2017年08月15日

8/15火曜日にクルトと出会う

先日三鷹台の「獏の店」を訪ねた折(2017/08/06参照)、オッチャンの方から『ちひろ美術館』の招待券をいただいていたので、上井草まで観に行くことにする。現在開催中の『奈良美智がつくる茂田井武展』は8/20(日)で終わってしまうので、茂田井にぞっこんな身としては、決して見逃すわけには行かぬのである。親切に連続する電信柱の案内に導かれ、無事に住宅街の中に佇む瀟酒な小美術館に到着する。老若男女で賑わう一階二階の展示室で、素朴で心がフツフツ優しく醗酵してしまう、戦前〜戦後の絵本原画やスケッチ風カラー水彩画を存分に楽しむ。名作「セロひきのゴーシュ」も展示されているとは!だが二階で茂田井の年表を見ていると、1935年に『新青年』掲載の横溝正史「かひやぐら物語」に挿絵を描いて初めての画料を得たことや、小栗蟲太郎「廿世紀鉄假面」に独特な挿絵を描いたことで評判を得たことなどがしっかり書かれており、おかしなところで探偵小説好きの血が大騒ぎしてしまう。

せっかくここまで出て来たので、雨は降ったり止んだり強くなったり弱くなったりを繰り返しているが、東村山「なごやか文庫」(2012/01/10参照)まで足を延ばし、安値の古本を漁って行くことにする。各駅停車でノロノロ西東京方面へ向かい、まだお盆休みの雰囲気が濃い人影の少ない街を線路沿いに進んで、文庫着。誰もお客はおらず、しかも無人販売時間帯の店内では、結束本のセールが行われている。右壁棚に妙に七十年代の推理小説や時代小説が多いなと思いながら、激安本を次第に一冊二冊と手にして行く。すると左奥の児童文学コーナーに、十冊強の偕成社文庫が固まっているのを発見する。余りお目にかかれぬ珍しい光景…と左から右に視線を移動させて行くと、いよぉっ!「水曜日のクルト」があるじゃないか!今日はこの本に呼び寄せられて、俺はここまで来たのだな。そう妄想して無人レジに向かい、各本からそれぞれ値札を引き出し、計算をした後に代金を料金箱に落とし込む。偕成社文庫「水曜日のクルト/大井三重子」「燃えるアッシュ・ロード/サウスオール作」新潮社「恋紅/皆川博子」「襤褸/木野工」トクマブックス「野球はアタマや/江夏豊」福音館書店「年少版こどものとも ずかん・じどうしゃ/山本忠敬さく」を計430円で購入する。まさか雨の火曜日に「水曜日のクルト」に出会ってしまうとは…。そう言えばこの童話集には「血の色の雲」という、大井三重子=仁木悦子自身の、兄の一人を戦争で失った体験を元にした、悲しい物語が収録されている。終戦記念日に読むに相応しい、主人公の少女が次々と戦地に赴く親しい人たちに放つ「ころさないで、死なないで」の悲痛で切実な叫びを心に響かせ車中読書しながら、帰るとしよう。それにしてもこの偕成社文庫のクルトを買ったのは何冊目だろうか…いつの日か、東都書房のオリジナル・クルトも、何処かで大発見したいものである。
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そして明日から大阪駅駅ビルのひとつ『ルクア イーレ』九階「梅田蔦屋書店 4thラウンジ」壁面で始まる「夏の古書市2017」も、何とぞよろしくお願いいたします!
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2017年08月14日

8/14古本市の奇妙な成果

昨日NHKの午後六時台のニュースを見ていると、「渋谷大古本市」(2014/08/14参照)の様子が突然流れ始めた。一瞬映し出された、日本近代文学古書が大量に並ぶ「中村書店」(2008/07/24参照)の台に古本脳を撃ち抜かれ、本日午前十時過ぎに『東急東横店西館』八階の催事場に駆け付ける。開店直後の人影が疎らな左端通路から、古本群に視線を照射し始める。このくらいなら、楽に見られるなぁ〜と思っていると、中央通路にたどり着いた辺りで、いつの間にか会場が混雑し始めたことに気付く。…やはりこうなるのか…。と、譲り合い争い合い気をつかい合い火花を散らし合い、今日買うべき一冊を探し求める。「中村書店」の並びは物凄く幸福な並びであったが、値段がビシッとしているので、目玉を楽しませていただくだけに留まる。ジリジリ移動して、何冊か欲しい本に目星を付けているのだが、決定打というわけではないので、とにかく最後まで見なければ気が済まない。そして「九曜書房」(2009/03/26参照)の薄暗い台下に視線を落とした時、煤けた厚めの仙花紙本の背に『浅原六朗』の名が浮かび上がっているのを目ざとく発見。素早くしゃがみ込んで引き出してみると、あおぞら出版社「欲情の果/浅原六朗」であった。値段を見ると500円なのでほくそ笑みながら抱え込む。これさえ手に入れば、もうここに来た使命は全うされた。そう余裕綽々の気分になり、後の台は気楽に流し、一時間強で会場を見終えて、精算待ち列の最後尾につく。ところが、今日の獲物を改めて眺めていると、奥付はあるのだが、最終の何ページかが落丁していることが判明する…なんてことだ。だからこんなに安かったのか…だがそのまま、何はともあれ浅原六朗なのだと、あやふやな欲望を胸にうやむやに抱いてそのまま購入する。市は明日15日(火)まで。

そんな冴えない感じであったが、実は気になったことがひとつ。それは「アート文庫」の棚で見た、箱ナシの児童文学本、太平出版社「けむりの家族です/杉山径一・作 池田龍雄・絵」が心に引っ掛かったので手に取ってみると、驚くことに五桁の値が付けられている。何故引っ掛かったかと言うと、ボンヤリとこの本を持っている気がしたからである。だとしたらとてつもなくラッキー!急いで家に戻り、キッチン隅の古本山をガシガシ掘り返すと、やはり同じ本がちゃんと箱付きで発見された。今年の四月あたりに「盛林堂書房」(2012/01/06参照)の100均棚から、見たことがない上にSFっぽさが漂っていたので、何となく購入していたのである。だからもちろん読んではいない…。調べて行くとやはり裸本でも五桁の値が付けられている。なんでこんな値段なのだろう?驚きつつ喜びつつさらに調べを進めてみるが、この本が何故高値なのかがまったく判然としない。う〜む、恐らく絵を描いてるのが、現代美術家の池田龍雄だからではないだろうか(どなたかご存知の方がいましたら、ご教授を!)。せっかくなのでこれを機会に読み進めてみると、寄る辺ない不思議な家族と団地の子供を主人公に、家族の父が宇宙から受け取った電波に応えるために、赤いのろしでUFOを呼び始めるSF一歩手前の展開で、確実に読んだ児童の心にぽっかりとした喪失感&宙ブラリ感を生み出す、小トラウマとなるであろう面白い物語であった。古本市に出かけたことにより、初めて積ん読にしていた本の価値を知り、しかも読了してしまう奇妙な成果。そんな、時間差で時限爆弾的に生まれた突然の喜びに、盛大に乾杯!
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2017年08月09日

8/9「一日」に入れなかったおかげで「刺青殺人事件」を手に入れる!

皆に平等に襲い掛かる猛暑の中、午前十一時半の西荻窪「盛林堂書房」に向かい、「フォニャルフ」に単行本を中心にわりと多めに補充する。帳場までは塩山芳明御大と遭遇し、ピンク映画のスチール写真について会話の花を咲かせる。だが今日はそれほど無駄話をせずにお店を辞し、吉祥寺へと向かう。本日「OLD/NEW SELECT BOOKSHOP 百年」(2008/09/25参照)の支店「一日」が同じ吉祥寺にオープンするのである。支店を出すのはスゴいことだが、それも同じ町に出すというのはさらにスゴいことである。いったいどんな風なお店で、「百年」とはどんな違いを見せてくれるのだろうか?と期待しながらお店の前に着くと、開店の挨拶が書かれた立看板は置かれているが、ドアはぴったりと閉ざされている。
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看板の右上で風にはためく急遽貼付けられた用紙に目を凝らすと『15:00に開店します』とあるではないか。正午オープンのはずだったのに…何かトラブルでもあったのだろうか…今は午後十二時三十分。ちょっと後二時間半も炎暑の吉祥寺で待機するわけにはいかぬので、今日のところは残念ながら退散することに決める。しかしこのまま帰るのは余りに寂しいので、駅南側の「古本センター」(2017/03/06参照)に立ち寄ることにする。この時間の店内は、なんだかとても静かで密やかである。また何処かに素敵な古書でも潜んでいないかと、帳場近くの棚や棚脇棚を見た後に、帳場前の通路棚端に新設された最近入荷本棚下段に目が行くと、ぬぉっ!岩谷書店の江戸川乱歩監修寶石選書「長編讀切 刺青殺人事件/高木彬光」がセロファン袋に入れられ、なよっと面陳されているではないか!しかも値段は二千円!そっと手にして袋から取り出しパラパラと見てみるが、別に瑕疵はない。再版で乱歩の「再版を祝す」が追加されているものだが、二千円!うぅむ、時間通りに「一日」が開いていたら、果たしてこちらに顔を出したかどうか…とにかくこの偶然の流れから生まれた、素晴らしい出会いを喜び、ニヤニヤと購入する。無論どひゃっほうである。
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夜は駒込にて南陀楼綾繁氏と落ち合い、お互いの未来や一箱の未来や出版業界の未来について、忌憚ない意見をぶつけ合う。あぁ〜酔っ払った。
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2017年08月07日

8/7「暮しのなかで考える」

仕事の答え待ちの隙を突いて外出。だがそれほど多くの時間を自由には出来ないので、近所の古本屋さんを見に行くに留まる。風が強くなり、段々と灰黒色の雲がハイスピードで動き始めた空の下を早足で歩き、まずは阿佐ヶ谷「古書コンコ堂」(2011/06/20参照)。ちょうど店主・天野氏が出入口のガラス戸を、キュッキュッと磨いていたので挨拶を交わす。時間は無いのに冷房が涼しい店内にわりと滞留し、中公文庫「日本妖怪変化史/江馬務」本の雑誌社「本の雑誌風雲録/目黒考二」マガジンハウス「BRUTUS 137 特集:ブルータスの古道具三昧」を計356円で購入する。まだ少し、天気にも時間にも余裕がありそうだと、さらに足を早めて『七夕祭り』で地獄の釜のような賑わいを見せる駅周辺を突破し、そのまま荻窪まで歩いて「ささま書店」(2008/08/23参照)。ちょうど店頭を雨仕様にチェンジする場面に出くわす。こちらでも店内冷房の恩恵にたっぷりと預かり、徳間書店「町の案内図/河野典生」を105円で購入する。そんな感じで、あっという間に時間一杯になったので、さらに足を早めて『日大二高通り』を北東に遡上して、雨の降り出す前に家に帰り着く。

さて、ここ二日ほど私の頭は何をしていても、すっかり一冊の本の魅力に捉えられてしまっている。それは「書肆スーベニア」(2017/08/05参照)で購入した、暮しの手帖社「暮しのなかで考える/浦松佐美太郎」によって齎されているものだ。この本が珍しいものであることは、ぼんやりと門外漢的にも知っていたのだが、改めて調べてみると、思っていたより稀少な本であることが分かったのである(ただ本に関する情報は、それほど浮かび上がって来ないのが残念)。長い間絶版になっている一冊らしく、所持しているのは昭和三十八年四月刊の三刷である。変わった名を持つ著者の浦松佐美太郎(うらまつ さみたろう)はジャーナリストで登山家。この本は「暮しの手帖」に三年間連載した十五篇の随筆を収録。装本はもちろん花森安治で、表紙絵のフライパンとそこに乗る食材の線画装飾具合が、果てしなく懐古的にプリティーである。さらに角背で132mm×186mmの、正方形に近づくような少し寸詰まりの変型サイズが、物質として手に馴染む愛らしさを演出している。肝心の内容は“考える”をテーマに据え、日常に潜む問題(お金、読み書き、家族関係、人口、洋服、生活リズム、文章、言葉、愛情、政治、人格、願望、欲望などなど)を真面目に掘り下げて行くのだが、それはいわゆる“思想”や“哲学”などの形而上での難しい思考実験ではなく、あくまでも形而下、つまり生活の中で思考し暮らすことを提唱し展開して行く。難しく考えるのではなく、まず暮しがあり、その中の身近なことをはっきり意識して考えて行くための、様々な例と方法と気付きが書かれているのだ。“考える”を、大きな世界の真理や秘密を探るものとしてではなく、小さな暮しをよりよくするための道具として、使用しているのだ。傾向としては花森安治の「さかさまの世界」と似た匂いが漂っているのだが、この“暮し思考”が何だかとても新鮮なのである。本来ならこういう超地味真面目な本は肌に合わないので、ほとんど読まずに「ヒヒ、高い本を安く買えたぞ。すぐに「フォニャルフ」で販売だ!」と卑しく売ってしまう可能性大だったのだが、まず造本に捉えられ、次いで本文に捉えられ、あげく「暮しの手帖」ワールドに引き込まれてしまい、真剣に読み続けてしまっている。こんな予想外なこともまた、古本屋さんで、この本と出会えたおかげなのである。あぁ、世の中には、まだまだまだまだ、知らない本が満ち満ちている。
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2017年08月06日

8/6「獏の店」の野望を嗅ぎ付ける。

本日は三鷹台に流れ着いたので、『神田川』を渡って「絵本&アート 獏の店」(2015/08/10参照)の様子を見に行くことにする。途中おばあさんが店番をする、お洒落さゼロの余りに日本的なアンティークショップの50%OFFセールに惹き付けられつつも、記憶をガツガツ掘り起こして水色の日除けのお店にたどり着く。店頭絵本箱をまずは漁り、300円の福音館書店ものがたりえほん36「あな/谷川俊太郎作・和田誠絵」をパスポートとして店内に突入。中央テーブルには絵本空間に似合わぬオッチャンが店番をしており「いらっしゃいませ」とボソリ…のっぴきならぬ理由で頼まれての店番中だろうか…。主に右壁棚の箱入児童文学本に熱心な視線を注ぐが、本日は出物なし。ということであっさりと表から持ち込んだ絵本を購入することに。そこに外から戸川昌子風マダム店主が帰還し、いきなり「何?何買ったの?」とフレンドリー過ぎる距離感で、心の垣根をを飛び越えて来た。谷川俊太郎&和田誠コンビの絵本であることを告げると「そっかー。俊太郎さんかぁ」と感心し始める。そしておもむろに「今は絵本が多いんだけどね、近々絵の展示を始めようと思うの」「はぁ…」「現代美術なんだけど。その壁に飾ってあるリトグラフ、いつ頃のだか分かる」「う〜ん、1950年代くらいでしょうか…」「生まれたのは1885年生まれの人の作品よ。ドローネ。ソニア・ドローネ」「あっ、知ってます!(何故知っているかと言うと、昔録画したNHK『日曜美術館』の鴨居玲特集で、本編終了後の展覧会紹介ミニコーナー『アートシーン』の初っ端が、ソニア・ドローネ展だったのである。…ただそれだけなのだが、何度もその録画番組を見ているせいか、名前だけが頭の中にこびり付いていたのである…)」と答えると「ちょっとアナタ時間ある?」と奥に引っ込んでしまった。すかさずオッチャンが「時間、なくてもいいですよ」と助け舟を出してくれるが、ちょっと面白そうなのでマダムの話を拝聴する覚悟を決める。持ち出して来た、しっかりと作成された自分史のファイルを紐解きながら長いお話がスタート。聴けばその昔、神保町でギャラリーを開いており、ソニア・ドローネのコーディネーターもされていたとのこと。上野の『西洋美術館』での展覧会も、彼女が当時の美術館館長にフランス語を教えていた縁で、ドローネ展(1979年)の企画が通ったとのことであった。うむ、それはスゴい。その他にも前衛芸術運動『コブラ』の話(こちらの日本への紹介にも大いに貢献していた模様)などの数々を、学生気分でおとなしく聴き続ける。と言うわけで「獏の店」は、いずれソニア・ドローネとコブラ派の作品で、埋め尽くされることになりそうです。最後の最後に「あなたは学生さん」「いえいえいえいえ、もう全然とっくのとうに卒業してますよ」と言うと「あら、やぁねぇ〜。もう年取ると、年下はみんな学生に見えちゃうのよ」とひとり大笑いされている。この場所の旧店である「B-RABBITS」(2008/08/27参照)の女性店主も面白い人だったけど、「獏の店」も負けず劣らずだなと感じ入り、雲がモクモク広がる青空の下を、京王線浜田山駅からすぎ丸に乗り込んで帰路に着く。
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2017年08月04日

8/4古本を買い込み発散する。

掛かりっきりでめんどくさいことをこなし続け、本日夕刻に作業を終える。即座にセレクトした古本を抱えて家を飛び出し、まずは「ささま書店」(2008/08/23参照)の店頭にむしゃぶりつく。すると、なんだか探偵&推理小説関係文献が散見されるので、ついつい次々と抱え込んでしまい、最終的には自分へのご褒美的大発散となる。日本放送出版協会「趣味の世界1 推理教室」(中島河太郎&山村正夫による推理小説入門&研究)高文社「推理小説の謎/村田宏雄」双葉社「幻の傑作ミステリー 怪奇探偵小説集/鮎川哲也編」パシフィカ「シャーロック・ホームズ事典/ジャック・トレイシー」N.C.Y「さらば長州力/長州力」町田書店「小山内薫と築地小劇場/水品春樹」(カバーナシ)三菱地所株式會社「縮刷 丸ノ内今と昔」(カバーナシ。昭和二十七年再版の非売品。一丁倫敦や丸ビルを中心に、東京の中心であった『丸ノ内』という街の歴史が、江戸から太平洋戦争後まで写真資料豊富に語られている)毎日新聞横浜支局「横浜今昔」(昭和三十二年発行の、横浜に関わる有名無名人たちが語る、土地の風俗&歴史&思い出アンソロジー集)春陽堂少年文庫「ほら物語/佐々木邦」(佐々木による「ほらふき男爵」の翻案少年小説。キップリングの「いかさまばなし」も収録。これが一番嬉しかった!)を計1785円で購入する。指に、古本がたっぷり入った袋の持ち手を存分に食い込ませながら西荻窪「盛林堂書房」(2012/01/06参照)へ。「フォニャルフ」にスパパッと補充して、先月分の売り上げを受け取りつつ、さらに表紙デザインを担当した盛林堂ミステリアス文庫の新刊「活劇絵小説 暗黒街の群狼/ジェームズ・B・ハリス文 伊勢田邦彦」を受け取る。うむ、なかなか良い出来ではないか。「少年少女譚海」に連載された、ロバート・ハリスの父“ジェームズ・バーナード・ハリス”による、都市に巣食う強大なギャング団と正義の少年&新聞記者の対決をみっちりたっぷりと描いた、楽しい良い子の読み物である。全ページに二色刷りで花開く伊勢田のイラストワークにはウットリするばかり。今月のコミケで先行発売された後、8/19から店頭&ネット販売予定である。ニヤニヤしながらページをめくりながらも、少し色々と今後の作業予定について打ち合わせる。
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2017年08月02日

8/2こ、こ、こ、こ、こ、こ、こ、「幸福論」!

所用で高田馬場に出たついでに、『早稲田古本街』のパトロールに取りかかる。だがまずは「ブックオフ 高田馬場北店」(2012/11/15参照)に立ち寄り、東峰書房「一筆対面/清水崑」を108円で購入してから、細かい雨の降る中を神田川沿いに東へと向かう。静かな裏通りをひたすら歩き続け、『明治通り』の坂を上がって『早稲田通り』に到達する。北側歩道→南側歩道と古本街を巡るつもりで、まずは「平野書店」(2010/01/12参照)。桃源書房「若さま侍任侠剣/城昌幸」を100円で購入して表に出ると、偶然に自転車で坂を上がって来た「古書現世」(2009/04/04参照)向井氏に声をかけられる。まさか巡り初めの初っ端に、最後にたどり着く予定のお店の店主にお会いしてしまうとは…区役所に向かう氏と後ほどお店で会うことを約束して、しばしのお別れ。そのまま疎らに続く店頭をたどって行く。だがなんだかあまり買うことなく、ようやく「三幸書房」(2012/09/05参照)でちくま少年文学館1「ユリアと魔法の都/辻邦生」を100円で買い、谷底に下って行くと、またも偶然区役所から帰還した向井氏と遠目に遭遇する。氏は颯爽と片手を上げてこちらに合図を送りながら、お店への横丁に曲がり込んで行った。遅れて店頭に到着すると、お父様と店番を交代しながら「さぁ、どうぞ」と店内に招き入れてくれた。左壁沿いには、古本市から戻って来た本や未整理本が積み上がるが、久しぶりに見た棚はその様相を変えて輝いており、たちまち何かないかと鼻をピクつかせて探索モードに。凸凹と同じ棚に様々なサイズの本が肩を並べるお店独特の景色を楽しみながらも、決して眩惑されて見逃さぬよう、本と本の間の影のような隙間にも視線を通して行く。すると、右壁中ほどの棚に、恐るべき本を発見してしまった!筑摩書房「幸福論/小山清」である。昭和三十年発行の新書サイズの、清貧小説家の随筆集であるが、その姿をお店で見られるのは大変に稀なことである。うぉぉぉぉ!と興奮しながら、これは万難を排してでも買わなければいけないのでは?と、こういう時にだけ発現する『男らしい古本心』が早速気弱な心に囁きかけて来るではないか…まぁしかしこの場合の『万難』というのは、概ね価格のことなのだが…。そういうわけで、何はともあれ値段を確認してみようと決めて、後の見返しを開いた瞬間、嬉しいことに万難は、いとも容易く排されてしまったのである!三千円!買える!読める!家に来てもらえる!そのまま奥の帳場に直行し、絞り出すようにして「これをくださいっ」と氏に差し出す。「小山清、こんな本出してたんですね」と精算してもらい本を受け取る。そして我慢し切れずに「向井さん、この本きっともっと高いですよ」と言うと「あぁ、そうでしょうね。でも自分そのくらいしか付けられないんですよ。まぁ古ツアさんに買ってもらえるなら、それで充分です」と嬉しさ倍増のお言葉をいただく。即座に、どひゃっほう!読みます!大事にします!このことは一生忘れません!これからは何でも言いつけて下さい!と盛大に心の中で謝辞を並べてしまう。それほど、とてもとても嬉しい一冊なのである。うぅむぅ、やっぱりお店には労を厭わずに足を運んでみるものだと、改めて思ってしまった、八月最初の古本的慶事体験!俺は今日、この本に出会うために、古本の神に、早稲田へと導かれたのだ…。その後は、鞄の中の「幸福論」の存在を、大きく幸せに感じながら、帳場前に立ち尽くして一時間ほど色々お喋りしてしまう。
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2017年08月01日

8/1安泰について言葉を交わす。

雨が酷くなる前に代田橋に流れ着いたので、環七で関東バスに乗り込み、高円寺方面をブンブン目指す。車窓の向こうが、高円寺に近づくごとに、激しく濡れそぼって行く。『新高円寺バス停』で途中下車し、『青梅街道』から長い長い『ルック商店街』を北に遡上して行く。「アニマル洋子」(2014/03/14参照)は残念ながらシャッターアウト。「大石書店」(2010/03/08参照)はライトを眩しく輝かせ、雨仕様の店頭を夜店のような雰囲気に変えている。厚いビニールをまくり上げ、けいせい出版「ギャンブル人生論/阿佐田哲也」を150円で購入する。帳場に座っているのは、珍しく老店主御大であった。そのまま商店街を進まずに遊歩道を西に曲がり込むと、長毛系の猫が、雨に濡れるのも構わずに煉瓦上に寝そべっている…ずいぶん風変わりなヤツだなぁ。と訝しがりながら、すっかり雨模様の「えほんやるすばんばんするかいしゃ」(2014/09/11参照)に到着する。
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傘を畳んで狭い急階段をギコギコ上がり、BGMに流れる『はっぴいえんど』の日本語ロックに身を任せながら、児童文学と絵本に満たされた小空間を舐るように味わい尽くし、すっかり今は大人の自分と子供時代の自分が角突き合わせて散々悩んだ末に、童心社「きんいろのあしあと/椋鳩十・文 安泰・画」1200円を選んで、帳場に座るお姉さんに差し出す。すると精算しながらお姉さんが「安泰の絵は本当に素敵ですよね」と呟くように発言したので、色めきたちながら同意して「もう本当に、彼の描く動物の絵は、可愛くて仕方ないですよね」と返す。すると「可愛い中にも険しさがちゃんとあって…そう、最近安泰の熊の絵本も見たんですけど、それもやっぱりいつも通りに素敵で…」「そんな本があるんですか!いや、私も安泰が大好きで、見かけるとつい買ってしまうんです。「スイッチョねこ」を見て以来もう…」「そう!「スイッチョねこ」!」とお姉さんは破顔して大喜び…いや、決してデレデレしているわけではない。まさかこんな風に安泰の話を普通に出来る日が来るなんて…安泰の描く動物たちは、フォルムと仕草が完璧とも言える仕上がりを見せながら、リアルとはまた異なる独自のタッチが、超絶なプリティーさを紙面に常に降臨させているのである!この動物画の可愛さ素晴らしさにタメを張れるのは、方向性はまったく異なるが、恐らく森やすじや宮崎駿くらいではないだろうか…。
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※これはシンボリックな絵本の見返し部分。THE・月に吠える!
それにしても「えほんやるすばんばんするかいしゃ」は、常に買った本に対して、ぼそっとコメントをしてくれるので、それが何とも楽しみなお店なのである。児童文学や絵本について語りたい方は、ぜひとも高円寺を目指すべし!きっと「えほんやるすばんばんするかいしゃ」が、堂々と受けて立ってくれることでしょう!雨なので二重に袋に入れていただき、狭い階段をエッチラオッチラ下って、いつの間にか雨の激しくなった午後五時半の高円寺。雨の飛沫に身体を濡らしながら阿佐ヶ谷方面へ徒歩で向かう。ふとアスファルトに視線を落とすと、そこにはかなりちゃんと映っている、己の影法師…まるで足の下に別の世界があり、その世界の自分と、足の裏を接して、相対しているようではないか…。
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2017年07月30日

7/30復刻「死靈」!

本日は午後三時過ぎに浜田山駅の南に漂着し、緩やかな傾斜の上に広がる『柏の宮公園』の、午前に上がったはずの雨を彷彿とさせる、本当に降るような耳を覆うほどの蝉の多重鳴き声に圧倒され、コミュニティバス・すぎ丸に乗り込み、阿佐ヶ谷にただ逃げ帰る。その阿佐ヶ谷では、「千章堂書店」(2009/12/29参照)でハヤカワ・ミステリ文庫「二壜の調味料/ロード・ダンセイニ」を400円で購入し、表1袖に鉛筆で書かれた値段を消してもらい、いつもの書皮をかけていただく。

家に帰って一息ついてから、ある本の捜索に取りかかる。確か居間の古本山脈の何処かに…と朧げな記憶で当たりを付けて、ひたすら居並ぶ古本タワーを下層へ下層へ…。すると案の定、三つめのタワーを最深部まで退けたところで、捜索対象を無事発見する。やった!と喜びつつ、せっかくここまで久々に上の本を退かしたのだ。この際最深部に何があるのかちゃんと確認しておこうと、さらに底部まで掘り下げると、おおっ!「埴谷雄高全集」の別巻と久方ぶりの対面を果たす。全集最終刊の資料集成本で、値段は高い高い9500円(税別)である。2001年の刊行当時に、他の全集は一冊も買っていなかったが、これだけは何としても手に入れなければならないと、思い切ってちゃんと新刊で購入していたのである。なぜなら、その分厚い函の中には、資料集成本とともに、あの超難解ド級陰鬱探偵小説風形而上実験小説の金字塔「死靈」の「近代文學」掲載時の復刻版が、一冊の本としてまとめられ、挿さっていたからである!
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日本の三大奇想探偵小説「黒死館殺人事件」「ドグラ・マグラ」「虚無への供物」の斜め上に恐らく屹立しているであろう、この世界の真理をとことんしつこく独自の思考で追求しまくる「死靈」!この未完の大小説がなければ、竹本健治の「匣の中の失楽」もこの世には生まれていなかった!その「死靈」のオリジナルを、雑誌を綿密に再現した二色刷りで、挿絵も含み四章までを収録している。単行本収録時には手直しが施されているので、これでしか読めない原初のオリジナル版なのである。いやぁ、またこのバージョンで読みたかったんだ。その難解さ故に、突如強暴に襲い来る睡魔と激しく戦いながら、どんなに脳をフル回転させても、決して百パーセント理解出来ない埴谷雄高の崇高で気高く、人生のすべてを費やした独自の思考の記録。恐らく、こちらが今後の人生すべてを賭けて、何度チャレンジしても、同じ挫折を味わうことになるであろう。だがそれでも、これを読み込んだ後に、何か開けるのか待ち構えているのか、馬鹿故にまったく想像つかないのだが、懸命に読み進めれば、何かが脳髄の何処かに痕跡を残すものと信じて、時々眉間に皺を寄せながら、読み返しているのである。せっかく見つけたんだ。これを機に、久々にチャレンジしてみるか…。
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写真は第四章までをまとめた復刻本と、昭和二十四年発行の眞善美社の単行本「死靈」。こちらは第三章までを収録している。
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2017年07月28日

7/28昭和九年の日本寫眞年鑑!

午前十一時からの『東京古書会館』(2010/03/10参照)での打ち合わせに照準を合わせ、早めに水道橋ルートから神保町入りを目指す。大体古本街が動き出す午前十時過ぎに到着し、店頭を覗き込みながら駿河台下まで移動するつもりなのだが、古本パトロールに身を入れ過ぎると、時間はあっという間に過ぎ去り待ち合わせ時間を迎えてしまうこと必至。なので普段よりピンポイント&スピーディーに気になるところをたどるのだが、それでも古書会館に着いたのは時間ギリギリであった。後は打ち合わせ後にじっくり見て回ろう。午前十時台では、まだ開いていないお店もあるからな。「日本書房」(2011/08/24参照)にて学習研究社 中学生名作文庫「たった一日の事件/R・マクドナルド・原作 水沢伸六・文」中学生傑作文庫3「消えた宝石 /E・クィーン(原作)福島正美(文)」を計千円で購入する。「日本書房」でこんな付録本が買えるとは、思いもよらなかった…。さらに「明倫館書店」(2012/04/04参照)ではオリオン社「動物園日記-これは不思議な物語-/林寿郎」を三百円で購入する。

一時間ほどの打ち合わせ後、再び古本の街に解き放たれる。正午過ぎの神保町は、昼食と古本を求める人間たちの坩堝と化している。『神保町交差点』を西に越えたところで、「南海堂書店」(2012/05/08参照)の木製ワゴンに珍しくつかまる。何たってフト目に飛び込んで来たのが、昭和九年の「日本寫眞年鑑」なのである。あまりにも無造作に本の上に置かれているのに驚きながら、写真作品と論考&名簿が半々の、重く大きな本を開いてみる。野島康三・ハナヤ勘兵衛・中山岩太・福原信三・渕上白陽…あぁ、これは買わなければならない。値段を見ると千円だったのでニンマリしながら買わせていただく。朝日新聞社「日本寫眞年鑑 昭和九年版」を購入する。さらにその後も街をぶらつき、『すずらん通り』で骨董関連に強い「風月洞書店」(2013/03/25参照)のワゴンを雑に流していると、右手から風のようなスピードで「こんにちは〜」と言いながら一人の男が接近して来た。慌ててそちらを向くが、男はすでに背後に回り、さらにそちらに首を捻ると、たちまち左手に移動してしまった。身体を反転させて正対すると、風のような男の正体は、本の雑誌社編集長の浜本茂氏であった。ご無沙汰の挨拶を交わしながら「この時間に出勤とはさすが重役」と冷やかすと「家でちゃんと仕事してから来てるんですよぉ〜」と返される。そして「ここ最近十日分ぐらいのブログを一気に読んだんですが…あぁ、気になったのがなんかあったんだよなぁ〜。なんだったけかなぁ〜思い出せないなぁ〜」と路上でパワフルに懊悩し始めた。相変わらず愉快な編集長さんである。そんな突然の出会いがあったため、氏と別れた後も何故か普段はそれほど用の無い「風月洞」ワゴンを丁寧にチェックしてしまう。すると右手の大判本ワゴンの隙間に、妙な気配を湛えた本を発見する。取り出すと、青林堂「櫻画報永久保存版/赤瀬川原平」であった。ダンボール箱付きでビニールカバーはないが、背に付けられた値段は300円!編集長が与えてくれた嬉しい出会いに感謝しながら、長細い店内奥で購入する。久しぶりのパトロールなのに、なかなかの成果を上げられるとは、さすがさすがの神保町であった。

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「日本寫眞年鑑 昭和九年版」。表紙はアールデコ調で、裏表紙はロシア構成主義風のデザイン。
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2017年07月27日

7/27三鷹の跨線橋に陶然とする。

ようやく一息つけるような、涼しい曇り空の下、三鷹駅近くの上連雀一丁目に流れ着く。目の前のフェンスの向こうには、大きな電車庫が広がり、黄色が輝く総武線や、用途の分からぬ特殊車両が、長い身体を線路の上に横たえている。その線路の上を少し見上げると、およそ百メートルの長さを誇る、古く実用的な跨線橋が美しくシンプルな骨組みを、空の中に浮かび上げている。これが、太宰治も愛したという、古い戦前から架かる陸橋か。靴底に削られ、何だか丸みを帯びた礫を含むコンクリ階段を上がると、古いレールをフレームとして再利用した、長い長い橋が、北と南の街をつなげてくれている。橋の真ん中辺りには家族連れが佇み、行き交う列車を飽きもせず眺め続けている。
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橋の南側に渡ると、その階段上がり口に、階段に太宰が佇む写真のある文学説明板がちゃんとある。思わず時空を飛び越え、昭和四年の創建当時まで心身が大胆にも遡ってしまうが、同時にガイナックスの名作オリジナルアニメ『フリクリ』の、ベスパが駒撮りで動き回る実写エンディングが撮影されたのも、ここら辺りの線路際ではなかったかと、思い至る。文学とアニメをしばしの間堪能し、ツラツラ歩いて「水中書店」(2014/01/18参照)へ。日本放送出版協会「趣味の世界8 奇石珍石」講談社文庫「悦楽王/団鬼六」140B「西加奈子と地元の本屋」を計300円で購入。三鷹駅始発の総武線にゆっくり座って阿佐ヶ谷駅へ。「古書 コンコ堂」(2011/06/20参照)にてサンリオSF文庫「流れよ我が涙、と警官は言った/フィリップ・K・デイック」岩波文庫「春昼・春昼後刻/泉鏡花」虫プロ COM名作コミックス「弁慶/手塚治虫」を計515円で購入し、おとなしく家に帰り着く。
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2017年07月25日

7/25 190km離れた古本屋さんの閉店を思う。

今日は久我山の北側に流れ着いたので、重く暑苦しい空気を掻き分けるようにして、ヒタヒタオアシスを求めるように歩き続け、荻窪「田中商店」(2013/07/26参照)にたどり着く。よし、今日はここで古本を買って行こう。頭上では不穏な雷鳴が響き始めたので、蒸し暑く薄暗く古道具の並ぶ店内に慌てて飛び込む。以前と変わらぬ左手前隅の暗がりに、50均文庫&単行本棚が潜んでいる。そこに神経を集中し、下がる古着はちょっと退かし、背の読めぬ本は取り出して明るいところで確認したりもする。河出書房「ダルタニャン色ざんげ/小西茂也譯」を50円で購入する。

…本当は、今日はこんなことをしている場合ではなかったのだ。長野・上田の「斉藤書店」(2010/04/24参照)が本日限りで閉店してしまうので、どうしても駆け付けたかったのだが…。清冽な青空の下、ダラダラと続く大きな坂を上がりるとたどり着ける、青く昭和的に古く静かな広い古本屋さん。店頭頭上に掲げられた『入手困難な貴重な本・珍しい本・定価よりぐんとお安く買える本』に心トキメキ、整頓はされているがわりと雑駁な棚造りが、そのトキメキをさらに加速させ、何かに出会えそうな予感を際限なく肥大させて行く…。私はこのお店で初めて、“掘出し物”を探し当てる体験を味わったのである。それまでは、読みたい本や、ちょっと安い本や、面白そうな本を買うだけの初心者的古本修羅であった。だが、いつかは自分もたくさん読んだ古本本の中にあったスゴい話のように、貴重な本を安く掘り当てたいと、常に思い願っていたあの頃の切ない日々。それがこの店を訪れ、右奥のちょっと安い古書が並ぶ棚の中から、大好きな作家・龍胆寺雄の新鋭文學叢書「放浪時代」を600円で見つけ出したのである。経年の汚れなどはあるが、古賀春江装幀の表紙もキレイ。昭和五年出版の、作家が生きた時代のオリジナル本を手に入れることは、とても重要で興奮する事態である。ついに自分にも掘出し物を見つけたぞ!そう感激すると同時に、古本屋に通い一生懸命探せば、いつかは探し求める本と出会えるんだ!という思いが、強く心に刻み込まれたた瞬間であった。つまり、私のある種の原点が、古本をいつでも貪欲に求めてしまう心が、この「斉藤書店」で生まれてしまったのだ。こんな気持ちを体験し、その後のブックハンティング人生を決定付けた古本屋さんが、今日閉店してしまうのである。慚愧の念に耐えない事態であるが、今は遠い190km離れた東京で、買わせていただき大事にしてる「放浪時代」を手にして、感謝の念を送ることしか出来ぬ、愚かな私なのである。「斉藤書店」さん、本当に長い間ありがとうございました!
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2017年07月22日

7/22一冊の目録から八年前が甦る。

今日は午後三時過ぎに荻窪北側の天沼に流れ着く。熱風に包まれたまま、すっかり衰えてしまった最後の体力を振り絞り、荻窪駅の南側を目指す。線路際に到達すると、おぉ!遥か彼方に暑くてもお客が店頭に群がる「ささま書店」(2008/08/23参照)の姿が臨めるではないか。
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わりと深い線路下の地下道を潜り、店頭棚前着。学研「愉しき夫婦/小島信夫」光風社「悪魔の系図/島田一男」毎日新聞社「新戦後派 野坂昭如 寺山修司 永六輔 野末陳平」流行通信「Studio Voice vol.132 江戸川乱歩-ミステリアス・フリーク」を計630円で購入する。この1980年代丸出しの江戸川乱歩特集は、目次には男装の甲田益也子がモノクロで登場し、次を開くと見開きで車の中で張り込み中の少年探偵風の戸川純がドン!
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その時代でしか出来なかった乱歩の捉え方が、もはやノスタルジーの域に突入してしまっている。乱歩+八十年代の二重のノスタルジーは、偉大なノスタルジー+消費され失われた時代的ノスタルジーとも言え、素敵に軽薄なのだが、妙な相性の良さも紙面からふうわりと立ち上がって来る…。

そのまま勢いで阿佐ヶ谷まで歩き通し、夏の夕方の「古書 コンコ堂」(2011/06/20参照)。
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するとたちまち店頭左脇の雑誌&ビジュアル本箱の中に、「古本 海ねこ」(2012/12/17参照)の古書目録第一号を発見したので、すぐさま店内に飛び込み「今日はこれだけで」と103円を支払い購入する。2009年七月発行で、最初から図版多めで文字ビッシリの、絵本&児童文学に特化した全98ページの気合いの入った目録である。やはり古書絵本の図版は見ているだけでワクワクしてくる。ところが冒頭のこれまた細かい案内文を読んでいると、目録を出す同時期に、「絵本、そして、本にまつわる人形・雑貨たち 古本 海ねこ 6日間限定ショップ」を開くとあるではないか。その瞬間、熱を持ち鈍った脳髄の奥底で、古い記憶が生意気にもスパークする!…そうか、これは青山の「日月堂」さんの隣の、元「銀鈴堂」で限定ショップを開店した時の目録なのか!行った、これ確か最終日に行ったはずだ!(2009/08/01参照)と、ちょっと興奮してしまう。開催期間は7/21〜8/1の飛び飛びの六日間なのだが、ちょうど八年前のことなのである。奇妙な符号に驚きながらも、八年という月日の経つ早さに、しばし唖然としてしまう。
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2017年07月20日

7/20近所で大量の古本を見られるのは?

今日は仕事でほぼ一日中家の中に雪隠詰め…つまりは古本の山に閉じ込められ過ごしているわけだが、昼食後に一時間ほどの間隙を見出して屋外に脱走。そして近場で短時間にたくさんの古本が見られるのは、「本の楽市」(2010/07/18参照)が24日まで開催中の高円寺!そう決めてJR高架下に向かい、強い陽を避けながら直線に高円寺へと向かう。ガッツリ買うと言うよりは、気晴らしの『古本散歩』気分なのである。だがそれでも、買えるものは見つかった方が良いし、それも安く見つかるなら尚更だ。だからたくさんの古本に接する方が、願いが叶う確率は高くなるだろう。そんなことを考えて、まずは「藍書店」(2014/01/14参照)にたどり着く。外壁棚から、茶と珈琲社「寫眞で見るコーヒーの知識」(昭和三十一年発行の、コロンビアのコーヒーを紹介する小冊子。栽培・品種・運送方法・いれ方・最新式ミル&ロースターなどなど)を100円で購入する。続いて同高架下の「都丸書店」(2010/09/21参照)の外棚にも張り付くが、欲しい本&気になる本はみな500円だったので、今日のところはセコくパスする。そのまま駅前を通り越し『座・高円寺』へ向かう。エントランスホールに入ると、二列に縦列するお洒落な古本島のお馴染みの光景が、薄暗いエントランス内に浮かび上がっていた。たまたま補充に来ていた「古書 コンコ堂」天野氏(2011/06/20参照)と挨拶を交わす。今回は「一角文庫」さんも良いのだが、「rhythm_and_books」(2011/08/10参照)さんがだいぶ好み。古書に奇妙なサブカル本…というわけで駸々堂「冗談/滝大作」を500円で購入する。駅方面に引き返して『あづま通り』に入り込み、今日は開いてる「越後屋書店」(2009/05/16参照)へ。家と家との隙間通路壁棚を、隅から隅までじっくり眺め、博通「現代スパイ論/中薗英助」を見つけて、たたまた表に出て来たオヤジさんに100円を支払う。この本、装幀挿絵が中村宏なのでとても不気味。内容は、日本における国際スパイ小説の開拓者による、スパイを通した現代文明論である。これが今日一番のめっけものであろう。それにしても聞いたこともない出版社の『博通』が何だか気になる。まるで『博報堂』と『電通』を合わせたかのような名ではないか。
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2017年07月16日

7/16暑さに挫けて大いに怠ける。

朝から仕事をこなした後、予定をしっかり立てて正午過ぎより外出行動を開始する。色々飛び回るつもりで、駅では『都区内パス』を750円で購入。まずは荻窪に向かい「ささま書店」(2008/08/23参照)で外棚に対峙。それにしても暑い。そして珍しく誰もいない…湿気の籠った暑さに舐られていると、体力とともに思考能力も行動力もグングン低下して行くようだ…。だが幸いにも、青木書店「どれい狩り 快速船・制服 安部公房創作激集」(カバーナシ)東峰書房「随想 鼠の王様/椿八郎」(中野・新井薬師の眼科医であり推理作家の随筆集。巻末に中島河太郎による作品目録アリ)を発見出来たので、ニヤニヤと計210円で購入する。暑さに足を重くし続いて西荻窪に向かい、「盛林堂書房」(2012/01/06参照)で「フォニャルフ」に補充しつつ、晶文社「幻の探偵作家を求めて/鮎川哲也」杉山書店「人形佐七捕物文庫 春色眉かくし/横溝正史」を計200円で購入しながら店主・小野氏と打ち合わせや無駄話などを進め、昨日買った「黄いろい楕圓」を化粧直ししてもらったりしながら冷房の効いた店内で、盛大に楽しくだらしなくだべってしまう。すると、これからの行動予定が涼しい店内から、すべて熱いアスファルトの上にドロリと流れ出てしまい、たちまち雲散霧消してしまった…古本もちゃんと買えたし、今日のところは、予定を返上してもう帰ることにするか。そんな風に怠け心に火を点けて、『都区内パス』が無駄になったことに多少心を痛めながらも、早々に帰宅してしまう…あぁ情けない。
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すると長野県上田市を訪れている南陀楼綾繁氏から、上田の古本屋ルポがメールで届いており、喜ぶとともに、己のだらしなさを大いに反省してしまう。…7/25には閉店してしまう「斉藤書店」(2010/04/24参照)には、どうにかして滑り込みたいものである…そして不定期営業の「ほその書店」(2012/04/30参照)に、たった一度のチャレンジで入れたとは!南陀楼氏はなんというラッキーボーイ!とモニターを前に羨ましがることしきり。やはり古本屋さんは、労を惜しまず足を運んでなんぼの空間なのであろう。
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2017年07月15日

7/15 KITKAT!!

本日は上祖師谷の奥地に漂着したので、住宅街から『祖師谷通り』に脱出して、当然のように「祖師谷書房」(2009/03/05参照)に駆け付ける。どうしたことか店内に迷い込んでいた勇気ある母子と交代するように、極狭の店内へ。そしてそのまま集中的に右側ゾーンの児童文学コーナーを攻め、牧神社「パタシュ星をとる/トリスタン・ドレーム」を300円で購入する。本文挿絵ともに青一色刷りの洒落た児童文学本である。「ありがとうございました」の甲高い聲に送られ表に出て、そのまま通りを下って行くと、「DORAMA祖師ケ谷店」のド派手な100均&五冊400円ワゴンに惹き付けられる。丁寧に各ワゴンに視線を走らせると、ぬっ!創元推理文庫「火葬国風景/海野十三」が紛れてしまっているではないか!と小さく喜ぶ。このようなリサイクル店では、分相応なこのような小さな喜びに巡り会えるものなのだ…と充分に満足して、他に買う本を見出せずにその一冊だけを108円で購入する。
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小田急線に乗り込み、疲労の溜まった身体をシートに落ち着け、ホッと一息。そのままのんべんだらりと新宿に運ばれるはずだったのだが、急に何かのテレパシーを感じ取り、気まぐれに経堂で途中下車してしまう。すると水飲み場に、一羽の鳩がジッと止まっているではないか…水が飲みたいのであろうか。この暑さである。まったく以てしょうがないと、ゆっくり近づいて蛇口を捻ると、鳩は逃げもせずに、流れ出た水に嘴を押し付け、一心不乱に水を吸い始めた。
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おうおう、存分に飲むが良い。その代わり。しっかりと私に渇きを癒した恩返しをするのだぞ。と呪いのような念を鳩に送り、ほどほどのところで蛇口を閉める。そして駅構外に出て、南の商店街の坂を下って「大河堂書店」(2009/03/26参照)へ。店頭で美濃の蜜蜂養蜂業者の小型本を一冊掴んで、店内を徘徊。右から左へと巡り、いまいち色めきたつ本が発見出来なかったので、来たルートをなぞるようにして右側へと戻って行く。あの流氷の絵本でも買って行こうかと、微妙な諦めムードが流れていたところに、通路棚手前側最下段の詩集コーナーにも丁寧に屈みながら目を凝らすと、無造作に本の列の上に突っ込まれていた本に、『北園克衛』の名を見出す!これはっ!と興奮しながら取り出すと、宝文館「北園克衛詩論集 黄いろい楕圓」であった。値段を見ると驚愕の五百円!どひゃっほう、どひゃっほう!と心の中で連呼しながら、ありがたく購入させていただく。これはあの駅にいた鳩の恩返しなのか?いや、最近本当にスゴいぞ「大河堂書店」!!!!!!!そして憧れの垂涎のKITKAT(北園克衛)、どうかこのままお家へおいで下さいませ!
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2017年07月14日

7/14勝地涼のブロマイドが挟まっていた

涼しいうちから能率よく進めて行こうと、早起きして猛烈に仕事する。気温の上昇と競るようにして、どうにか午前十一時前には一段落。昼食後にノンビリした後、猛烈に仕事したご褒美にと古本を買いに外出する。目指すは本日が初日の「五反田遊古会」(2013/01/19参照)である。だが電車に乗っているとき以外は、強烈な日脚にけたぐり回されているような錯覚を覚え、体力をざっくり削り取られて『南部古書会館』に命からがらたどり着く。会館がすでに日影なのにホッとしていると、表の台で「黒死館殺人事件」研究の大家・素天堂氏に声をかけられる。抽選で本が当選したらしく、笑顔である。会場の人影は、すでに嵐が通り過ぎた午後なので、パラパラという感じ。こんなに落ち着いた雰囲気で本を見られるのは、『南部古書会館』では初めての経験である。それにしても今回は、何だかとても古雑誌が多い。安部公房スタジオ上演台本「改訂版 友達 黒い喜劇二幕/安部公房作・演出」を200円で購入し、「古書 赤いドリル」さんと「青聲社」さん(2011/10/17参照)に挨拶し、二階へ移動する。上も雑誌がよく目につく上に、全体的に硬さが漂っている。少し苦しみながらも、河出新書「太宰治の手紙/小山清編」新感線文庫「金田真一耕助之介の冒険」を計800円で購入する。ここでは「月の輪書林」さん(2012/03/29参照)と「古書一路」さん(2013/03/08参照)にご挨拶。

さて、「金田真一耕助之介の冒険」は公演『犬顔家の一族の陰謀』のパンフレット同梱品の、横溝パロディ文庫である。そのパロディレベルはかなり高い上に、執筆陣も戸梶圭太・大倉崇裕・ほしよりこ・笹公人・喜国雅彦など豪華。安く売られているのを見かけたら、ついつい買ってしまう癖がついているのだが、今回の本はいつもとちょっと違っていた。本を開くと、これもパロディ栞が挟まれており(小さく『おしりとしてお使いください』と書かれている…)、さらに古写真風の勝地涼(劇には犬顔家の居候役として出演)のブロマイドが挟み込まれていたのだ…これは今までに見たことのない代物だ。ブロマイドも同梱品なのかどうか不明だが、ちょっと得した気分である。いや、全く必要は無く、正直言って嬉しくはないのだが、ただ何となく得した気分なのである…栞とともに、ちゃんと本に挟んでおくことにしよう。
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2017年07月13日

7/13ラコステと岡田三郎!

本日は夕暮れを迎える前に武蔵境の南に流れ着いたので、これ幸いとまだ高い日に照らされ店頭の本が熱している「浩仁堂」(2011/02/15参照)へ足を運ぶ。その熱い店頭では珍しく何も手に出来ずに、涼しくホッとする店内へ。大好きな児童文学作家・大石真の「ぼくたちの緑の時間」の続編を見つけて喜び、さらに床の木箱からポロシャツで有名なラコステのビジュアルブックを見つけてニンマリ。偕成社「ミス3年2組のたんじょう会・大石真」大沢商会「LACOSTE」計300円で購入する。『LACOSTE』はその歴史と由来から、商品のイラストカタログ+商品用カラーチャートまでを掲載したプロモーションブックである(大沢商会が日本版ラコステを売り始める1986年辺りの出版。ちなみになぜラコステはワニをトレードマークにしているかと言うと、創始者のテニスプレーヤー、ルネ・ラコステがワニのように粘り強く頑固に戦っていたことに由来するそうである…ワニって、粘り強く頑固なのだろうか…。この本は充分楽しんだ後に「Tweed Books」さん(2015/07/10参照)に持ち込むのがベストだろうなぁ…)。疲れてはいるが興が乗って来たので、そのまま強い日射しの下をテクテクトボトボヒタヒタ歩き通し、三鷹の「水中書店」に喘ぎ喘ぎたどり着く。店頭で見つけた学生援護会「POST CARD/安西水丸」名著刊行会さみっと双書「新感覚派の文学世界/紅野敏郎編」を、クーラーの動作音が妙に心地良いリズムを刻んでいるのに気付きながら、計200円で購入する。「新感覚派の文学世界」は、もしや!と思って目次に視線を走らせると、追っかけている岡田三郎のコントについての論考を発見。三鷹でもニンマリ出来たことに満足して、ようやく電車に乗って帰宅する。
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2017年07月12日

7/12春浪の続きを一応探しに行ってみる

午後にひとつの取材を受けた後、そのまま外出継続。先日大阪に新たな古本を大量に送り出したばかりなのだが、まだまだ不足気味なので良さげな本を手配しなければならないのだ。…まったく、私自身が大阪に行きたいのに、本ばかりが大阪に出向いているこの状況…。そしてさらに、先日の「古本まつり」で手に入れた押川春浪「日歐競事 空中大飛行艇」(2017/07/07参照)が、楽しくあっという間に読み進めたことにより、続き物であることが判明してしまう。物語中盤まで、肝心の飛行艇は説明だけでなかなか完成に至らず、妙な痴話話を中心に展開して行くのに大いに戸惑いながら、最後に悪玉博士の飛行艇を追って、善玉の飛行艇が出発するところで、本は終わってしまったのである。巻末の広告を見ると、『世界怪奇譚』シリーズの六遍目に「續空中大飛行艇」があるではないか。これは是が非でも続きを読まなければ!…とは言っても、おいそれと手に入る本ではない。恐ろしいことにその巻末広告の説明文には、これからのストーリーが超短く要約されてネタバレも甚だしいのだが、物語の結末をあっさり知ってしまった今でも、この同じ明治の本で読み耽りたい気持ちは変わらないのである。というわけで、足はまつりで「空中大飛行艇」を出していた武蔵小山の「九曜書房」(2009/03/26参照)へと軽やかに向かっている。いや、片割れがないことは百も承知なのだが、万が一ということもあるかもしれない。見つけたならば、またATMに走って…。蒸されたような熱さの駅前は、珍しく人影が少なく白っぽい。そんな中でも元気に高校球児が練習するグラウンド脇の小道に入り込み、暑さにやられながらお店に到着する。表に出されている本も、かなり熱を帯びてしまっている。二冊掴んで店内に入り、まず麗しの500均棚の観察に入る。相変わらずグッと来る本をさり気なく並べてくれていて、期待を本当に裏切らないなぁ。そう言えば表のウィンドウに、恐らくお店オリジナルのイラストポスターが貼られているのだが、『心をくすぐる古書の店』のキャッチフレーズが書かれ、古書を取り出す白猫が、横から飛び出す三本の虎猫の足に『古書 古書 古書』とくすぐられているのだ。私にとっても、まさにここは『心をくすぐられるお店』であるな!と激しく同意して一冊本を掴み取る。そして左側通路に入って、押川春浪の幻を追いかけ始める。だが春浪本でみつかったのは、博文館文庫の二冊のみ…いや、分かっていたんだ、最初から無いのは。だが大いなる難関ではあるが、いつかは見つけなくちゃならない…しかも、いやどうしても安値で…。ちょっと周りがすっきりした帳場に向かい、講談社少年少女世界探偵小説全集15「ポッツ家の怪事件/クイーン」(カバーナシ)国書刊行会「私が選ぶ国書刊行会の三冊」美術公論社「キキ エコル・ド・パリ追想」を計900円で購入する。
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何だかすでに暑さにめげ始めているが、どうにか気力を振り絞ってもうちょっと古本を買いたいと、高円寺駅で途中下車。だがいつになったら私は、高円寺は水曜定休の古本屋さんが多いことを覚えるのか!と激怒したくなるほどお店のシャッターは下りまくっていた。最後に「あづま通り」に向かうと、午後五時に「古書十五時の犬」(2011/11/22参照)は開店準備を始めており、「越後屋書店」(2009/05/16参照)はなんと臨時休業。残念ながら気力尽き果て、「十五時の犬」の開店さえも待ち切れずに、暑い夕陽を正面から浴びてヒタヒタ帰宅する。
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2017年07月11日

7/11元古本屋さんの写真展を見に行く。

本日流れ着いたのは永福町駅の北側。この後どうしても高円寺に行きたいのだが、東京のへそ『大宮八幡宮』前から出ている京王バスが来るのは二十三分後…よし、歩こう!とテクテクテクテク午後七時の杉並の住宅街を、北に向かって切り裂いて行く。道の途中の松ノ木にて、古本も商うリサイクルショップ「AMANAYA AI2」(2009/06/12参照)に飛び込み、
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若木書房「隼/望月三起也」を200円で購入しつつ、レジ前に置かれた昭和四十年代のガメラのブロマイドが気になったので、店番を任されいたであろうご婦人に、値段について追求する。そのブロマイドには、千円と三百円の異なる値付がされていたのだ。「300円なら買います」と伝えるが、ご婦人はとても嬉しそうに「うわ、値段が二つ、なんでだろ」と笑顔を浮かべまくっている。結局謎は解明されず。店長さんの判断待ちというところに落ち着いたので、「また来てね、その時までに調べときます」と言われる。さらに北へ北へと歩き詰め、途中「アニマル洋子」や「大石書店」の閉店風景を目撃しつつ、駅前の『富士そば』で腹ごしらえをしてから、高架脇の『屋根裏酒場 ペリカン時代』の狭く急な階段を上がる。
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本日から7/29(土)まで、元西荻窪の古本屋さん「なずな屋」(2014/09/24参照)の石丸澄子さんが、『1990年 道東』という写真展を開いているのである。古本屋さんに関することなら、何処までも顔を突っ込んで行こうと酒場の扉を開けると、石丸澄子さんは当然のこと、暢気文庫さんや『三省堂書店 神保町店』のOさんがお出迎え。恐縮しながらみなさんにご挨拶し、壁に貼られた六十枚余のモノクロ写真を、ビールやキューバ・リブレを飲みながら、じっくりと堪能する。ホンダのベンリィに跨がり、北海道を旅した奇蹟である。写真の間間には、原稿用紙に書かれた朴訥な当時の思い出が出現。思えばこの写真を撮っている澄子さんは、まだ「興居島屋」(2008/09/12参照)も開いていない時代なのであるな。無意識なのか、乗物の写真が多い事に気付きつつ、三十分ほどで楽しい酒場を後にする。
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