/03/14参照)前を通過し、やがて高架下の「藍書店」(2014/01/14参照)に到達。外壁棚から工作舎「月と幻想科学/荒俣宏●松岡正剛」を300円で購入し、「都丸書店」(2010/09/21参照)ではちくま文庫「火の車板前帖/橋本千代吉」文藝春秋「つゆ草/川崎長太郎」新潮社「虫プロ興亡記/山本暎一」を計600円で購入する。そして『庚申通り』をダラダラと遡り、お楽しみの「古書サンカクヤマ」(2015/02/02参照)店頭に立つ。即座に目についたのが、浪速書房世界秘密文学選書7「欲望の充足/ピエール・アンジェリカ原作 清水正二郎訳」。昭和39年刊の表紙写真がビキニで笑顔の金髪美女の官能小説であるが、そう珍しくも高値でもない本である。…だが、何かおかしい!そんな風に古本的勘が、眉間の内側に突如煌めく(まぁこの勘は、いつどんな古本でも煌めいてしまう、当てにならない代物である)!抜き出して手にして、表紙側の見返しを開く。すると、『見本』『非売品』などのハンコとともに、『清水正二郎』と捺されているではないか。ぬぬっ、清水正二郎の蔵書かっ!いや、さらに妙な古い紙が挟まっている。そこには『作家用捜索除外品』『削除部分指定済』『持出厳禁』とある。さらに青焼きのページデータが貼り込まれ、相当のページを見ると、削除部分が定規で引いた赤鉛筆で囲まれ、指定されていた。後で調べると、昭和四十年に摘発されたことを受けての削除指定であることが判明。これはエロ方面にとっては、とても貴重な資料である。奇妙な面白い本が手に入ったのだが、私如きでは持て余すこと必至の予感が背中を走る。いつか、アダルトメディア研究家の安田理央氏にでも、託すことにするか。はっぴいえんど『風来坊』の流れる店内で100円で購入する。
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2018年04月25日

4/25「もだん・でかめろん」表紙草案

強い雨が止んだのを見極め、新宿に用足しに向かう。だがその前に古本を買っておこうと、地下の『東口改札』を抜けてさらに地下の『メトロ通路』に入り、さらに地下の『サブナード商店街』へ。お店が居並ぶ通路を抜けて『サブナード2丁目広場』に足を踏み入れると、北側の隅で、十五のワゴンと数種の什器、それに十五本の本棚による古本市「古本浪漫洲part5」(2010/03/04参照)が開かれていた。漫画『ドラゴンボール』のスーパーサイヤ人のように目まぐるしく変化する催事である。Part5である最後の三日間は、300円均一市!ちゃんと良い本が安値で掴めるので、かなり重宝する印象を持っている。早速彌生書房「山之口獏詩集/金子光晴編」を手にしたら、同じワゴンから続けて、読みたかった文藝春秋NESCO「窓の下に裕次郎がいた……映画のコツ 人生のコツ/井上梅次」を見つける。うむ、やはり重宝するなぁ。さらに本棚ゾーンでは、暮しの手帖社「家のある風景/清水一」東京国立近代美術館「古賀春江 創作のプロセス」を抜き出し、端の帳場で「金井書店」(2016/08/10参照)オリジナルの『本買取ります』簡易団扇二種を見下ろしながら、計1200円で購入する。この市は明日26日(木)まで。
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「窓の下に裕次郎がいた」は、超絶器用な名職人監督・井上梅次が、石原裕次郎・鶴田浩・田宮二郎・香港映画・TVドラマ(土曜ワイド劇場の『江戸川乱歩美女シリーズ』誕生秘話&苦労話も!)などを触媒として、映画創作の楽しさや自作についてまとめた作品。読み始めるとたちまち引き込まれ、滅法面白し!「家のある風景」は装本が花森安治で、上品な耳付きカバーがその物質感を、本以上の物に仕立て上げている。

そして「古賀春江 創作の秘密」には、モノクロだが改造社「もだん・でかめろん/谷譲次」表紙の下絵が掲載されている!家に帰って現物と比べてみると、なんだ、全然違ってるじゃないか。共通のモチーフは、右上に浮かぶ円模様のみ…うひぃ〜、こういう発見は楽しいな。いったい、何があったんだろう?自分で構想を一から変えたのか、それとも谷譲次か出版社にボツを食らったのか…?
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2018年04月24日

4/24とにかく記念の一冊目を手に入れる。

昨日はお昼過ぎに荻窪近くの桃井に流れ着いたので、『四面道』から『青梅街道』を伝い、陰惨な地下通路で線路下を潜って「ささま書店」(2008/08/23参照)へ。店頭文庫棚にSF&幻想関連が多く入荷しているのを認め、角川ホラー文庫「妖怪博士ジョン・サイレンス/A・ブラックウッド」ハヤカワ文庫「魔法使いの弟子/ロード・ダンセイニ」教養文庫「探偵小説の謎/江戸川乱歩」講談社文庫「それでも飲まずにいられない/開高健編」を計432円で購入する。

そして今日は“盛林堂イレギュラーズ”として買取仕事に従事するため、お昼前には西荻窪「盛林堂書房」(2012/01/06参照)へ。ちょっと「フォニャルフ」に補充してから、店主・小野氏の運転する盛林堂号で買取先へ向かう。およそ四時間弱で、八十本ほどの本束を、雨が降り始める前にと、十四階から一階に下ろしまくる。いつもなら、このぐらいなら軽やかににこやかにこなせるのだが、今日は何だか二人とも、始終疲れ気味であった…それほど古本的にときめかぬ、大量の雑誌が重かったからだろうか?午後五時半に西荻窪に帰着して、本日の渋く鈍い活躍を労い合った後に家へと帰る。すると家には、両手の指に残る、古本による腫れと重みを癒すかのように、ヤフオクの落札品が届いていた。黎明社の廉価版「少年探偵団 宇宙怪人の巻/原作・江戸川乱歩 わか★としろう」である。おぉ!ついに我が手に来たか、憧れの少年探偵団漫画本!カバーナシで、表紙はメンディングテープで留められ、破れているページもあるのだが、これは紛う事なき大乱歩の『少年探偵団シリーズ』を、漫画化したものなのである!古本屋さんでついぞ見かけることは全くなく、初めて見ることが出来たのは、幸か不幸か取材時の『乱歩の蔵』の階段下に並ぶ奇跡のように揃ったシリーズ…。とにかく現在では読むことの叶わぬ漫画なので、乱歩好きとしてはいつ何時でも心の中に『欲しい!』『読みたい!』の気持ちが、常に強く虚しく反射しまくっていたのである。ヤフオクで時たま出品を見かけるようになっても、どんなボロい本でもたちまち万を越える高値に突入してしまうので、結局とても手の届かぬ高嶺の花であり続けていたのである。それが数日前に、一斉に「黄金の塔の巻」「青銅の魔人の巻」「虎の牙の巻」「怪奇四十面総の巻」「宇宙怪人の巻」の五冊が出ているのを見つけたので、いつものように『どうせ落札はできないだろう』と半ば諦めつつも、入札することにした。一番欲しいのは、私の乱歩ファーストコンタクトでもある「青銅の魔人の巻」だが、すでに値段はヒートアップし始めている、…これは諦めよう…では、どれにするか。せっかく気張って買うのだから(諦めムードでも、入札するからには基本買えるつもりでいる…愚かだ…)、自分の中で馴染みの薄い「黄金の塔の巻」と「虎の牙の巻」はナシだ。では、「怪奇四十面相の巻」か「宇宙怪人の巻」ということか。心の中で、朧げに思い出す二つの話を対決させる…すると、強く浮かび上がって来たのは、恐いほど赤い夕焼け空の中を飛んで来る、空飛ぶ円盤の編隊!…あぁ、この鮮烈な場面を漫画で見てみたいっ!…というわけで、多少SF要素もあるとは言えるかもしれない「宇宙怪人の巻」に決定する。すでに入札者は二人で、5250円…これがお店で売っているとして、お前なら幾らまでなら買うんだ?と激しく自問自答し、頑張りに頑張って6250円で入札(もはや己に課していた、『ヤフオク入札金額は5000円まで』は有名無実に成り下がってしまった…)。すると最終日までライバルは現れず、あっけなく6000円で落札することとなり(他の本も「青銅の魔人の巻」以外は、軒並み6000円くらいで終了していた。他のも入札すれば良かったなぁ…)、多少拍子抜けしながらも、憧れの本を入手出来たことに、古本心は容易く天界へと舞い上がったのである!この知らぬ憧れるだけだった世界を、ついに垣間見える喜びは、古本買いの重要な醍醐味のひとつである。例えそれが期待と違う結果に終わっても、それが分かっただけでも、古本心に束の間だが安寧の瞬間が訪れるのである…さぁ、とにかくこれが記念のシリーズ入手一冊目。いざ軽いハードカバーの本を開き、未知の世界をたっぷりと味わうことにしよう。おぉ、早速目を射る、この版ズレカラーの、毒々しく独特で、稚拙にノスタルジックな扉絵よ!
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posted by tokusan at 21:13| Comment(0) | 追記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする